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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
49日目、私の、なのです
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”抱擁”⑨



(何かは判りませんが……赤の巫女への攻撃と巫女への攻撃が弾かれる……? ならば、巫女を狙うと見せかけてレティシアを――)

「シーアさんも、私は守りたいと、思ってる」

「ッ――!」


 リツカの言葉で自身の考えが間違いではないと理解したゴホルフ。しかし、理解したから何だというのであろう。


 マクゼルト程ではないとはいえ、死に掛けの少女に弾けるはずのない威力の鎖鎌を、まるでピンポン玉を叩き落すかのように弾き落としている。


(鎖鎌が受けた衝撃から考えても……マクゼルトの一撃を想定していますねぇ。つまり、マクゼルトが経験したというアレですか……。魔王様が言うには、魔力を撃ち出し相殺している、でしたねぇ)


 ゴホルフの攻撃は全て弾き落とされる。その結論へ至るのに、時間はかからなかった。


(厄介な……しかし認めねばいけませんねぇ。私は貴女を軽視しすぎたようです)


 どうとでもなる。リツカをそう評していた。しかし手を抜く気はなかったのだ。全力で相手していたはずだが、心の何処かで軽視していた部分が出たのだろう。


(私の不安要素である巫女……そちらに意識が行きすぎていたようですねぇ)


 今のリツカが在るのは、アルレスィアを優先して狙ってしまったからだ。ゴホルフはリツカよりもアルレスィアを警戒している。攻撃をリツカに集中させながらも、計画に必要な分だけアルレスィアを狙えば良かったと、認識を改めた。


(巫女はまだ治療をしているようですねぇ。無理もない。赤の巫女が心配で、集中しきれていないようですからね)

「何をしてくるか解らないという点で、貴女以上はいませんねぇ。全身全霊で貴女を先ず、殺すとしましょう」


 ゴホルフはあえて宣言する。この言葉を素直に受け取るようなリツカではない。アルレスィアに対する攻撃への警戒は絶対に解かない。むしろ、より意識するかもしれない。そういった効果を狙っての事だ。


(貴女が限界なのは良く解りました。もはや押せば倒れる体。魔力による防御も無限ではないでしょう)


 ゴホルフが鎖鎌を取り出す。それを透明化させる姿を見せた。


(……まだ隠している可能性がある、って事? 無意味)


 操作しているのはゴホルフだ。アルレスィアに敵意が向けばリツカは対応出来る。


(時間をかけて私を……? 実際血が足りない所為か……体が重い……どっちにしろ、時間はかけてられない)


 自らの意思が通らない左腕は、もはや痙攣すらしていない。


(次で決める)


 リツカの覚悟を翼が表現する。眩く明滅する様は、これより最大の力を発揮する前兆。


(早くしろ……! こっちももう抑えられねぇぞ……!!)

(……っ…………流石に、疲れてきましたね……! ()()を使うしか……っ)

(レイメイさんとシーアさんも、もう……リッカさま……っ!)


 アルレスィアの焦燥を背に感じながら、リツカは再びゴホルフに斬りかかる。防御を全て翼に任せ、攻撃にのみ専念したリツカの斬撃は鋭い。


「ッ……!」


 首、肩、左足、右腕を斬りつけられたゴホルフは、同時に斬られたと錯覚してしまう。しかし傷は浅く、リツカの追撃も来ない。傷口が塞がるまでの間が――勝負という事らしい。 


(消えようとも、私の背後に――いえ、片腕、でしたねぇ)


 ゴホルフが空を見る。太陽を背に、リツカがゴホルフ目掛けて急降下を敢行していた。片腕というハンデを持っているリツカがゴホルフを両断するには、落下による勢いを利用するしかない。


(その落下速度では、傷が治るほうが早いですよッ!!)


 リツカが斬りつけたのは、片腕のハンデがあるからだとゴホルフは考えた。傷口に渾身の一撃を加え、両断する気なのだと。

 しかし、明らかに高く跳びすぎている。


「アン・ギルィ……トァ・マシュ!!」


 想いを込めたリツカの絶叫を受け、【アン・ギルィ・トァ・マシュ】が形を変える。片翼が一度体へ戻り、刀へと吸収されていく。刀は更に赤みを増していき……赤より赤く、深い赤に染まった刀は、その色を見れないはずのゴホルフにすら死を予感させた。


(疾く……煌く……)


 残った翼が強い光を発する。翼を覆っていた薄い白がリツカの中へと戻り、赤き翼は――爆発した。


(速――ッ! しかし問題ありませんねぇ……ッ!)

「鮮烈な……渾身を――!!」


 翼の爆発を利用し、流星の如き速度でリツカが降って来る。ゴホルフは予感に従い、迎撃態勢を整えていた。傷口が塞がるまでの、刹那の攻防……いや――。


(斬られても良い……その覚悟が、私にないとでも……? 魔王様の懸念通り、貴女は危険です。ならば私は貴女を)


 ゴホルフが鎖鎌を手に取り、リツカへと振るう。技術はいらない。こちらに捨て身で向かってくるリツカに、鎖鎌を当てるだけだ。リツカにはもう、避ける力はない。一撃に全てを込めている。


(首は貴女に差し上げ)


 捨て身。ゴホルフにはリツカがそう見えている。


「な、ん……!?」


 リツカは捨て身など行わない。アルレスィアとの約束は最大限守る。そしてそれは――アルレスィアも同じだ。


「光の……剣……!?」


 ゴホルフに出来た傷口に、”光の剣”が突き刺さっている。いつ刺さったのか。いや、それ以前にいつ発動した? 一体いつから――ライゼルトの治療を終えていた?


 カウンターを狙っていたが、傷口全てに”光の剣”は刺さっている。()()()()()()()()のだ。


「……っ輝けぇぇぇぇ!!!」


 服の刺繍と瞳、刀を赤光で煌かせ、リツカの一撃は……硬質化を”拒絶”され、ほんの一瞬人へと戻ったゴホルフの首へと――吸い込まれていった。




(まだ……っ)


 途切れそうな意識を必死で繋ぎ止め、リツカはゴホルフを注視する。まだ、絶命を確認していない。


(確かめ……ない、と……)


 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】は最後の一撃と共に輝き、消えていった。だからリツカの腕からは再び、命の雫が流れ落ちていく。その一滴が、リツカの死へのカウントダウン。しかし……リツカはまだ、刀を離さない。


「ぁ……」


 足が縺れ、倒れる。しかし、地面は……一向に近づかなかった。


「後は……私が……」

「……ありが……と……」


 リツカを支えたアルレスィアが、涙を滲ませた声でリツカに優しく告げる。子守唄を聞いた子供のように、リツカは目を閉じ……体から力を抜いていった。


私の愛(【リーヴ・)で癒せ(ハイロ・)、光よ(フラス】)()分け与(【ズ・タィル】)え救え(・オルイグナス)……」

(あれは……血を分け与えた魔法ですね……。発動条件が整ったという事でしょうか。とにかく、リツカお姉さんも大丈夫そうです)


 二度と使えないかもしれないと言っていた、輸血を可能とする魔法。それと”治癒”により、リツカを治していく。


「サボリさんはお師匠さんを船に運んでくださイ。私は動かなくなった雑兵を片付けまス」

「ああ。運び終わったら戻る」


 ウィンツェッツもレティシアも、少なからず傷ついている。完全に無傷とはいかなかった。しかし、まだ終わっていない。最後の力を振り絞り、二人も後処理に勤しむ。ゴホルフの首が跳んだ事で、マリスタザリアは活動を停止している。やるなら今だ。


「おい巫女」


 ライゼルトを肩に担ぎ、ウィンツェッツがアルレスィアの近くまでやってくる。片手にはまだ、抜き身の刀が握られている。


「リッカさまは私が運びます」

「分ぁってる。お前ぇも船に来い。赤ぇのの意識、ねぇんだろ」

「……今日中には、起きれます」


 リツカの刀を鞘に納め、アルレスィアはリツカを抱かかえる。少し足元が覚束無いのは、リツカに血を分け与えたからだろう。アルレスィアも、【アン・ギルィ・トァ・マシュ】を使っている。ライゼルトの治療と、ゴホルフから悪意を剥離するための”光の剣”の使用で、魔力が枯渇気味だ。その状態でリツカの治療と輸血をした。外傷はなくとも、汗が滲んでいる。


 しかし、こんな戦場に長く居るのは得策ではない。すぐに出航出来る様に準備を進める。マリスタザリアを迅速に掃討し、町の近くまで移動する。必要ならば、ノイスまで戻る必要があるだろう。ライゼルトもリツカも、重傷なのだから。

 


 首のないゴホルフは、沈黙している。レティシアもウィンツェッツも気に留めていない。


(…………そろそろ、良いですかねぇ)


 その時、動くはずのないゴホルフの目が……ギョロリと動いた。



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