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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
6日目、私は弱かったのです
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二人の王国生活⑥



 呼び出しがあるまで待つことになりました。


 ざわつく利用者達のひしめくロビーの一画で、アリスさんと隣り合って座っています。


「この数ですと、抽選になってしまうかもしれませんね」

「抽選かー、どんな人が選ばれやすいんだろう。やっぱり筋骨隆々な強そうな人かな?」


 アリスさんが周りを見回しています。


 選ぶなら、見た目で強い人の方が良いですよね。冒険者がこの王都でどんな立ち居地なのかは分かりませんけど、マリスタザリアと戦って街を守る存在なのです。その立ち姿一つで平和を体現しなければいけません。


 強そうな人が堂々と歩く。その姿は安心感を生むはずです。


「強い人が選ばれるのは、ありそうですね。そうなると私は危ないです……」


 アリスさんも不安なようです。


「でも、アリスさんは巫女として有名だし。大丈夫じゃないかなぁ」


 アリスさんが王国公認の冒険者になれば、それだけで士気が上がりそうなものです。


「マリスタザリア対策のための公募ですから……まずは単純に戦闘力高い人からではないかと。陛下に話したのが昨日ですから、まだ私たちのことは伝わってないはずです」


 たぶん陛下の話を待ってからくれば、受かってしまうのでしょう。


「でも、あまり陛下の威光に頼りすぎるのはね……」


 これだけの人が公募を受け、参加するためにここにいるのです。鳴り物入りでやってきて、陛下のお墨付きだぞー。なんて、反発があるにきまってます。


「選考落ちしたら、一般で地道に力つけながら、人助け、だね」


 一般募集のほうでは、国民の依頼が多く用意されているそうです。国民の心に余裕が生まれれば、少しは負の感情も緩和されるでしょう。


「はい」


 笑顔で応えてくれるアリスさん。


 焦りはなくはないです。焦っています。でも、急いでも仕方がない事もあります。人助けがそれです。多少遠回りでも、人の為になるのであれば、何でも受け入れましょう。


 幸せな、ゆっくりとした一時が流れていきます。



「アルレスィア・ソレ・クレイドル様、ロクハナリツカ様。どうぞ」


 私たちの番のようです。私たちの名前が呼ばれると、ロビーの空気が静まりました。いえ――私たち、ではないですね。


(アリスさんの名前って知らない人いないんじゃないかな)


 ”巫女”として、幼き日より世界のためにその身を捧げていた少女。きっと、多くの人の耳に入り、敬われていたことでしょう。


(昨日も、アリスさんに助けられたしね。……反省反省)

「リッカさま。参りましょう」


 アリスさんが先に立ち上がり、私に手を差し伸べてくれます。私はその手をとります。アリスさんをこれ以上、私情で振り回してはいけません。自制しなければ。


「うん、いこう」


 前に進みます。確実な一歩を。



「大変申し訳ございません。此度の募集に対して、希望者の数があまりにも多く」


 一般ルートかな? と、アリスさんと目を見合わせます。


「そのことを、担当へ伝えましたところ。先着順ではなく、より優秀な冒険者を募るために、試験方式を取る事となりました」


 なるほど、戦いは命がけです。軽い気持ちの人もいるかもしれません。


 どのような試験かは分かりませんけれど、そういった人を先に排除するのは犠牲者を増やさずにすみますね。

 納得できます。


 ただし、その流れは決まっていたのではないでしょうか。試験方式に反発が出ないようにする為の方便のようにも聞こえます。


「試験内容は、どんなものでしょう」


 アリスさんが内容を確認します。方便であろうとも、試験というのならば受けます。実力主義で、命懸けの冒険者なのですから。


「はい、これより明日の日が落ちきるまでの間に、マリスタザリア一頭、またはそれに匹敵する害獣の駆除となります」


 これが害獣のリストです。と渡されたものには、熊や鮫、それと同等以上と思われる、聞いた事のない動物の名前が羅列されていました。


「マリスタザリアを討伐された方は、無条件で選任枠となります」


 害獣のほうは危険度、その害獣が出た場所などを加味するようです。


 熊が村の近くにいて、すでに犠牲者が出ていた。ということであれば、高い評価が得られるといった感じです。


 冒険者は人のために戦うもの達。ただのならず者であってはならない。ということでしょう。


「わかりました。では、すぐにとりかかります」


 アリスさんが受け取って、私たちはギルドを後にしました。



 募集の段階で、マリスタザリアの数を減らせる。効率的ではありますけれど……。


「何人が、マリスタザリアと対等に戦えるんだろう……」


 オルテさんは油断してなければ、あのホルスターンには負けなかったと、思います。数回しか剣をあわせませんでしたが、あのホルスターンには負けないと思いました。


 実戦経験を含めれば、私でもオルテさんには勝てるかどうか。そのオルテさんが油断していたとはいえ、蹂躙されていました。


 少なくとも昨日の武器屋に居た数名はダメでしょう。()()を除いては。


「一対一で勝てるのは、多くはありません」


 アリスさんが思いつめたように、つぶやきます。


 魔法の相性、本人の力量、油断の有無、覚悟。どれも噛み合ってやっと倒せる。そんな、化け物。犠牲は……確実にでます。


「……今は、自分たちのことを考えよう。参加者は、覚悟してるんだから」


 覚悟がないものは、戦場に立ってはいけません。残酷ではありますけれど……ここからは、そういう世界なのです。


 そう、理解は……しているのです。



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