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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
49日目、私の、なのです
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『ボフ』再び③



 ボフは、平凡な村みたいです。壁もなければ、遮蔽物すらありません。特色らしい特色は今の所見えません。ミゅルハデアルと名無しの国の丁度間に位置しており、ノイスからは結構離れています。傭兵を雇えるようなお金があるようにも、見えません。


「大丈夫なんですかネ」

「人が少ないですから、マリスタザリアが襲うとしたらミュルハデアルや名無しの国になるのではないでしょうか」

「地下施設もあるみたい。トぅリアと一緒で、教会から入れるのかも」


 この何もない村の中で、唯一目立つ建物があります。トぅリアの物よりも近代的な、大理石のような石で作られた教会です。このボフの信仰度は丸ですから、教会が立っていてもおかしくありません。


「あんな立派な教会あるし、もしかしてお金持ちとか……?」

「質素な生活を心がけているのかもしれませんね」


 必要以上の贅沢は心を太らせると言います。余り良い印象がないと、私は思っています。必要な物を必要なだけ。それでも人生は充実すると信じています。


「もしくハ、元貴族が隠れているかですネ」


 シーアさんの貴族嫌いの理由は、ノイス等で起きた元老院関係でよく分かりました。確かに、嫌いになってもおかしくないですし、憤りも尤もです。


「王国調べで元貴族の動向は分かってますけド、中には買収したり賄賂を渡したりして忽然と居なくなるという場合があったそうでス」

「見苦しいって感じちゃうのは、潔癖すぎる、かな?」


 意地汚いです。散々国民から搾り取ってきておいて、自分が取られる立場になったらどこまでも逃げる。そんなの、ズルいです。


「一度手に入れた栄光を手放したくないのでしょう。それは分かりますけれど、私もリッカさまと同じ考えです。王国からの指示は財を全て手放すという物ではなかったはずですから、意地汚いと思います」

「ですネ。表向きは全額徴収という形ですけド、実際に全部取られた人は居ませン」


 まだ貴族が居ると決まった訳ではありません。しかし、村に不釣合いな教会と穏やかで余裕のある村民の表情。このご時勢、この過酷な北部において少し……違和感を感じるのです。平時であればこの村が普通なのですけど、今だけは違うと言わざるを得ません。


「……」

「分かってます。首を突っ込んだりしませんよ」

「そのような目で見ずとも、リッカさまはしっかりと約束を守っているはずですけれど」


 レイメイさんが私を見ていました。村の状況は気になりますけど、首を突っ込むような状況ではないのです。平和を堪能しているともいえる村で、私が出来る事は何もありません。喜ばしいと思うと同時に、すぐにボフでの用事を終える事が出来ると前向きに考えています。


「何かしら挽回できないト、サボリさんは強気に出れませんヨ」

「うっせ。酒を制限されたんだ。もうねぇよ」

「何て情けない強がりなんでしょうネ」


 完全にレイメイさんの立場がなくなってしまっています。いつものじゃれ合いの延長っぽいですし、擁護する必要はなさそうです。

 なので、そろそろ村へ降りましょう。


 それにしても……教会に村人全員入れそうですね。


「この広さならば、歩きながらの通常感知で良さそうです」

「うん。村長さん辺りに話を聞きたいかな」


 広域を使うような広さではないです。人も多くないのですから、聞き込み中に終わらせます。


「二手に別れる必要もなさそうですネ。サボリさんは船番でス」

「ああ?」

「何でス。挽回したかったんですカ?」

「そこまで切羽詰ってねぇ」

「じゃあ船番でス。急いで出発する必要があるかもしれませんしネ」


 シーアさんが警戒するのも分かります。でも、そうならないように動くのが一番です。歓迎はされずとも、厄介者として追い出されるのだけは……落ち込んでしまいます。


 私の心情はさておき、船から降りて行動を開始します。シーアさんは王国の元貴族が居るかもと言っていましたけど、もしかしたら皇家かもしれないと、少しだけ期待しています。ただそうなった場合、カルメさんはデぃモヌにどっぷりという事に……。


「カルメさんがデぃモヌ信徒になってたらどうしよう……」

「大丈夫と思いたいですけど……」

「カルメさんは一癖も二癖もあると言ってましたシ、すんなりといくとは思ってませン」


 そうなんです、よね。カルラさんが何故か気をつけるように言ってたんですよね。詳細までは教えて貰えませんでしたけど、何か問題があるのは間違いありません。


「少なくとも”巫女”を蔑ろにはしませんヨ。”巫女”の意味は知っているでしょうかラ」

「それだと、安心かな……?」

「心配性ですネ」

「当然の懸念です。ディモヌにのめり込んでしまっている方達は、私達”巫女”を敵視している傾向があります。そうなってしまうと、カルメさんと話す機会すら失ってしまうかもしれません」


 カルメさんはカルラさんより早く王国に来ています。少しでも王国の事を調べようと思ったなら、私達の事は結構簡単に調べがつきます。王都周辺に耳と目を傾けるだけで良いのです。カルラさんとの約束を果たす為に、カルメさんにカルラさんの想いを伝えなくては。


「まァ、まずは見つけるのが先でス。村長の所に行きましょウ」

「うん」

「教会を目指していけば、どこかで出会えると思います。礼拝は毎日行われているでしょうから」

「じゃあまずは教会に行きながら感知していこっか」


 村の様子も気になります。雰囲気だけは柔らかいのですけど、やはり表情を見てこその実情というものです。


 


 ミゅルハデアルでは殆ど感じなかった、いつもの視線があります。どこの視線と近いかと言われると、フぇルトでしょうか。また天使って言われてしまうんですかね……。


(神さまの天使なら、その通りって思えるけど……)


 ツルカさんの天使だと、複雑な感情が湧いてきます。


「ん……?」


 教会の中から違和感があります。


「教会の中に、何かあるね」

「悪意ではないんでス?」

「私では感じない違和感のようです。それでもリッカさまの感覚ならば、注意して探った方が良いですね」


 悪い予感が外れた事は、そう多くありません。杞憂ならばそれで良いのです。まずは教会に近づきましょう。


「村人の方達も教会に用があるみたいです。丁度礼拝の時なのかもしれません」

「参加する訳にはいかないから、待つ?」


 いくら身分を隠しているとはいえ、他宗教の礼拝に参加するのはよろしくないと思います。


「礼拝ならばそんなに時間はかからないと思います。暫く様子を見ましょう」

「うん」


 招かれざる客である私達の存在を気にしながらも、教会の中にどんどん入っていきます。神父、というか司祭というか、そういった人は見えませんでした。もしかしたら、中にあった違和感は神父役の物かもしれません。


「とりあえずではありますけド、教会に入って行く人達の中にカルメさんらしき人は居ませんでしたネ」

「そうだね。村の中に人はもう居ないし、教会の中にあった気配は一つで男性だったから」

「カルメさんは居ないようです」


 カルメさんがデぃモヌを信仰しているわけではありませんでした。そうなると、やはり貴族?


「近くで見ると余計に感じますネ」

「すごく、立派な教会。これだけで観光地に出来そうだよ」

「はい。他の町村からも、礼拝に来そうなくらい立派な物です」


 礼拝が終わったら、中に入ってみましょう。内装も気になってしまいます。本当は教会の中に入る事すら、デぃモヌ的には許されない事なのでしょうけど、ね。


「教祖が建てたって訳じゃ、ないよね」

「木製や石、レンガといった物ではありませんから、個人的な物ではないかと」

「他の町にあった教会は木材や石材が主でしたネ。ディモヌのツルカさんという方が居たところではどうだったんでス?」

「ツルカさんは、なんていうのかな……祠みたいな?」

「そうですね。神の代行者として奉られていましたから、教会ではなく祭壇のようでした」


 礼拝の時以外は閉ざされた部屋で一人、罪悪感と正当化の間で苦しんでいました。生活の為に仕方ないといっても、人を騙す行為に苦しんでいたのです。教祖に見つからなければ、デぃモヌに仕立て上げられなければ、質素ながらも……いえ、これは妄想ですね。ツルカさんにとって今こそが全てなのですから。もしもは、いりません。


「お金をかけて、作ってるよ。この大理石製……」

「シーアさんの予想、当たっているかもしれませんね」

「余り会いたくないでス」


 そうは言ってられないのです。何しろその貴族と思われる人物に、問題があるかもしれないのですから。



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