二人の王国生活⑤
A,C, 27/03/01
ギルド本部へ向かう最中、子供が親に怒られていました。
「こぉら。我侭言ってると、我侭おばけが襲ってくるわよ」
子供がえー。と愚図りながらも、学校へ向かっているようです。
(この世界だと、しゃれにならないのかなぁ)
負の感情で生み出される悪意の結晶たるマリスタザリア。恐怖嫉妬怒り悲しみ苦しみ、我侭なども含むのでしょう。
私の居た国にも、雷様の伝承などありましたが……。
(こっちだと、本当に襲ってくるだろうしね……)
その光景を見ていると、ある二人を思い出してしまいました。
「リッカさま?」
アリスさんが、私の見ていた方向を見ながら首を傾げています。
「ん、えっとね、エカルトくんとエルケちゃんどうしてるかなって。あの子見てたら、ちょっと気になっちゃった」
あの集落で二日という短い間で出来た数少ない友人。気になってしまうのも、無理ありません。
「二人なら、しっかりと毎日を過ごしてくれますよ」
アリスさんもあの二人を気にしているのか、少しだけ困ったように微笑みました。それでも、アリスさんは信じているようです。二人が強く生きてるであろうことを。
「うん。そうだね」
それなら、私も信じましょう。私たちが無事に帰るまで、集落で待っていてくれると。
ギルド、様々な組合の総括です。
私たちがこれから所属しようとしているのは、その中の一つである冒険者組合。元々は本当の意味での冒険者が作ったものですけれど、今や冒険は少なく、依頼メインの便利屋ですね。私の得意分野です。
依頼を集め、それを冒険者へ斡旋する。落し物捜索から、マリスタザリア討伐まで幅広く。それが冒険者組合の役割みたいです。
そして、本来であれば依頼者がお金を払いますけれど――マリスタザリアの依頼だけは、国から報酬が支払われます。
「マリスタザリアの依頼どれくらい出てるんだろう」
今までは発生直後の生まれたてを狩りましたが、これからは成長したものもいるでしょう。気を引き締めます。……っ。
「数まではわかりませんけれど……多いのは、確かです」
「神さまが、増えてるって言ってたもんね……」
「はい。それに……先日出た馬のマリスタザリアにしても、発生場所は人の少ない場所でした。二体目の発生も、負の感情が膨れ上がったとはいえ予想よりも純度の高い悪意でした。異常発生も納得の現象だったと思います」
多くの依頼があると、覚悟すべきでしょう。とアリスさんと共に意識を切り替えます。一瞬の油断が命取りの、本物の戦場です。私の技能全てを駆使する必要があります。
「一つずつ、確実に攻略していこう。希望が生まれれば、マリスタザリアも減るはずだから」
私たちが、希望になるのです。悪意が世界を包み込む前に……。
「次のお客様。どうぞ」
ギルド本部で登録をしようと思ったら、かなりの人が登録にきていました。丁度、冒険者志望っぽい人が受付に向かっています。
「結構、登録者多いね? どうしたんだろう」
「恐らく、マリスタザリア増加に際して、冒険者の王国選任枠が増えたのではないかと……」
なるほど。
「急がないと、枠なくなっちゃうかな?」
一般枠でもいいでしょうけれど、選任になると優先してマリスタザリア討伐任務が来るようです。一人でも多く救いたいので、選任の方を希望したい所です。
「そうですね。では今度は、私が行きましょう」
アリスさんがホテルのときのお返しです。と笑顔で言って受付にいきました。
(一応私も、近くにいたほうがいいかな)
「ごめんください。冒険者登録に来ました」
アリスさんが受付に話しかけました。
「はい、ではこちらの書類に記入をお願いします」
そう言われ、書類を渡されます。
「ニ名なので、もう一枚いただけますか?」
アリスさんが私の分もいただこうと告げます。
「四名分名前を書く欄がございますので、ペア登録にチェックを入れましてご記入お願いします」
見れば、名前を書く欄と思われるのがいくつかありました。チェックを入れる部分には、三つ程の項目があります。多分、ペア、トリオ、カルテットでしょうか。四人パーティが基本みたいですね。回りの参加者も、複数人での希望が主みたいです。
「かしこまりました。ありがとうございます」
アリスさんが一礼し、私の元に駆け寄ってきます。
周りの男性たちが、そんなアリスさんを見てますね。アリスさんにはフードつきのマントを渡したほうがいいかもしれません。こう毎回注目されてはアリスさんも落ち着かないでしょう。
とりあえず今は私が睨み返しておきます。
(でも”巫女”として人々の心に安寧をもたらす存在……。姿は見せたほうがいいよね)
私の中で葛藤が生まれますけれど、アリスさんは気にしてないようなので、マントのことは心に仕舞いこみました。
「リッカさま。お待たせしまいした」
そう言って、私にも見えるように登録用紙を見せてくれます。
(字が読めないのは致命的かな)
どこに何を書けばいいのかわかりません。
「では、私が記入しますね?」
「うん、ありがとう。アリスさん」
アリスさんは私がこの世界の字を扱えないのを知っているので提案してくれます。
アリスさんの心遣いに、これから起こるであろう戦いの予感に落ち着かなかった私の心が温かくなります。
「はいっ」
アリスさんの笑顔に周りの男性が息をのみました。もう一度、今度はしっかりと怒気を込めて視線をぶつけます。
(巫女のルール的にあの男性たちから襲われることは、ないだろうけど……)
男はケダモノであると、知っています。もしもの時は私は鬼になる覚悟です。
「? では、記入していきますね」
アリスさんがスラスラと記入していっています。どんな項目があるのか判りません。しかし、ある一項目を書く時に少し頬を赤らめて止まっていました。
私が首を傾げると慌てて、再びスラスラと書き始めましたけれど……何の項目だったのでしょう。
「できました。住居の欄はあとから変更できますので、ひとまずは神林集落の私の家にしておきました。問題はありませんか?」
「うん、問題ないよ」
一緒の住まいという事に、私は再び正体不明のトキメキを感じます。そういえば、こういった書類って誕生……っ
(いたっ……何? 今の)
何か、考えてたような……。頭を押さえ、思案します。
「……っ」
アリスさんも何か頭を押さえ?
「大丈夫?アリスさん」
痛そうにしているアリスさんに話しかけます。
「はい、少し痛みが……。でも、もう大丈夫みたいです」
「よかった。じゃあ書類もっていこっか?」
アリスさんの顔に笑顔が戻ったので、私も安堵します。何を考えていたかすっかり忘れ提案しました。
「はい、いきましょう」
アリスさんと一緒に、受付に歩いていきます。
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