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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
48日目、天使ではないのです
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『ミゅルハデアルとミゅス』姉弟村③



 ミゅルハデアル東は、収監所があるという情報から察した通りの場所でした。


(監視塔?)

(それと裁判所に……処刑場、ですね)


 西側の居住区に反して、こちらはあからさまな様相です。こちら側が表なのでしょう。


「あの中に入る際は、フレーデグンデさんに一声かければ良いのですね」

「そうだ」


 アリスさんが、見張り役であるダニエラさんの注意を引いてくれている間に、私は広域で東を調べます。結果だけいえば、いつも通りです。悪意等、欠片もありません。


(こういった場所の悪意は、好物だよね)

(そうですね……。ハーメンもそうでしたから)


 アリスさんの言う通り、収容所等の悪意は魔王の好物だと思います。わざわざハーメンを餌場にしていたのですから。


「ダニエラさんは、黒髪の少女を見ませんでしたか。雅な雰囲気を纏っていて、一目で美人と思ってしまう少女です」

「この町に来た不審者は全員私が止めている。間違いなく来ていない」

(こいつ等に美人と言われる程の少女等、忘れるはずが無い。私は見ていない)


 門番の役割もしているというダニエラさんが見ていないというのであれば、この町にカルメさんは来ていないのでしょう。この町の人がカルメさんを隠す理由もありません。


「長居するのも悪いし、戻ろっか」

「はい」

「……? 見なくて良いのか」


 ダニエラさんが堪らずといった様子で、私達に尋ねました。東に入って、ちょっと話しただけですから、怪しまれても仕方ないですね。


「フレーデグンデさんに聞いた時点で、目的は果たしていました」

「ここに来たのは、収監所というのがどういった物なのか気になっただけなんです」


 広域感知なんて言っても理解されませんし、何でそんな事をしたのかも言えません。収監所がどういった雰囲気なのかは気になっていましたし、丸々嘘という訳ではありません。


「この町が、そんなに気になるのか……?」

「はい」

「気分を悪くしてしまうかもしれませんけど、ここまで管理された町は、その……ありませんから」

「……そうだな」


 何も知らずに、今を享受している訳ではないようです。それも、そうでしょうか。ここに居る人たちは全員、別の町に居た人達のはずです。ここ数年で出来たであろうミゅルハデアルに移住した人達が主だと思います。


「元々、こんな町ではなかった」


 まさか、話してくれるとは思いませんでした。この町に不満があるという訳ではなく、理解して欲しいといった感じです。


「自由もそれなりにあり、閉鎖的ではなかった。管理は行き届いていたが……」

「化け物、マリスタザリアの被害はなかったのですか?」

「見ての通り、我々は王国兵達と遜色無い程の軍を有している。ある程度は対処出来る。ディモヌ様からの支援もあるのでな」


 今ほど管理されている訳ではなかったそうです。そんな状況から今に至るまでに、何があったのでしょう。


「お前達も、もう分かっているだろう。ミュスとの関係について」

「はい。何かあったのですか?」

「ミュスの首領と我等の長は、姉弟なのだ」

「姉弟で二つの町の管理を?」

「元々ミュスなど無かった。弟君が新に作った町でしかない」

「つまり、姉と弟で……」

「喧嘩をしている、という事ですか?」

「そうだ」


 町を巻き込んでの喧嘩。はた迷惑な話ですけど、ダニエラさんの表情にそういった感情は見えません。理不尽な喧嘩に巻き込まれて、どうして不満が出ないのでしょう。


「これはミュスの民も同じだろうが、我々の平和があるのは長のお陰だ。長の行いに不満など無い」


 フレーデグンデさんは皆を引っ張っていける人でした。強さも、選任冒険者になれる物を持っていると感じました。姉弟喧嘩くらい関係ないほどのカリスマ性があるのでしょうか。


「我々は安定した生活をしている。王都が気にすることはない」


 私達が気にする事ではない。ではなく、王都が気にすることはない、です。王都の選任である私達はいわば、国王の命を受けた者です。そんな私達に理解してもらう事で、正式な町として王都に伝えろという事を言われてしまいました。


「用事を終えたのならばすぐに立ち去ると良い。そろそろ向こうも動き出す頃合だ」


 今から、ミゅスと何かあるようです。気になりますけど、丁度二つの町の間にある船が心配です。一度戻りましょう。




 船に戻ると、シーアさんとレイメイさんが既に戻っていました。何か疲れた様子ですけれど、向こうでは何があったのでしょう。


「そちらは大丈夫でしたカ」

「うん。そっちは、何かあったの?」

「そうですネ。サボリさんを酒席に呼ぼうとしたリ」

「コイツの頭を異常に撫でようとする阿呆」

「すぐに喧嘩を始めようとするお馬鹿とかですヨ。そちらはどうだったんでス?」


 向こうは、こちらと違って酷い有様だったようです。私達が行った町の説明をすると、全くの正反対さに驚いている様子でした。


「まァ、お二人がこちらに行かなくて良かったですヨ」

「まぁな」

「良くも悪くも奔放でス。酒の力でお二人に不埒を働かれたら堪ったものではありませン」


 向こうには、行かない方が良さそうですね。長い戦闘を経て、ならず者相手ならば何人に囲まれても対処出来る自信はあります。しかし、荒事になると分かっていて行く必要はありません。シーアさん達の様子からして、向こうにカルメさんは居ないようですしね。


「しかし、これではっきりしましたね」

「うん。抑圧されるのが嫌だった弟は、姉の下から離れて小さな町を作った、と」

「そして、弟と同じく嫌気がさしていた人もミュスに移ったのでしょう」

「何で敵対してるんだろ?」


 綺麗に二つに別れて、違う生活をしています。絡む必要はないと思うのです。


「それはこちらのお馬鹿達が言ってましたヨ。土地と人が欲しいみたいでス」

「自由にやるにも、人手と土地は居るんだと。人が増えりゃノイスへの傭兵家業に参入出来るしな」

「吸収したい弟と、吸収されたくない姉との喧嘩、かな」


 はた迷惑な姉弟喧嘩は、小さな戦争の様相を呈しているようです。話し合いで解決は出来ないのでしょうね。


 姉側の言い分として、管理の果てに平和があると思っています。自由を許せば、咄嗟の判断に澱みが出るという事でしょう。そして弟は、そんな管理に嫌気がさし、別の町を作ったと。


 そんな経緯があるのです。お互い歩み寄る事は出来ないはずです。どちらか折れれば良いだけの話ではありません。姉は町民の為に引かず、弟は一度始めた闘争と手に入れた自由を手放せません。


 どちらの支配下が良いかを私達が判断できるはずもありません。


「人と土地が目当てならば、殺しはないと判断しますけれど、どうでしょう」

「私は、素通りしても良いと、思う」


 マリスタザリアや宗教が関係している訳ではありません。姉弟の意地の張り合いに付き合える時間は……ない、ですよね。


「始まりますヨ」


 ミゅルハデアルで感じた闘争の気配。その正体が目の前で起きています。ミゅスから侵攻してきた人達と防衛するミゅルハデアル軍。白熱した魔法の応酬が繰り広げられています。しかし、怪我人は出ても死人は出ない雰囲気です。


 根底に、殺しをすれば姉弟喧嘩でなくなるという物があるのです。こうやって陣取りゲームを続けるのでしょう。どちらかが折れるまで、ずっと。巻き込まれる前に、離れましょう。


(リツカお姉さんが迷っている間にさくっと出発しましょう)

「出しますヨ。サボリさン」

「ああ」


 お酒が抜けたのか、レイメイさんの顔がシャキッとしています。とりあえず次の町では、探索を任せても良さそうですね。


「リッカさま……」

「ん……。大丈夫。行こう?」

「……はい」


 死人は出ずとも、人は傷つき、後遺症に苦しむ人達は出てきます。でも、解決に時間がかかりすぎます。人の心を変えるのは容易ではありません。喜々として闘争を繰り広げている人なんか、特には。


 ミゅスの人間はまるで、遊びかの如く戦っています。ミゅルハデアルでダニエラさんが、「そろそろ」と言っていました。つまり、ほぼ決まった時間にやってくるという事です。


 ゲーム感覚で闘争をする人間の心を変えるのは、私には出来ません。妥協します。旅の中で解決法を思い付けば良いのですけど……そんな暇、ありますかね……?



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