『ミゅルハデアルとミゅス』姉弟村②
「許可が下りた。まずは町長の所に行ってもらう」
「はい」
それは願っても無い申し出です。神隠しとカルメさんの事、ズーガンで久しぶりに見たアイフぉーリの確認が出来ます。
「その、どうしてそんなに向こうの町を警戒して――」
「許可はしたが、詮索はしないでもらいたい」
「……分かりました」
率先して首を突っ込むつもりはないので、詮索するなというのであればそうします。
しかしこの町は、静かですね。全員が規則正しい生活を心がけているようで、活気はないものの安定しています。驚いたのは、どの町にも居るはずの……肥満体型の人が居ないこと。少し怪しいです。徹底管理が施されている気配がします。
私達に突き刺さる何時もの視線も、ありません。無いのが良いのですけど、あの視線がない時は大抵、良い事になりません。私達への興味どうこうではなく、他人に興味を持たない、持ってはいけない?
「ここだ。入れ。無駄な事はするなよ」
「はい」
何というか、軍人然とした女性です。女性を矢面に立て油断を、と思っていましたけど、違いますね。ここの兵達のリーダーは間違いなく、この人です。アンネさんとは別の方向で有能です。
屋内も静かで、装飾も少なく質素。重厚な壁に囲まれ、最小限の人員が配置されているのみです。要塞、ですね。町が壁に囲まれていないので圧迫感こそありませんでしたけど、息の詰まりそうな町の雰囲気は感じています。
(楽しく、なさそう)
(安全が確保された町であるはずなのに、ここまで活気を抑え込まれて……一体何が起きているのか、私も少し気になります)
(そうだね……。敵対してるっぽいミゅスもそうなのかな)
(分かりませんけれど、同じであれば町を二分する必要がありませんから、違うのではないかと)
(あっ……そっか)
流石に、アリスさんも気になってきています。この徹底管理の先に何があるのか、ミゅスとの関係、町長の狙い……どれも、想像出来ません。
そんな町長は、この扉の向こうです。入りましょう。
「失礼します」
「入りなさい」
驚いた事に、女性の声です。
「お前達か、選任冒険者というのは」
「はい」
入るなり、私達の身分証明を求められました。しかし、証明書を出そうと伸びた手を制されます。
「その武器をそこに置きなさい」
「……」
「どうした?」
「いえ」
この国の人間では珍しく、刀を警戒しています。それが普通の反応ですけど、新鮮です。言われたとおり、自分から離れた場所にある机の上に置きます。私なら、一秒以内に刀を取り迎撃に移れる距離です。問題ありません。
「剣もだ」
「はい」
隠し持っている投げナイフには気付いていないようです。こんな立派な武器を二つ持っている人間が、ナイフを持っているとは思わないのでしょう。
「本来ならば身体検査もするが、この町の人間ではない者にまでする権限を、私は持たない。王都の選任という事を信じ、武装解除のみで許している」
「ありがとうございます」
身体検査されなくて良かったです。アリスさん以外に触れられるのは少し……嫌です。
「さて、質問をする。全て嘘なく答えよ。嘘を感じ取れば、このベルが鳴る」
町長の前には、呼び鈴のような物が置かれています。私達の状態から嘘を見破る魔法がかけられているのでしょう。
(”拒絶”しています。ご安心を)
(うん)
私達にかけるタイプの魔法は、アリスさんが拒絶します。
「お前達は”巫女”か」
「――いいえ」
いきなり核心を突いてきました。その質問にどう答えるか迷いましたけれど、嘘をつきます。悔しさが表情に出ないよう、気をつけます。こんな嘘をつかなければいけないなんて……。
もしかしたら友好的かもしれませんけれど、フぇルトで会ったノイスの方の言葉を信じ、デぃモヌが関係している場所では……私達は”巫女”を名乗る事を止めます。
(鳴らないか。人間離れした美貌と赤と白の髪、まさしくと思ったのだが)
「次だ。行方不明者捜索、誘拐事件、禁止薬物調査。これらに偽りはないか」
「ありません」
本当は浄化もありますけど、偽っている訳ではありません。
「滞在予定時間は」
「聞き込みを終えた後、速やかに去ります」
「未定という事だな」
「はい」
決まった時間はありません。浄化の必要が出れば、何とかして浄化をします。そのために、一計案じなければいけないかもしれませんから。
「最後だ。ミュスへ行く予定は」
「この後行く必要があれば向かいます」
「……良いだろう。質問は終える」
やはり、ミゅスが問題のようです。
「注意事項を述べる。この町の中での争いを禁ずる。必要以上に異性と接する事を禁ずる。往来で手を繋ぐなど以ての外だ。これはたとえ同性であってもな」
私達は今、手を繋いでいません。この人はまるで私達を見ていたかのように、こちらが反応しそうになる事を言ってきます。
「東の収監施設への侵入を禁ずる。入りたければ、私の元に来い。理由を聞き、問題ないと判断すれば入れてやろう」
「はい。ご配慮感謝します」
争い禁止はまだしも、異性との接触禁止はディストピアでしょうね。私達は困りませんけど、他の人たちは困るのではないでしょうか。
「お前達は只でさえ目立つ容姿をしている。細心の注意を払い行動せよ。この町の男達を必要以上に挑発する行為は慎むように。以上だ」
「はあ」
良く分からない注意事項なので、気の無い返事になってしまいました。
「先程述べた施設以外は好きに歩け。ただし、こいつを連れてな。入れ」
「ハッ!」
先程の女性が中に入ってきました。
「名乗れ」
「ダニエラであります!」
「私はフレーデグンデだ。歓迎は出来んが、ようこそミュルハデアルへ」
軍国主義とは、こういう事なのでしょうか。少しばかり肩の凝りそうな……町です。
「その武器も持って行って良い。飾りだったようだからな」
「……?」
(武器を持つ事で威圧しようとしたのだろう。見た目で威圧出来ない奴の考える事だ)
何をどう思って飾りと思ったのでしょう。もしかして、私の細腕で振れないと思っているのでしょうか。甚だ心外ですけど、文句は言いません。持って良いのであれば、持っておきます。
というより、置いて行く選択肢なんてないです。この核樹付きの刀と集落の剣は、私の想いの代行者。これがなければ、想いを遂げるのは難しいのですから。
「いくつかよろしいですか」
「何だ」
「カルメという、異国の少女が来ていませんか」
「……来ていない」
中々、カルメさんには会えませんね。
「子供が誘拐されるという事件はありませんか」
「無い」
「アイフぉーリという薬に心当たりは」
「先日摘発した。もうこの町には無い。薬は焼却処分した」
「ありがとうございました」
そっけない反応でしたけど、しっかりと答えてくれました。この町でやれる事は……浄化くらいですか、ね。
とりあえず最初に、東に向かいます。
「ダニエラさん。最初に東の方を見ておきたいです」
「私に構わず歩いて結構。後ろから付いて行く。ただし、禁止区域への侵入は実力行使してでも止める」
「はい」
”疾風”等を使っての身のこなしは見事でした。王都に居れば選任冒険者になれる人だと確信しています。そんな人の指揮の下、大勢の戦士が居るようです。軍国主義ともいえる町なので、もしかしたら……今市場で店番している人達も、戦士なのかもしれません。
「ここが東の中心ですね」
「うん。西には居なかったから、後はここで確認するだけ」
「その後、一応聞き込みをしますか?」
「そう、だね」
これだけ管理された場所です。フレーデグンデさんが知らない事を、町の人たちが知っているとは、私達は思っていません。それでも一応聞かないと、気が済まないのです。
管理されていても、中にははみ出し物が……居るかもしれないので。
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