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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
48日目、天使ではないのです
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『ミゅルハデアルとミゅス』姉弟村



 結局、何故アリスさんは緊張して目を閉じたのか、シーアさんは何を構わないと言ったのか聞き返せないまま、人形を部屋に並べて置いて、甲板に戻りました! はぁ……はぁ……何でこんなにも疲れて……? というより、落ち込みながらも安堵しているこの感覚は何なのでしょう。


(場所が悪かったですね……。しかし、あのような事故でやっても……)


 微笑んでいるアリスさんのはずです。でも、なぜ少し……残念そうにしているように見えるのでしょう。今朝からずっと私……おかしいです。何をこんなにドギマギと……。


「リッカさま。戻りましょう?」

「ぅ……うんっ」


 耳に響くアリスさんの声が、より深く入り込んできます。今は、次の町に集中しないといけません。もう着くのですから、気持ちを入れ替えます。パチっと替えられるのが私の長所。一度深呼吸して、甲板に戻りました。


(もう少しで見れたんですけどネ。やっぱり部屋ではそういう感じなんでしょうカ)


 いつの間にか甲板に出ていたレイメイさんは風に当たっています。お風呂に入ったからか、お酒臭さは抜けています。目が半目だったり、気分悪そうに眉間に皺を寄せているのだと思いますけど……いつもと変わりませんね。いつも不機嫌そうな目と顔をしてますし。


「あ゛? 何だよ」

「何でも。次の町は動けそうですか」

「船番だ」

「そうですか」


 万全ではないという事でしょう。


「次の町は何の印でしたかネ」

「ミュルハデアルが丸です」

「近場のミゅスは三角だったよね。こんなに近いと交流もあるだろうに、信仰心に差が出るんだ」


 ノイスとズーガン、フぇルトのように離れている訳ではないのに、こんなにも差が出るんですね。


「というよリ、丸と二重丸の差って何ですかネ。フェルトの人達ってもはや狂信者でしたよネ」


 デぃモヌに染まってなかったからと刺してくるという話です。信仰心に関しては二重丸だと思います。


「ノイスの人は確か、人形制作所が特に危ないって言ってたよね」

「他の人達はそこまで信仰心が高くないのかもしれません。それこそ、平均的な信徒なのでしょう」


 フぇルト全体が染まっている訳ではないので、丸という事でしょう。


「……」

「まだ言ってるのかって顔ですネ」


 レイメイさんが、私達がまだデぃモヌの話をしているのを顰め面で見ていました。ここ周辺はデぃモヌの総本山に近いので、どうしてもその話が主となってしまいます。諦めてください。


「サボリさんがお馬鹿しなけれバ、こんな疑問持つ事もなかったんですけどネ」

「……分ぁってるから、言わんかったろうが」


 お酒って飲まない方が良いですよね。明らかに性格が変わっています。どこかのニュースで、お酒の依存度や体への影響は、下手な禁止薬物より高いと言われていた気がします。合法かどうかの差でしかなく、危険な物である事に変わりないのでは? と、レイメイさんを見ていると思ってしまいますね……。


「まずはミュルハデアルですネ。丸って事はフェルトくらいの慎重さは必要って事ですカ」

「そうなります。”巫女”である事を知らせるのは悪手ですね。友好的な方達も敵対してしまう可能性が高いと、ズーガンとフェルトで痛感しました」

「いよいよ、自衛の為に言わないようにしないといけないね……」


 今までは、”巫女”である事がバレても何とかなってきました。でも今度は……もう駄目みたいです。この時の為に覚悟してきました。覚悟が形を生す時間もありました。再度覚悟する必要なんてありません。行きましょう。


「進路そのままでお願いします。ミュルハデアルでの調査を終え次第ミュスへ向かいます。余裕があればボフまで行きたいと思っていますけれど、どうでしょう」

「異存ないよ」

「ありませン」

「ああ」


 急ぎ足で駆け抜けます。調査不足にだけは気をつけ、慎重かつ拙速に、です。




 ミゅルハデアルに到着すると驚く事に……ここからミゅスが見えます。本当に何故別れているのか、地図に書き込むのが後になっていたのか、何故丸と三角で分かれているのか、謎です。


「船を町の間に泊めてください」

「分かりましタ」


 先にミゅルハデアルという計画に変更はありません。ただ、ミゅスにも歩いていける距離という事が分かりました。必要事項を終えたらすぐにミゅスへ移動、すぐに出発します。


 ”巫女”がいらないという現実は悲しく、アリスさんの心中を察すると歯噛みしてしまいます。それでも、旅に関してはそれで良いのだと割り切ります。行動開始です。


「サボリさン。働いてもらいますヨ」

「あ……?」

「私達はミュスで聞き込みでス。二手に別れた方が絶対早いでス」


 それが一番ではあります。しかしそれには、レイメイさんにも動いてもらわなければいけません。すでに魔王、マクゼルトと戦っています。北部は確実に危険地帯。単独行動は私の広域感知内でのみやってもらいます。


「先にミゅスの近くで広域するね。ここから見える範囲内だと、広域一回でミゅスはいけるから」

「お願いしまス。悪意がないと分かり次第聞き込みを開始しまス」

「はぁ……分ぁった」


 船から降り、ミゅスの方を感知します。少し荒くれ者が多いようで、血の気の多そうな気配がしますけれど……悪意はありません。


 シーアさん達に頷き、ミゅスに向かってもらいます。アリスさんと私はミゅルハデアルです。広域感知は、町の西で一回、東で一回で網羅出来そうです。


「連続で感知となります。大丈夫ですか?」

「うん。大分慣れてきたから、戦闘中でも少しならいけるよ」


 マクゼルト達のような強敵では無理ですけど、それ以外ならば、少しだけ使いこなせます。


「ここから見る限り、ミュルハデアルの方が落ち着いていますね」

「そうだね――っ」


 町に近づいた私達に、敵意が向けられます。アリスさんを背に庇い、周囲を伺いました。


(一……ニ…………六)


 魔力も感じます。完全に、臨戦態勢です。”巫女”ってバレて? いえ、そんな敵意ではありません。明確な物ではなく、こちらを牽制するようなものです。話し合いの余地はあります。


「何のつもりですか」

「―――ッ!」


 六人の気配のうち三人が、私達の前に出てきました。残りは魔力を練ったままこちらに敵意を向けたままです。目の前に出てきた三人は、女性です。残りは男性。矢面に立ったのが女性というあたり、警戒心が高すぎます。女性を前に出す事で、こちらの油断を誘っているのでしょう。


「……何者だ」

「旅人です。禁止薬物と誘拐事件の調査、それと人を探しています」

「調査……? お前達が……?」


 調査隊には見えないでしょう。しかし、本当の事です。これらも旅の目的の一つなのですから。


 私は自身の身分証明を取り出し、向こうに投げ渡します。”巫女”とは書かれておらず、選任冒険者とだけ書かれたものです。


「……」


 一番若い女性が、私の身分証を取り上げ確認しています。用心深いです。人と敵対し慣れています。


「選任冒険者……?」

「それは、王都の……ミュスの者ではないのだな?」

「はい」


 私達が誰であっても良いようです。問題なのは、ミゅスの人間かどうか。私達がミゅス側から来たから、このような警戒を招いたようです。


「調査という事だったな」

「はい」

「……暫し待て」


 リーダー格の女性が手を上げると、私達に向けられた警戒が解かれました。まだ隠れている人達は出てきませんけど、とりあえずは大丈夫みたいです。


「こ、こちらを……」

「ありがとうございます」


 身分証を返してもらい、町側の返答を待ちます。待っている間に広域感知を行いましたけど、西側に悪意はありません。東側に少し違和感があるような気がするので、調査許可が下りたらまずは東に向かいます。


 ある程度の予定を立て、アリスさんを見ます。


(東、ですね)

(うん。色々と問題がある町みたいだけど……)

(とりあえず、私達の用事を済ませましょう)

(そうだね。ミゅスに行ったシーアさん達の話も聞いてから、考えよう)


 首を突っ込む事はしませんけど、ミゅスに対しての警戒心が気になります。魔王が関係しているとは思えませんけど……話を聞く事くらいはしなくては、見逃す訳には、いかないのです。


 

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