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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
48日目、天使ではないのです
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『フぇルト』人形⑥



「ディモヌと巫女じゃやっぱ、違うんですね……」

「救う過程や想いは違いますけれど、人々の為に動いている事に変わりありません」

(天使と間違うのも無理ねぇ。ただの運び屋の俺でも感じてる。この人達は本物だってな……。何て、心が広ぇんだ……)


 ツルカさんはお金の為と言っていました。でもそれだけで、あそこまで熱心に祈れるでしょうか。きっとツルカさんも願っているはずです。世界の平和を。だって世界が平和になれば、いくらでも道はあるのですから。


(しかし……この村じゃ余計にディモヌ信仰が進むな……天使が降臨したとあっちゃ、よ)

「ノイスの連中全員、あんたらと会った事は黙っておくって話し合いで決めました。安心して欲しい」

「ありがとう、ございます」


 本当は隠したくはありません。でも、ノイスでバレてしまった”巫女”という身分は、これからここ周辺を巡る私達にとっては気懸りの一つでした。それを察してか、デぃモヌ信徒の二面性故か、”巫女”を匿ってくれるそうです。本当に、ありがたいです。


「何の旅かは分からねぇが……もしまたノイスに寄るなら、気兼ねなく来てください。街の人間全員で歓迎します」

「ありがとうございます。次は、平和になってから」

「はは……何だろうな。あんた達の言葉には、説得力があるな」

 

 今は信じて貰えなくても、いつかは信じてもらえる。ノイスでは、そう感じました。きっと、これからもそうです。




 再び人形製作所に入ります。出発する事を伝えなくてはいけません。


「話は終わっただか?」

「ああ。ノイスで少し世話になったんで、そのお礼を言ってたんでさ」

「そうだっただか。んだども、巫女って聞こえた気がしたんだが」

「そうか? そんな事を話した覚えはないが」


 確かに、”巫女”という言葉を発する時、フぇルトの人達の表情や雰囲気が変わりました。その変わりっぷりは、私の切り替えよりも見事です。日常から戦闘への移行に関して、私は絶対の自信があったのですけど……。


「お世話になりました。私達もそろそろ出発します」

「そうだか……また来てくんろ。歓迎しますだ」

(てんす様も忙しい身だぁ。おら達の村だけに引き止める訳にはいけね)

「……はい」


 複雑です。この方達にはやはり、私達の否定は届いていませんでした。強固な思い込み癖、みたいなものがあるようです。そこを教祖に付け込まれたのでしょう。


「お二方の人形はまだ完成してねぇみてぇだからよ。この切れっ端持って行ってくんろ」

「ありがとうございます。お代の方は」

「いやいや。どうせ燃やすんだ」


 フェルト生地を大量に貰いました。これだけあれば、人形を完成させることが出来るでしょう。次の町に行くまでに、完成させたいですね。


「それでは、失礼します」

「んだ。見送りに行きてぇが……」


 ツルカさんの人形の積み込みを優先するようです。その方が、心苦しくありません。ツルカさんへの信仰が高まったと思い、ここは何も言わずに立ち去ります。


 デぃモヌの対処は、人が刺されたという事件がある以上……慎重に慎重を期す必要がありますね。




 船に戻って、時間を確認します。まだ二時間程しか経っていません。今出発すれば、次の町も対処出来そうです。ただ……レイメイさんが問題ですね。


「このままここに居るのは不自然です。出発しましょう」

「ですネ。サボリさんはどうせ寝ているはずですシ」


 レイメイさんの部屋から動く気配がしているのですけど、動いているのなら大丈夫ですよね。二日酔いがどういった物か分かりませんけど、お風呂入って汗を流して、水分を沢山摂れば治ると聞いたような。


「リッカさま。次はミュルハデアルです」

「うん。近場にミゅスって町もあるし、今日中に二つ共回っておきたいね」


 地図で見ても、かなりの近場です。こんなに近いなら、合併すれば良いのに……と思ってしまいます。


「一時間くらいですネ。人形作りの続きをしていて良いですヨ」

「お言葉に甘えさせていただきます」

「ありがとう。シーアさん」


 甲板の上は流石に寒いですけど、シーアさんを一人甲板に置き去りはしたくありません。風の余り当たらない場所に座り、続きをやります。顔と体は出来ています。後は、表情ですね。優しい微笑をどう見せるかにつきます。


「おい……」


 レイメイさんが出てきました。まだフラフラしています。二日酔いって、そんなにきついんですか? 


「三時間経ったら問答無用で出発って言いましたよネ」

「まだ二時間くらいだろが……」


 時間感覚がしっかりしているという事は、寝てませんね。やはり部屋で何かしていたようです。


「時間が分かるなら問題ないでス」

「……」


 今日一日活動出来ないというのであれば、それでも構いません。順調に行けば、今日だけで四ついけるかもしれないのです。自分の足で歩けているのなら問題ないと判断します。


 レイメイさんも諦めたのか、船室に戻って行きました。


 ふと視線に気付き、アリスさんの方を見ます。じっと私を見ているアリスさんが可愛くて、頬が綻びます。


「……っ!」


 アリスさんが頬を染め、それでも私をじっと見ています。この朱に染まった頬を再現出来たらなぁと思う次第です。


 スッとアリスさんの手が伸びてきました。人差し指と中指が、私の頬から唇へと撫ぜていきます。


「口も、作る?」

「そうしたいと思っているのですけど……リッカさまの可愛らしい口を表現出来ません……」

「私も、アリスさんの艶感が……」


 触れてみても、再現出来る筈も無く……口を作らないことを決めました。目元だけで表現するつもりではありましたけれど、やはり……アリスさんの全てを再現出来ないのは、悔しい。


 製作を再開して三十分程経ったでしょうか。漸く満足のいく物が出来ました。


「アリスさんも出来た?」

「はい」


 やっぱり、アリスさんは手先が器用です。満足のいく出来だと思っていたのですけど、私のはまだまだ粗が目立ちますね……。


「首を傾げている方向が逆なのですね」

「本当だ」


 偶々、逆向きです。


「でしたら」


 アリスさんが私の持っていたアリスさん人形をそっと持ち上げ、リッカ人形の横に置きました。笑顔で寄り添って座る二人の人形。そしてそれを挟むようにして、私たちも寄り添って座っています。


「余り上手く出来なかったよ……」

「いいえ。ちゃんと、伝わっていますよ」


 アリスさんは、喜んでくれています。それでも、もっと上手になりたいなぁと思っています。まだまだフェルトはありますから、練習出来そうです。


「部屋に飾りましょうっ」

「うん。並べて、置いておこっか」

「はいっ」


 人形の様に、ずっと仲良く寄り添っていられたら……そう思って、口には出来ませんでした。どうしてかというと――。


「おっト、少し揺れますヨ」


 船が、出っ張りに乗ったようで、大きく揺れました。立ち上がろうとしていたアリスさんが少しよろめいてしまいます。


「っ」


 アリスさんの手を掴んで、頭を庇うように抱き締めます。それでも倒れこんでしまい、アリスさんの上に覆いかぶさってしまったのです。


「大丈夫?」

「は……はい」


 寝転がったアリスさんに体重がかからないように、私は手を突っ張りギリギリ耐えています。もう少しで、アリスさんの顔に私の顔が……。


 アリスさんに怪我がない事を確認し、少し体を起こします。そんな私の視線の先に、人形が見えました。今の私達と同じような体勢になってしまっていますけど、人形では……体を支える事が出来ません。アリスさんに覆い被さった私の顔は、しっかりとアリスさんの……。


「はぅ……」

「リ、リッカさま?」


 アリスさんが私の視線を追おうとしています。


「ぁ……待ってっ」


 何故かその光景を見せるのが凄く恥ずかしくて、ドキドキして、何かを我慢できなくて……こんがらがった頭のまま、アリスさんの視線を私に向けます。


 右手はアリスさんの顔の横で突っ張り棒。左手でアリスさんの頬を押さえ、私を見るようにとめています。この体勢のままでは、人形を動かせません……。足は自由ですけど、あの人形を蹴るという選択はありませんから……ど、どうすれば。


「ん……」


 アリスさんが目を閉じ、少し体を強張らせました。それを見て私は……視界が狭くなっていく錯覚に陥っています。目を瞑ってくれている今だから、人形を動かせます。でもそれよりも私は……すぐにでも、人形と、同じ――――。


「……」

「……あっ」


 シーアさんが、私達を見ていました。


「構いませんヨ」

「え」


 私の胸がどきりと跳ねます。シーアさんも何故か目を瞑ってしまいました。


「……って、シーアさん運転中!」


 急いで人形を元の座った体勢に戻し、アリスさんを抱え起こします。何が構わないのかは聞き返せませんけど、何も……ありませんからっ!


 

ブクマありがとうございます!

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