表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
48日目、天使ではないのです
706/934

『フぇルト』人形

A,C, 27/04/12



 アリスさんを眺め続けながら、そのまま眠るという至福の時から数時間。目覚めもアリスさんの笑顔に迎えられて、私は天にも昇るような気持ちです。


 こんな日はのんびりと過ごしたい。そんな私の想いは、甲板に出ると同時に砕けました。


「……」


 レイメイさんがボサボサの頭をかきながら座っていました。


「何で俺ぁ……ここで寝てんだ……。体も痛ぇ」


 昨日酔い潰れたレイメイさんを部屋に運ぼうとしたのですけど、シーアさんでは運び入れることが出来ませんでした。そして、私の接近許可も下りなかったので、仕方なく甲板に毛布を何重にもかけて寝かせたのです。


「つぅか……何か濡れて……はあ?」


 そういえば、いびきが煩いと……シーアさんが水をかけていましたね。お酒臭さも抜けて丁度良かったのですけど……風邪、ひいたんでしょうか。


「うわぁ。サボリさんお漏らしですカ」

「違ぇ!! 違ぇよな……絶対ぇ違ぇよな!?」


 アリスさんと私を見て、「違うと言ってくれ」といった表情で焦っています。


「とりあえず、お風呂に入ったらどうですか」

「何……」


 絶望顔になって、毛布を捲っています。


「まァ、私が水をかけたんですけどネ。いびきがうるさかったのデ」

「…………てめぇ!? ふっざけ――ウグ……ッ」


 二日酔いですね。レイメイさんが頭を押さえて俯きました。


「修行も出来そうにないですシ、そのまま出発しますカ」

「待て……薬くれ……」


 いつになく弱弱しいです。このまま船を出すと多分、色々と見苦しい事になります。なので、しっかりと薬の用意は出来ています。


「それ飲んでお風呂に入ったら寝てて下さい」

「ああ……」


 フラフラとしながら、船室に入っていきました。私の横を通った際、強いお酒の臭いがしました。まだ、お酒臭いです。


「でハ、早朝ですけど動きましょうカ」

「うん。地図だとフぇルトには、二時間くらいかな」

「町についてから朝食にしましょう。それで丁度良い時間になると思います」


 早朝に訪問なんて迷惑になってしまいます。


「それでハ、移動しますかネ」


 早速動きましょう。ふと船の後ろを見ると、ズーガンが小さく見えます。まだ教祖は、居るのでしょうか。


 何一つ解決していないデぃモヌは……まだ、尾を引いています。所詮、英雄にちょっとだけ憧れを抱いていただけの私では、暴力以外の解決が出来ないのかもしれません。


 やらなければ始まらないという言葉は好きです。足踏みするよりは前に進む事で、自分の想いを遂げられる可能性が生まれるのです。


 私の我侭に……アリスさんは文句どころか、仕方ないといった諦念すら見せずに付き合ってくれます。シーアさんとレイメイさんも、苦言を呈しながらも手伝ってくれます。


 これを当たり前と考えてはいけません。


 神さまに頼らない宗教デぃモヌの問題は……根本的な解決が出来ませんでした。でも、釘は刺せました。問題点も、分かりました。詐欺集団の壊滅は出来ませんでしたけど、根本的な解決である、マリスタザリア問題は……何とか出来ます。


 まだ、終わってません。魔王さえ討伐できれば……皆、幸せに向かって歩き出せます。


「リッカさま。今日も冷えますよ」

「うん。ありがとう、アリスさん」


 ニコリと微笑んだアリスさんが、厚手のコートをかけてくれます。私のお礼に、色々な感情と想いが篭っていることに、アリスさんは気付いてくれています。


 いつも私を想い、私と共に居てくれるアリスさんの事……私は多分――――ま、まだ……気持ちの整理がっ! 旅が終わって……そうです。旅が、終わって。私には、前例があるんです。そうじゃないかも、しれません。


 はぁ……もっと、こういった勉強、しておくんでした。でも、こういった勉強って……どうすれば?


「……? ……っ?」

「そわそわしてどうしたんでス――っテ、巫女さんもですカ」

「は、はい。何でしょう」

「いエ、サボリさんの反応がないんですよネ」

(この発作の時は何を言ってもはぐらかされますシ、用件を伝えるとしましょウ)


 ドラマは見たことありましたけど……途中からとか、ながら見だったから……。というより、何で私は急にこんな考えに……? デぃモヌ信徒達の今後とか、世界で困っている人達を想っていたはずです。まずは自分の気持ちを確認する為に、アリスさんに聞いて……って、そうじゃないです。本人に聞いてどうするんです――――!?


「リッカさま……っ」

「ひゃいぃっ!?」


 アリスさんの、少し熱の篭った呼び声に、私の体は大きく跳ねました。


「おォ……猫みたいに飛び跳ねましたネ。気をつけて下さいヨ。跳んで行っちゃいますからネ」

「えっ!? リッカさまっ!」

「あ、あわ、わ」


 シーアさんがそれっぽい事を言ったお陰で、アリスさんに抱きついてもらえました。何か私の言い回しがおかしかった気がしますけど、正解のはずです。でも今の私の状態で抱きつかれると、凄く、その……何か我慢出来ません。


「慣性だか何だかで、船の上で跳んでも、同じ速度で前に進むから、ちょっと跳んだくらいじゃ大丈夫だよ」

「そ、そうなのですか?」


 アリスさんが離れていきます。それを見て私の口は勝手な行動を取りました。


「あ……で、でも私、跳躍力あるから……」

「でしたらっ!」

「あっ……あふ……」


 私の口は勝手な子みたいです。でもそれを責める事は出来ませんね。私のもやもやとした罪悪感とか、後悔とか、焦燥とか全部、どこかへ行ってしまいました。フぇルトに到着するまでの間……このままで居たいですね。


「何か知りませんけド、面白い展開になりましたネ」

(でもこれは、サボリさんの事忘れてますね)



 私がある意味跳んでいる間に、レイメイさんに何かが起きてしまっていたようです。こんな事ではいけません。真面目にならなければ。


「それで、えっと。レイメイさんはどっちに居るのかな」

「お風呂に居るはずでス」

「お風呂かぁ……」

「困りましたね」

 

 私達では入れません。この旅で何が困るかといえば、今……困っています。男性一人なのです。お風呂で何かあっても、助け出すなんて無理です。


「生きてるかどうかだけ確認出来ませんカ」

「それだけなら出来るけど、それで良いのかな」

「構いませんヨ。どうにも出来ませんしネ」


 早速問題がやってきました。私には解決出来ない問題です。これもまた、暴力では解決出来ないようです。


「町についても反応がなかったら、町の男性に頼んで見て貰おっか」

「それが良いかト」

「それでは確認に参りましょう」


 酔っ払っているわけではないのです。気分が悪いからと、シーアさんを無視しているのかも。とにかく、確認を急ぎます。お酒って毒です。



「レイメイさん?」


 ノックをして声をかけます。反応はありません。


「中に居るし、生きてるけど」

「寝ているのでしょうか?」

「んー」


 規則正しい呼吸音と、少し早い鼓動、水の音。身動きしていませんし、心拍数が多い気がしますけど……二日酔いという事を考えれば正常の範囲内でしょうか。


「寝てる、かな。呼吸は規則正しいし」

「水の音という事は、シャワーを出しっぱなしという事ですか」

「かなぁ。湯船に浸かって頭からかかってるのかも」


 今日は冷えますから、暖を取っているのでしょう。温水はレイメイさんの魔法によるものですけど、勿体無いと感じてしまいます。


「眠っているだけでも、少し危険ですね」

「偶に様子を見て、町についても出て来なかったら予定通り?」

「はい。心苦しいですけど、住民の方に頼みましょう」

 

 二日酔いの男性がお風呂から出てこない。見て欲しい。なんて……頼まないといけない日が来るとは。「少しくらい羽目を外しても」と、好きに飲ませた結果がこれです。きっと今日から、シーアさんの手によってお酒が封印されます。


「結局買ってきたお酒、飲む用だったんだよね」

「はい。リッカさまは、その」

「うん。刀に使う用って……」


 話の流れ的に、刀の整備用って思っていました。いきなり飲む用のお酒を買って来いって言われるなんて、思ってませんでしたから……。


「そのお酒も、旅が終わるまでお預けかな?」

「完全に、お酒での面倒事が起きました。今までは本人が困るだけだったのが、こんな騒動になっています。シーアさんに完全封印してもらう事になりますね」


 ”氷”による、永久凍土の中へと仕舞われます。お酒だけが旅の楽しみといわんばかりに飲んでいますけど……。摂生くらい、自分でしてくださいよ……全く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ