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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
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『ズーガン』巫女のいらない町⑪



 アリスさんは天使のようですけど、人として生まれて来なかったって言い方が非常に苛立たしいです。


「あっ。お姉ちゃん達……」

「こんばんは」


 先程の男の子が何故か、中毒者を見張っていました。


「大人しくなってるけど、どうしたの?」

「えっと……」


 様子を見ると、気絶しています。


「あれ……?」

「あ、お姉ちゃんの所為じゃないんだ!」

「何が起きたのですか?」

「う……」


 言い辛い何かが起きたようです。男の子が後退りしています。


「教祖様を馬鹿にしてたからって……皆が……」

「殴ったの……?」


 傷はありませんけど、殴って治して殴って治して、とか……?


「そ、そんな事しないよ! ただちょっと……水をかけたり雷落としたり……」


 それを拷問と言います。水攻めに電気ショックなんて、死んでいてもおかしくありません。


「大丈夫かな」

「命に別状はありません。少し深い眠りに入っていますけれど、夜には起きるでしょう」


 教祖を馬鹿にしたという理由での怒りです。やりすぎという事も考えましたけど、殺してやるという段階までいっていなかったようです。人を殺せる程の魔法を撃てる人が居なくて良かったと思うべきですね。


 感情のコントロールが出来るアリスさんやシーアさんなら心配なんてしませんけど、普通の人達は想いを込めすぎる。勢い余って、なんてありえます。それは魔法に限った話ではありませんけどね……。人は脆いのですから……。


「起きるのは夜中って事は」

「はい。アイフォーリが切れる時間帯でしょう。このまま縛るか、牢に入れた方がよろしいかと」

「教祖様に、お願いしてもらえるかな?」

「は、はい!」


 男の子に頼んで、私達は再び船に戻ろうとします。そういえば、料理店を探し忘れました。シーアさんの為に探しておきたいですね。戻ろうとした足を止めて、男の子に聞いてみます。


「もう一つ良いかな?」

「はい!」

「食べ物屋さんって、あるかな」

「三軒くらいあるけど、どんなのが良いんですか?」


 どれか一つとなると、やはり特産品でしょうか。麦とお米?


「ここで造ったお米と麦を使ってるお店かな」

「それだと、ブリギッタさんのお店が良いと思います。教会の前です!」


 今戻ってきた道にあったようです。シーアさんを連れて戻りましょう。


「ありがとう」

「い、いえ!」


 この子もやっぱり、”巫女”が嫌いなのでしょうか。回りの大人が嫌っていたら、嫌ってしまうのも子供です。残念ではありますけど、悲しくはありません。この子は笑顔ですし、不自由の無い生活をしています。


「見張り、頑張ってね」

「はい!」


 手を振り、船に戻る足を再び動かしました。多分また会うでしょうけど、ね。


 しかし、子供に見張りをさせて何をしているのでしょう。身動き取れない人間に魔法を浴びせる様も見せていた様子ですし、あの子の今後が心配ではあります。あのまま真っ直ぐに育ってくれれば良いのですけど……教祖や教会の信徒達の様に歪んで欲しくはありません。


(あの子、リッカさまを……)

「夕飯、どうしよっか」

「ひゃいっ」


 アリスさんがびくりと肩を震わせました。ど、どうしたのでしょう……。


「え、えっと。申し訳ございません……」

「んーん。私達も、シーアさんと一緒に食べる?」


 アリスさん、疲れているのでしょうか……。昨日今日と立て続けに色々とありました。アリスさんだって、精神的な疲労は拭えていませんでしたから、夕飯の準備までさせるわけには……。


 きっと、先程の教祖との会話も原因です。やっぱり一発くらいは拳を叩き込んでおくべきでした。あそこまで”巫女”と神さまを貶した男を野放しにした私は、少し温かったです。


 アリスさんがこれまでの人生を掛けて体現してきた”巫女”を否定したあの男。次会った時、確実に……原形を留めない程に殴ります。


「そう、ですね……。シーアさん一人で外食というのも……」

「うん。外食も、今日が最後かもしれないしね?」


 この旅における私の優先度として、アリスさんの全てが最優先。その次にシーアさんの安全です。


 アリスさんの全てという大雑把な物の中にも優先度があり、アリスさん本人が絶対的な最最最優先です。次に少しでも多くアリスさんの手料理が食べたいという欲がありますけど、アリスさんが疲れている時にまで求めることはありません。


 今日はアリスさんを癒す為に、残りの時間全てを使います。


「せっかくですし、三軒全てを回りませんか?」

「そう、だね。シーアさんもその方が楽しめそう」


 歩き回ることになります。でも、アリスさんも色々な料理を食べることが出来れば、楽しめるかも。肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労なのです。ここは巡ってみましょう。


「じゃああの子に」

「い、いえ。しっかりと、確認しましたから」

「そう?」


 それでは、シーアさんを迎えに行きましょう。どうせレイメイさんは、酒場にずっと篭るでしょうから。




 船に戻ると、シーアさんしか居ませんでした。


「レイメイさんは、どうしたの?」

「もう行きましたヨ。あの人、いつもアレくらいやる気を見せてくれれば私も弄るのを控えるのニ、って感じでス」


 シーアさんが引くくらいやる気をだして整備したみたいです。確かに教祖の話は長かったですけど、一時間経っていません。どれ程頑張ったかという話になります。


「お酒、そんなに美味しいのかな?」

「リッカさまには絶対に飲ませません」

「うぅ……」

「まァ、巫女さんと二人きりの時なら良いんじゃないですカ? それなら見られませんシ」


 見せられないような状況になるというのは聞いています。確かにそんな痴態を晒すというのであれば……飲まないほうが良いですよね……。


(抱きつき魔なリツカお姉さんでモ、巫女さん以外には抱きつきませんヨ。そこに人がひしめき合っていてモ、巫女さんを探し出すでしょうしネ)

 

 シーアさんがクふふふっと笑っています。そんなに、酷かったのでしょうか。ちょっとだけ冷や汗が出ます。


「ふ、二人でなら……旅が終わって成人してからなら、考えても良いです」


 アリスさん相手であっても醜態を曝したくはありません。でも、味は少し気になります。味が分かるくらい、意識が残ればの話ですけど……。


「二人きりじゃないト、何をしだすか分からな」

「シーアさん」

「はイ」

「うん?」


 お酒が飲めるようになるのは三年後です。アリスさんとお酒を飲んでのんびりだらだらというのも夢ではあります。


「秘境かどうかは分かりませんけれど、御食事処が三軒あるそうです」

「行きましょウ。全部」

「レイメイさんに連絡を」

「必要ないでス。船が集合地点ですシ、酒場で酔い潰れたら引き摺って連れ帰りますかラ」


 引き摺って、ですか。多分言葉通りの意味合いでしょうね。


「お腹は大丈夫?」

「早めに忠告してもらえたお陰で大丈夫でス。一杯食べられまス」


 そんなにすぐに問題無しになるとは思えないので、元々大丈夫だったのでしょう。シーアさんの胃は丈夫ですね……。後でどれくらいの乾燥野菜を食べたのか見てみましょう。思ったより食べていないのかもしれませんし。


「それデ、教祖とはどうなったんでス?」

「個室があったら、そこで話すよ」

「なければ船に戻ってからですね。とりあえず食事処に向かいましょう」

「分かりましタ」


 三軒全部回るなら、早めに行った方が良いでしょう。夜十時までには、町から離れたいです。早速、向かうとしましょう。


「どんな料理なんでス?」

「えっとね。一軒はお米と麦が主らしいよ」

「他は、行ってからのお楽しみですね」

「ふム。お米や麦っテ、そのまま食べるくらいしか出来ないんじゃないですカ?」


 お米は炊くか焼く。麦はパン。そういった強いイメージがあるようです。でも、それらをお酒にしている町です。きっと他の食べ方もしています。


「それも、お楽しみかな」

「焦らしますネ。わくわくの所為で予定より多く食べてしまいそうでス」

「程ほどでお願いしますよ?」


 もち米がないので、お餅は無理ですね。炊いた米を擂って水や出汁を加えて、お湯で玉状に茹でてお餅もどきとか? 麦なら、スープとかに使ってましたよね。大麦若葉を使った物だったような。


 私も少し、お腹が空いてきましたね。アリスさんの料理で満たされたいという欲求に蓋をして、この世界のお米料理に想いを馳せましょう。



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