表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
5日目、共同生活なのです
70/934

二人の王国生活④



「こっこれはっ……!」


 私は思わず声を上げてしまいます。


 大きい目に赤い背、赤みを帯びた白い腹、背びれは波打ち、口の中を見れば黒い……。


 まさしくこれは。


「の、のどぐろっ!?」


 正式名はアカムツ、口の中で脂がとろけ、濃厚な旨味をもつ、白身魚の王様……。元の世界でやっていた昔を紹介する番組で見てからというものずっと食べてみたいと思っていたアレが今っ!


「あのあの、これってなんて魚ですかっ」


 まずは落ち着いて名前をきくのです。ええ。はやる気持ちを抑え、ゆっくりと。


「ん?ああ、アカムツだよ」


 んん? 普通にアカムツでいいんですか。いえ、今は名前がどうこうではないですね。さて、値段は――三千ゼル。


 見れば四百グラムか五百グラムといったところですか。一ゼル一円と思えば安いですね。


 しかし、醤油がありませんね。そうなると塩焼きが一番でしょうか。でもまだ動いて……お刺身でいけそうじゃありませんか。番組通りの脂というのであれば、お刺身でも食べてみたいところです。


「リッカさま。そのお魚はおいしいのですか?」


 そこまでグロテスクではありませんけれど、見たことない人には衝撃の目を持つそれを、アリスさんが不思議そうに眺めています。


「私の世界だと高級品で絶品って評価だったよ。私のいた国は最近漁獲量が減りすぎて、魚はあまり食べられないんだ」


 それにしても……。


「私の世界にあったものも、こっちにあるんだね。馬とかこれとか……」


 一つの疑問に首を傾げながらアカムツへ視線を戻すと――。


「なくなって、る……!?」


 そこには空になった皿が。


「ああ、あの兄ちゃんが買っていったよ」


 あのなんちゃって着流しはあの時武器屋に入っていった――。


「あぁ……あ……」


 私は崩れ落ちそうになりますが、アリスさんに支えられて倒れることはありませんでした。


「リ、リッカさま……」


 アリスさんが少し頬を染め困ったように微笑みます。この街においしそうな魚があるとわかったんです、いつか……食べます。


「アリスさん、今日は……魚にしよう」


 まだ見たことない魚はたくさんあります。見て行きましょう。


「はい。お供します」


 私に微笑むアリスさんと一緒に市場を歩いていきます。



 アリスさんよりはしゃいでしまったような、気がしないでもないです。


「リッカさま、あちらにもお店がありますよ」


 アリスさんも楽しんでるようです。よかった。


「ここは貝類かな?」


 牡蠣、蛤、鮑、に似たものですね。……この市場高級品多すぎでは? 都心部ってこうなるのかな。私が居た町、田舎だしなぁ。


「アリスさん、食べたいものあった?」

「いえ、数が多くてなかなか」

「たしかに、目移りしちゃうね」


 まだ生きている蛤が開閉する様を、楽しげに眺めていたアリスさん。まるで水族館に来たようです。行った事、ないですけど。


「今日は私も作るし、ちょっと多めに買っていこ?」


 アリスさんには、一応言ってあります。私の料理限定のドジっぷりを。だから食材はちょっと多目に買っておかないと。


「私もフォローします、大丈夫ですっ」

「わ、わかった。うん。がんばるっ」


 大丈夫でしょうか……大丈夫と思いたいですが……。


 元々、アリスさんを喜ばせたくて作ろうと思ったわけですから、がんばることに力は抜くつもりはありません。最高の料理で、アリスさんの喜ぶ顔を見るのです!



 買ったものは、鯛……に似た魚、きのこ類、野菜、ホルスターンのすじ肉。ですね。


 酒蒸しとスープを作ろうということになりました。簡単なものなので、失敗する場面はありません! きっと!


 酒蒸しは私が担当します。包丁の扱いだけは、自信があります。


「では、作ってまいりましょう」

「はーい」


 アリスさんのエプロン姿、まぶしいです。


 私はまずちゃちゃっと魚をさばきます。内臓を取り除き鍋に当たる側に横の切り込み、当たらない側にバツに切り込みを入れて。

 順調に進んでいきます。


(普通にいけるっぽい)


 思えばドジするときはお父さんがいたような。


(久しぶりに会うお父さんに緊張とかしてたのかな?)

「リッカさま、どうですか?」


 アリスさんが様子を見に来てくれました。


「うん、大丈夫、っぽ」


 そう思ったのもつかの間、包丁を置いて、アリスさんに向こうとしたときに、酒のボトルに肘があたってしまい倒れ――


「ふわ!?」


 慌てて手に取りますが、無駄にもこもこしているカーペットに足をとられてしまいます。


「リッカさまっ!?」


 傾いていく世界にアリスさんが現れ、どんっと大きな音と、ボトルが転がる音がなりました。


(いたた……? 痛くない?)


 私の眼前に柔らかい――。


「ご、ごめんアリスさんっ」


 こんなベタなドジありますかってんですよっ


「い、いえ。リッカさまが無事でよかったです」


 そう言って、気にしたふうもなく、私の心配をしてくれます。


「あ、ありがと。アリスさんのお陰で怪我してないよ。アリスさんは大丈夫?」


 アリスさんが体を確認しています。大きい音は、椅子が倒れた音だったようです。


「私も大丈夫です。では私はスープのほうを確認してきますね。っ」


 そうやって、スープへ向かうアリスさんの耳が少し赤かった気がしましたが……気のせい?



 大きなドジは、こけただけでした。アリスさんに怪我がなくてよかった……。


「おいしいですね、この魚料理。リッカさまも料理上手ですよ」


 アリスさんに褒められました。笑顔も自然ですし、お世辞ではないと思います。


「よかった、口に合って」


 それにしても、どうしてあんなにドジっちゃうんだろ。途中まではできてたのに……。


「リッカさまは料理の時、変な緊張してるみたいですね。体がいつもより硬い感じでしたよ?」

「緊張かぁ、なんでだろう」


 途中までは、できてたのになぁ。


(んー、アリスさんの声聞いて振り向いて……)

「――あっ」

「どうしました? リッカさま――」


 はぅぅ……。


「う、うん。明日はギルド登録だっけ」

「? はい。明日登録して、その足で一件ほど依頼を受けようと思っています」


 ぱっと話題を変え、アリスさんに尋ねます。初依頼ですか。


「どんな依頼が用意されてるんだろ」


 やっぱり、討伐系かな。


「初登録、初依頼となると、あまり難しいのは用意されないかと思います」

「いきなり難しいの渡して、達成できなかったら依頼者に申し訳ないし。それがいいね」


 アリスさんと笑顔で談笑します。


 ……気づかれてないですよね。

 

 私が、アリスさんの声に緊張してたってこと。



次から、ギルド+修行①+? 編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ