私と彼女②
「それでは集落へ参りましょう。歩きながら、ご説明させていただきますね」
彼女の笑顔は不思議です。
わけもわからずここに飛ばされて不安なはずなのに、彼女の笑顔をみていると落ち着きます。
まるで、”神の森”に居た時みたいに――。
「まず自己紹介からさせていただきます。私の名前はアルレスィア・ソレ・クレイドルと申します。”巫女”をやらせて頂いております。アルレスィアが名、クレイドルが姓となります。”ソレ”とは、この国における”巫女”が受け継ぐ称号のようなものです。どうぞ、ご自由ににおよび下さい」
にこりと笑顔を見せる彼女を眺めつつ、彼女の言った聞き逃せない言葉を訊ねます。
「巫女、ですか?」
こんなことが、あるのでしょうか。偶然にも出会った彼女は、私と同じ巫女だなんて……。でも、私の巫女と彼女の巫女は違うのかもしれません。それに、ほんとうに偶然なのかな。
「はい。■■■■■さまのお言葉を皆に伝えたり、皆のお言葉を■■■■■さまにお届けしたり、■■■■■さまから役割、使命を与えられた者になります」
そう語る彼女は慈愛に満ち溢れ、巫女の使命に誇りをもっているように見えました。私とは全然違う、真剣な眼差しと使命感に、一瞬でも自分と同じ”巫女”だと思ったことを恥じてしまいます。
「あっ……。申し訳ありません、つい熱くなってしまいました。それにお名前をお呼びする度にノイズが聞こえるのでしたね。私も神さま、とお呼びいたしますね」
どうやら、顔に出てしまっていたようです。笑顔で提案してくれました。本当に、彼女にはお世話に、気にかけてもらいっぱなしです。
「ありがとうございます。えっと、あるれしーあさん」
なんか、違いますね。アルレある、あるれし、うぅ……。
「両親からは『アリス』と愛称で呼ばれていますので、そちらで呼んでください」
彼女はくすくすと笑いながら私に提案してくれます。
また気を使わせてしまいました。それにしても、綺麗な人って思ってたけど笑うと、かわいいなぁ。
「はぃ……アリス、さん」
私の頬が熱くなるのが分かります。
な、なんで名前呼ぶだけでこんなに! 私ってこんなに乙女でしたっけ! 頬が熱を持っていないか、ニヤけていないか、むにむにと頬を揉み解します。
そんな、頭を抱えたくなる衝動に駆られつつ歩を進めます。
「えっと。じゃあ次は私が……。六花立花です。六花が姓で立花が名前。『ろくはな』はリッカとも読めて、雪の別称になります。えっと、こっちでも雪は降りますよね? 『りつか』は普通はタチバナとかリッカって読むんですけど、私の場合はリツカになります。好きな方で呼んでいただけると嬉しいですっ」
私さっきからおかしいですね、ただの自己紹介でなんでこんなに……。こんなにも綺麗な人だから緊張してるのかな。ここまで詳細な、雑学交じりな自己紹介、初めてしました。
「雪、ですか。聞いたことはありますけど。実物は見た事がありません。どうして六の花で雪になるのでしょう?」
初めてアリスさんのためになれそうなので、ちょっと気合が入ってしまいます。
「雪は結晶を核に出来ていて、その結晶は綺麗な六枚の花弁のようになっているんです。だから私たちの国では、雪を六の花と表現したんです」
説明口調になったお陰か落ち着いてきました。さっきから私情緒不安定すぎでは……? 変な子と思われなければいいけれど……。早く慣れなきゃ、うん。
「そうなのですねっ! 雪、綺麗なのでしょうね。より見てみたくなりましたっ」
今にも跳ね回りそうなほどに喜ぶアリスさんがかわいくて、つい笑顔がこぼれてしまいます。
(こうやって見ると、年相応の愛らしさがあるなぁ)
なんて考えていたのが運のつきというやつでしょうか。
「綺麗な名前なんですね。リッカ、さま」
頬を染め微笑みながらアリスさんが私の名前を愛称で呼びます。彼女以外が呼ぶことはない、特別な愛称です。
その不意打ちは私に致命傷を与えるには充分すぎたのでした。