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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
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『ズーガン』巫女のいらない町④



「結局、予定通りに出来ませんでしたネ。紹介された食事処は夕方からでしたシ」

「昨日のうちにしておくべき事柄が多すぎました」

「考える事も多かったから……」


 記憶力は良い方だと思っていましたけど、やる事が多すぎると優先順位が低い方から忘れてしまいます。シーアさんはしっかり、やるべき事をやれたようですから、私が特別ズボラなのかもしれません。


「お酒にしろ食事処にしロ、秘境的な所に美味しい所があるものでス」


 知る人ぞ知る美食店とか、ロマンですね。旅の醍醐味というやつです。


「致命的な忘れ物はないのでス。気にするだけ損ですヨ」


 シーアさんの精神性はもはや、十二歳のそれではありません。食事処に行く予定があり、それをふいにしてしまったというのに……。頭が下がります。


「分かりましたカ。サボリさン」

「……」

(誰が最年長なのか、分からなくなっちゃったよ)

(私達が自分だけを見ていた時、シーアさんはエルさんの付き添いで色々見てきていますから)


 人生経験が違いすぎますね。私が自分の事で迷ったり悩んだり、無気力になったりしている時、シーアさんは色々な場所で世界に目を向けていたのです。アリスさんですら……世界の危機を知っていたといっても、集落での修行と勉強が主でした。どうしても、精神的に差があります。


「まァ、予定より町が多くなりそうですかラ、ズーガンも手早くお願いしまス」

「うん。余計な事は、しないよ」

「私も、気をつけておきます」


 シーアさんの温情に甘える形ですけど、やるべき事はやらせてもらいます。深く関わる事が出来ないのなら、そこで諦める準備もあります。大丈夫です。


「秘境の食事処があったら呼んで下さイ。駆けつけまス」

「う、うん」


 割り切れって考えられる性格のシーアさんですけど、やはり未練はあるようです。美味しそうな食事処があったら、シーアさんを呼びましょう。


「乾燥野菜結構食べたみたいだけど、お腹壊さないようにね」

(バレてしまってます)

「お腹を壊した事無いので大丈夫でス」

「乾物は油断すると、壊してしまいますよ」

「そうなんでス?」

「ばかすか食べられそうだったが」


 そう見えて、というものです。乾物の注意書きには大抵書かれているのです。食べ過ぎに注意と。あれは見た目と、食べた瞬間の満腹感とは別なのです。 


「野菜って水分の塊みたいなところあるから、その水分が戻ってくると一気に……」

「……まさカ」

「飲み物を飲んでしまうと、膨れますね」


 普段の満腹感とは違うと思います。私はなった事ありませんけど、体験談によると……お腹を内側から抉じ開けられそうな痛みが襲うとの事です。


「結構食ってたよな」

「……」


 シーアさんなら大丈夫だろうとは思ってますけど、アリスさんに薬を準備してもらっていた方が良いかもしれません。


 調理前の乾物をぽりぽりと食べたのは、初めてなのではないでしょうか。冷蔵庫を魔法で作り出せる世界なので、生鮮物も四,五日くらいは保ちます。シーアさんは上流家庭に所属しています。乾物をそのまま食べるという経験がなかったはずです。


「サボリさン、”風”代わりまス」

「あ? あぁ」


 魔法を使って、お腹を空かせる作戦のようです。ただの運動よりずっと疲れて、エネルギーを使いますからね。


「せっかくお店見つけても、今のままだと余り? 食べられないだろうし」

「人並み以上に食べる事は出来ないと思います」


 今の状態でも、私より食べます。


「つぅか。食う量増えてねぇか」

「成長期ですシ」

「この調子で食べていくと、レイメイさんくらいの身長になるのかな」


 食べる量と身長には何の因果関係もありません。でも、シーアさんは大きくなりそうです。


「サボリさんより大きくなりますヨ」

「……」


 レイメイさんが想像しています。高身長のシーアさんはカッコ良さそうですね。


「女王は、お前ぇがでかくなるのを望んでねぇんじゃねぇか」


 エルさんが、シーアさんの成長を喜ばないなんて事はないと思いますけど。というより、心配するのはそこなんですね。


「おやおヤ。負けるのが怖いんですカ? リツカお姉さんお墨付きのビビリさンには、成長した私が恐ろしいみたいですネ」

「いや、今みてぇに頭撫でたりとかよ。膝の上に乗っけたりできねぇだろ」


 説明の必要があったとはいえ、レイメイさんからそんな事を言われると何というか、数歩下がってしまいます。


 アリスさんの手を引いて下がろうとしたのですけど、アリスさんも同時に私と下がろうとしたのか、大した力を必要とせずに下がれました。もちろん、シーアさんは私達の後ろに隠れるくらい下がってます。


「気持ち悪いでス」

「女王がだよ。俺じゃねぇ」

「……」

「……」

「お前等も何か言えよ。何だその目」


 エルさんなら、シーアさんにそうしたいって思っていると思います。それが出来なくなる、高身長のシーアさんに寂しい表情を見せることもあるでしょう。でもそれは、成長を喜ぶ複雑な親心ではないでしょうか。きっと最終的には喜びますよ。


「その時は、シーアさんがエルさんを乗せたら良いんじゃないかな」

「エ」

「そうですね。きっと喜びますよ」

「……そうでしょうカ」


 シーアさんが満更でもない表情で、か細い声でもじもじしています。


「シーアさんからしてもらう事全部、エルさんなら喜びそうだけどね」

「私もそう思います」

「悪戯もでしょうカ」

「んー……程度によりけり?」

「やりすぎなければ、じゃれ合いってだけです」


 レイメイさんの疑問も分からないでもありませんけど、レイメイさんは無視しておきます。身長の差程度で揺らぐ絆な訳ないのです。余計なお世話、ですね。


「サボリさん以上に大きくなるとは言いましたけド」


 何故か私達を見ながら、シーアさんが残念そうにしています。


「私も大きくならないのでしょうカ」

「個人差はあるだろうけど」


 十二歳という年齢を考えると、シーアさんは少し低い気がします。カルラさんも小柄でしたね。リタさんやラヘルさん、ロミーさんは順当に成長したって感じです。ロミーさんはスタイル良かったので、この世界の女性が低身長って訳ではないです。


「私の成長は、止まってるかも」

「……私も、止まってますね」

(巫女さんは大きくなっている気がするんですけど、サボリさんが居る所ですし、触れないようにしましょう)


 筋肉も一向につきません。気候等の環境面が大きく作用して成長なんてことも……。これはずっと引き摺りますね。胸の差で、アリスさんより幼く小さく見えるのです。アリスさんに似合う王子様になるには、少しでも高くなりたいのですけど……。


「私がリツカお姉さん達と同じ身長で止まってしまったラ、ずっと子ども扱いされそうでス」

「結構子ども扱いされないよ?」


 最初アリスさんに会った時、私より二つ上くらいって思ってしまったくらいですし。


「コイツは今が真盛だろ」

「また失礼な事を……。シーアさんに蹴られますよ」

「自分でもそう思ってますシ、無視して良いでス」


 蹴られると思って構えていたレイメイさんですけど、見事に空かされました。滑稽さすら感じさせる程です。成程……こういった弄りパターンもあるのですね。受け流し? 


「今のまま身長だけ伸びる感じじゃないかト」


 茶目っ気のあるお姉さんといった感じになるのでしょうか。細身なのに大食いというギャップもあります。


「どんな大人になりたいとかある?」

「お姉ちゃんみたいになりたいですけド、サボリさんみたいにならないなら特にないでス」

「無視するか貶すかどっちかにしろ」

「じゃあとことん貶す方向デ」

「根に持ってんじゃねぇか」


 今が真盛と言われた事、気にしていたみたいです。人間は諦めなければ成長出来ます。今が最高潮と言われるのは良い気分ではないでしょう。特にレイメイさんの言葉には、嘲笑が含まれていましたからね……。

 


ブクマありがとうございます!


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