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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
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『ズーガン』巫女のいらない町③



(音がしなさすぎっていうのも逆に気になりますよね)

「シーアさん。そこに居るのは分かっていますよ」

「おっト、ただの運搬ですかラ」


 ただの運搬をしている人は言い咎められたりしなかったりします。どうやらシーアさんが聞き耳を立てていた様子。まだ入る前だったのですけど、何がそんなに気になるのでしょう? 物音がどうとも言ってましたし。


「シーアさんの所為でリッカさまが混乱中です」

「いやァ、こればっかりは巫女さんも原因ですヨ?」

(サボリさんの所為で、一番面白くなりそうな所を逃したのではないでしょうか)

 

 頭に疑問符を浮かべた私のカーデを脱がしながら、アリスさんとシーアさんが扉越しに話しています。


「出発しますかラ、揺れに気をつけて下さいヨ」

「分かりました」

「ありがとう。シーアさん」

「でハ。もぐ」


「うん?」


 運搬を再開したシーアさんですけど、何か食べてましたよね。


「乾燥させて作った大根チップスはおいしいようです」

「乾燥させて水分を飛ばす事で、旨味が凝縮するんだったかな?」


 野菜は温めると酵素が活性化され、でんぷんを分解して糖類を作るそうです。甘味が増したように感じるのは、それが理由だったと思います。


「……なくならないかな?」

「シーアさんならば大丈夫と思う反面、食に関してのシーアさんは時に……」

「どこまでもって感じになっちゃうからね」


 一応保存食ですし、生鮮は買っているので程ほどに抑えて欲しいです。


「ただ乾物は、お腹に入ると後々……」

「膨れます、ね。お腹を壊さないと良いのですけど」


 凄く苦しむ事になります。切り干し大根や干し椎茸を水に戻すと良く分かるかと思いますけど、水分を吸収して膨張するのです。スルメがおいしいからと、調子に乗って食べた大人を知っています。数時間後お腹を壊していました。


「シーアさんの許容量は多いから、後の食事で制限すれば大丈夫かも」


 時間はそこそこありますけど、お風呂は手早く済ませましょう。シャワーを浴びるくらいのものですかね。


 ゆっくり出来るのは、ズーガンが終わってからです。アリスさんに、じっくり夢中になれるかどうか。次にかかっています。教祖の問題はもはや、金額を下げるように懇願するくらいの事しか出来ません。ズーガンでの目的はカルメさんと神隠し、昨日のマリスタザリア騒動の被害確認です。


 アリスさんに連れられ、シャワーの前に座ります。


「向こうの世界では、科学で何でも分かるのですね」

「何でそうなるのかとか、どうやったらそうなるのかとか、皆気になる性質何だろうね」


 私もそういう所がないとは言い切れません。魔法をまともに使えないのも、中途半端な知識が邪魔しています。こちらの世界では、「やれる」という想いがあれば何でも……出来るのです。そうだと分かっていても、どうして? という想いが、私の魔法を邪魔します。


「分からない事を分からないままにしておくと、困るからかも」

「と、言いますと?」

「一度想いを手に入れて詠唱出来れば、誰でも出来るわけじゃないからね。向こうだと、”どうやって”が分からないと再現出来なかったりするから、かな?」


 魔法で再現出来なかったら諦める。それがこの世界の常でした。それでもこの世界も進んでいるのだと感じます。近年の成長が著しいのです。


 エルさんは酪農面に技術を用いて共和国を大きく変えました。あの乾燥野菜も、皇国の技術でしょう。下衆もまともなら、世界を変えられました。魔法とは関係ない部分で、成長しています。


「意識の差でしかないよ。こっちの世界でも、シーアさんみたいに”どうして”って原理から考える人が居るから」

「向こうの世界みたいになるのでしょうか」

「それが良い事なのかは、定かじゃないけど、ね」


 どっちが良いかは……まさに、神さまにも分かりません。それでも、この世界が選んだ道ならば、私からは何も言えません。


「私達が成し遂げたら、きっと世界は良い方向に大きく進むから」


 良くも悪くも……様々な考えで持って、世界を変えようとしている人達が大勢居る現在です。神さまに頼らず、魔法を過信せず、己の力と技術を高める。そんな人達に、私達は出会っています。世界は変わる。


「……はい」


 私の髪を丁寧に洗っていたアリスさんが、ぴとっと背中に抱きつきました。ぼーっと、その気持ちよさに身を任せていた私は、突然の柔らかさにビクリと身体を跳ねさせてしまうのです。


「世界が変わっても……」

「うん……」


 私の首に巻かれたアリスさんの腕に、触れます。


 世界が変わって、生活が変わって、環境や人が変わるかもしれません。それでも変わらない物があります。”神林”と神さま、そして……私とアリスさんの想い。それは停滞ではありません。


「次は、私が洗いたいな」

「お願いします。リッカさま」


 背中に感じるアリスさんを名残惜しく想いながらも、アリスさんの髪に想いを馳せます。さらさらつやつやの銀糸の髪を、手櫛で梳くように洗う。鶴の恩返しで見た機織りの如く、丁寧に想いを込めて、です。




 お風呂から上がり、火照った体を休めた後甲板へ戻りました。湯船に浸からずとも、私の体は芯からぽっかぽかです。


「もう少しかかりますヨ」

「もう大丈夫だよ」


 私の体はいつも通りアリスさんの香りです。趣味の悪い、ねばついた匂いは落ちました。


「お前等の家具は置いたんか」

「はい。設置し終えています」

「俺も今のうちに置く。舵代われ」

「分かりましタ」


 レイメイさんの家具は、ベッドと鍛治道具を置くための棚でしたね。昨日買えた物で代用出来たので、昨日のうちに設置すれば良かったのに。


「昨日のうちにしないからでス」

「美味い酒と肉がありゃ、ああなる」


 酔い潰れてそのままでしたね。今日は量を控えて貰いましょう。お酒は毒です。


「酒で思い出したんだが」

「え? 昨日買った中にありましたよね」


 まさか、あれ以外のお酒を要求するつもりですか。


「いや。高ぇの」

「十分高くないですか?」


 結構な値段でしたよ。鍛治道具ならあれで十分なんじゃないですかね。


「……」

(自分が飲む用と言わないからです)

(リッカさまの良心に付け込むからです)


 あれでは駄目だったのでしょうか。困りました。


「ズーガンにあれば、そこで買いますから」

「あぁ」

(はぁ……)

(舵を代わる前にサボリさんの財布からお金抜いておきますかね)


 お酒くらい、何処にでも売っているでしょう。それにしても、昨日の事少し忘れすぎですね……。大変申し訳ないです。

 

「地図によると綺麗な水が取れそうだし、お酒もありそうだけど」


 川の近くで、山もあります。結構豊かな土地みたいです。


「お酒の味は分からないから、値段で良いですよね」


 一番高い物と言っていたはずです。


「美味ぇのだ」

「飲めないって言ってるじゃないですか。お金上げるんで自分で買って来て下さい」

「船の整備がある」


 ノイスで手分けして事に当たろうという話の中で、私が買うって事になっていたのです。今回はむしろ私達が忙しいんですから、レイメイさんが買って来て下さいよ。船の整備も大切ですけど……。


「リッカさま。そんな人の相手をする必要はありません。せっかく教祖と話す機会を得たのですから、私達の用事を優先させましょう」

「良いのかな……」

「構いませんヨ。私達は船の整備をしていますかラ、暇があればで良いでス」


 暇はいくらでも作り出せます。話を聞くという予定は、完全に教祖次第です。無視される事も覚悟しています。それに、ズーガンはデぃモヌが浸透しています。”巫女”として動く事は出来ないです。



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