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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
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『ノイス』続・北部の大市⑥



「決まりましたカ」

「はい。机と椅子もある程度見ておきました。シーアさんの意見も下さい」


 私が、アリスさんに夢中で見る為の覚悟を決めている間に、シーアさんが帰って来ました。いつの間にか、他の所を見ていたようです。


「食事用ですシ、持ち運びに便利な軽量型が良いですネ。折り畳めテ、広い奴が好ましいでス」

「こちらとこちらがそれに当たります」


 私が妄想している間に、アリスさんはしっかりと決めていたようです。アリスさんも夢中で選んだりしたのでしょうか。もしそうなら……見逃した……? この、私が……?


(理由は分かりませんけど、リツカお姉さんがまた落ち込んで……? いつもの発作でしょうか。巫女さんが微笑ましそうに見てますし、発作ですね)


 何でしょう。シーアさんがジト目で私を見て……?


「巫女さン」

「はい」

「リツカお姉さン。どんどん酷くなってませんカ」

「……そうでしょうか」

「巫女さんが過保護すぎるからでス」

「つい……」

「甘やかすのも程ほどにしないト、エリスさんに報告出来ないでス」


 私の所為……ですよね。アリスさんがシーアさんに説教を……。何故怒られているか分からない以上、止めようがありません……。


「……」


 肩が落ちてしまいます。まるで、二人で怒られているような状態です。実際私が怒られているのでしょうけど、アリスさんまでとばっちりを……。申し訳なさ過ぎて言葉が出てきません。


「シーアさんその辺りで……。リッカさままで……」

「そうやって甘やかすからでス。ちゃんと言い聞かせないト、リツカお姉さん無防備すぎまス」

「そ、その辺りは気をつけて……っ」

「だからリツカお姉さんの表情が緩みっぱなしになるんでス。見られないようにしててモ、雰囲気が柔らかくなりすぎて視線が増えますヨ」

「う……」


 ひょ、表情……? 緩んでいるという自覚はありますけど、今は緩んでませんよね……。頬を触って確かめるように、押したり引っ張ったりしても問題ないように感じます。


「……」

「巫女さン」

「は、はい……」

「リツカお姉さんもこの際聞いておいて下さイ」

「う……はい……」

「最近街中であっても無用心に触れ合いすぎでス。気配感知や視線制御なんか出来るからといっテ、余りにも無用心でス」


 シーアさんの公開説教を受けています。回りからの視線を少し感じますし、お店の中だと声も聞こえているはずです。何故怒られているのか、私はいまいち理解できていません。ただ、アリスさんは思い当たる節があるらしく俯いています。シーアさんの言う通りにするか、強行するか迷っているみたいです。


「私としてモ、お二人がジロジロ見られるのは不快なんでス。もう少し落ち着きを取り戻して欲しい物でス」

「今の状況がすでに……」

「何か言いましたカ」

「う……何でもないよ……」

「触れ合うなとは言いませんかラ、人の少ないところでお願いしまス。お店の中なんて論外でス」

「はい……善処します……」


 ア、アリスさんと触れ合うなという話でしょうか……。絶対無理です。


(リツカお姉さんは分かってませんね。これ)

(リッカさま……私も我慢出来るかどうか……)

(シーアさんも心配してくれてるんだから……本当に、善処しないと……)


 アリスさんに頼りきりな事は気になっていましたし……このあたりで自分を見直す良いきっかけかもしれません。改善出来るかは、分かりませんけど。私の生きがいなんです。アリスさんの笑顔、体温、感触に想い。私はいつでも触れ合いたいんです。


「無理とは分かってますけどネ。エリスさんから任された身でス。一言申しておかないと格好が付きませン」


 シーアさんは私達の事を良く知っています。多分、私達の次に私達を知っています。だから私達はシーアさんを頼ってしまうのでしょうね。


「ごめん……」

「申し訳ございません……」

「まァ、お二人を周囲の人間に観察されるのが嫌っていうのくらいハ、覚えておいて下さイ」

「うん……」

「はい……」


 シーアさんが、私達を姉と慕ってくれているのは知っています。姉が変な目で見られるのが嫌という心理、理解出来ないわけではありません。しっかり肝に銘じます。


 確かに……道端で急に悶える私は、変人のそれでしょうからね……。


「買う物は決まりましタ。リツカお姉さんが運びますカ?」

「大きな台車があれば出来るけど、用意には時間がかかるよね」

「台車の用意だけをお願いしましょう」


 この量の家具です。船に運ぶだけでも時間がかかりすぎます。台車だけ借りて、折を見て私が運んだ方が良さそうです。用意するまでの間に、自分達の用事を終わらせましょう。


「ではサボリさんを呼び戻すとしましょウ」

「その間、店主さんに聞いてみよっか」

「そうですね。ディモヌはここでも有名なはずです」


 昨日の出来事で分かった事として、この街では”巫女”への憎悪等はないようです。友好的なのはマリスタザリアの件があったからでしょう。それまでは、見世物と大差ありませんでした。


「ここが総本山、だよね」

「そうだと思います。ですけど、傭兵や戦士が多いこの街に危機感はありません。ディモヌも効果を持たないのでしょう」


 つまり教祖は、他で巻き上げたお金を、何らかの形でこの街にもたらしている可能性があります。そうでないと詐欺集団が好き勝手出来るはずが……いえ、他人が何をしても興味が無い? 他人に無関心な人が多いのは、この世界の常です。


 それと……危機感がないとはいえ、昨日の大軍を見たら流石に……”巫女”を崇めるようになるという事ですか。現金といえばそうなのでしょう。でもこれこそが、信頼を勝ち取るという事です。不満はありません。


「それなら、教えてもらえそうかな?」

「どうでしょう……。何か、おかしい気がします」


 やはり、アリスさんも同じ想いのようです。何か違和感を感じています。


「実際、巫女さん達が忘れるくらイ、この街ではディモヌの話がなかったんですよネ」


 そうです。”巫女”とは相容れぬ存在であるデぃモヌの総本山に、私達が来たのです。何かしらの話があっても良いはず……。それが無いという事自体、おかしい。


「聞きましょウ。それが一番でス」


 店主さんなら答えてくれるのでしょうか。シーアさんが聞く為にカウンターに向かっています。


「少しお聞きしたい事があるのですけど」

「何でしょう!」

「ディモヌを崇める宗教が、この辺りにはあるそうですね」

「ッ!?」


 元気一杯に、何でも答えるといった表情だった店主さんでしたけど、デぃモヌと聞くと表情が変わりました。コミカルな表情のようで、そうですね……「やっべぇ」みたいな?


「違うんすよ巫女様方! あんた達を信じてない訳じゃ!」


 どうやらデぃモヌを信奉している人達に、私達が怒っていると思われているようです。自分達を信じない人達だからといって、私達は怒ったりしないのですけどね……。


「いえ、私達は怒っている訳では」

「確かに昨日の事が起こるまでは、何もしない神様と巫女様なんて何の役に立つんだとか思ってたが! い、今は違う!」


 気が動転しているみたいです。昨日の事を出されるのは、余り良い気持ちにはなれません。何しろあれは、私達の所為だと思うので。


「ですから、怒っている訳では」

「所詮偽者は偽者って事か……ディモヌも何もしてくれねぇ……! 傭兵達だって、あんな大軍には何も出来やしないしな! 結局、あんた達の方がやっぱりすげぇよ!」


 流石にそろそろ怒りそうです。考えは人それぞれで、私達が王都周辺以外に何もしてこなかったのは事実です。でも、偽者も本物もありません。


 デぃモヌであるツルカさんにはツルカさんの想いがありました。ツルカさんの存在が、この辺りのマリスタザリアを抑えていたのは本当の話です。それってつまり、デぃモヌも本物って事で良いんじゃないでしょうか。


「話を聞いて下さイ。家具全部燃やしますヨ」

「す、すんません!」

「まァ、それは冗談ですけド」


 シーアさんの、少し過激な発言のお陰で漸く話が出来そうです。



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