表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
685/934

『ノイス』続・北部の大市④



「ここ以外もあるの?」

「いくつかありますが……それを全て追うとなると一日二日程度では……」

「今回はこれが限界っぽいの」

「次がありますよ!」

「王都もまだ、回ってない所がありますから」


 他の所を巡りたかったカルラだが、時間が足りずに断念した。どうやら今日出立する予定に、変更はないようだ。


 リタとクランナも感じ取ったのだろう。別れを惜しむような声音で次の約束をしている。


「今夜出るの」

「分かりました。補給の方はお任せ下さい。カルラ様は是非、最後まで王都を楽しんでいただければ幸いです」

「ありがとうなの」

 

 アンネリスがカルラ達の船への補給を買って出る。すぐに王都へ、食料と日用品を集めるように指示が出された。


「案内は任せて!」

「お昼は、あそこにしませんか?」

「そうだね。やっぱりあそこだね」

「なの?」


 リタとクランナの提案に、カルラは首を傾げるも、二人は教えてくれない。その時までの秘密という事だろう。


「戻りますかい?」

「そうするの」


 もう一度海を眺めたカルラは、そっと目を閉じる。想うのは、故郷だ。


(今日は、あの日なの)


 カルラの表情は暗い。国で起きている何かが気になっているようだ。


「……?」

「どうなさいました?」

「あの丘は」


 カルラが見ていたのは、港の横にある丘だ。アンネリスやリタ達も視線を追うが、普通の丘にしか見えない。


「丘がどうしたの?」

(あそこからなら、見れるかもとか思っちゃったの。そんなわけないのに……なの)


 カルラが再び船に戻る足を進める。自分のやるべき事を終えるまでは戻らないと決めているカルラは、もう振り向かない。例え……故郷の事が気になって、毎晩夢に見ていようとも。


「リツカとアルレスィアが睦言を交わすには、丁度良いと思っただけなの」

「睦言……!?」

「睦……?」


 少女にとっては、これ以上の話題はないだろう。色めき立ち、どういった会話や触れ合いがあったのかで盛り上がっている。


「きっとアルレスィアからなの」

「リツカ様じゃないですか?」

「私もリツカさんだったと思う!」

「リツカはきっとヘタレになっちゃうの」


 リツカとアルレスィアの事をより深く知った三人は、どちらが告白するのかを話している。アルレスィアが聞いたら、慌てて止めそうな会話だ。それでもカルラは率先して話す。リツカの事も、アルレスィアの事も、カルラは好きだ。だけど今回の話を聞く前から、二人の相手は二人しか居ないと思っている。二人の幸せが、カルラにとっての一番だ。




「くしゅんっ」

「リッカさま。大丈夫ですか?」

「う、うん。久しぶりに……噂でくしゃみしたかも……」


 このくしゃみは、風邪とか寒気とかではないです。完全に風の噂を感じたものです。間違いありません。


「どなたによる噂でしょう……」

「カルラさんじゃないですカ。王都に居る頃ですシ」


 その可能性が高いです。何しろ悪寒ではなかったのですから。元々私は、こういった事でくしゃみをしません。その私がするという事は、余程強い感情を含んだ物に違いないです。エリスさんやリタさん達という可能性もありますけど、直近で私の噂をしそうなのはカルラさんくらいです。


「それでしたら、シーアさんもくしゃみをしていないとおかしいです」

「……カルラさんならリツカお姉さんの事も好」

「……」

「この話は止めておきましょウ」

「はい」

「うん……?」


 アリスさんとシーアさんが、お互い何かを言いあって会話を止めてしまいました。


「そろそろ街に戻れまス。予定通りで良いですネ」

「うん。アリスさんと私が教会探し、シーアさんが地図埋め、レイメイさんが買い物の続きかな」

「異論ありません」

「あぁ」


 せっかく、教会に行く機会を頂けたのです。解決させたいところですが……最低限でも、良しとします。最低限とは、教祖の男に釘を刺すこと。詐欺紛いの集金、お布施、販売を止めます。


「とりあえず北東の町から聞いて回りまス。終わった方は一度連絡の後、北西方面の情報をお願いしまス」

「うん」


 北西は進行方向ですから、進めば見つけられる可能性はあります。しかし、ノイスから北東に行くかどうかは町があるかどうかです。ノイス自体が北部の端の方なのです。もし町がなければ北か北東を目指したい所なのです。


「時間をかけるつもりはありません。ディモヌを神の使いと崇め、人々の心に安寧をもたらしているのは事実なのです。行動を改めさせるくらいしか……私達には出来ませんから」

「根本的な問題を解決しないと、その宗教は止められないからね……」

 

 マリスタザリアと貧困です。心の支えと、傭兵システムによる実務的な支え。今の世界に必要な物を的確に揃えています。ディモヌ……ツルカさんという旗も居るのです。いかにも宗教的な話でしたが、角と怒りを繋げたのは良い一手だったと思います。向こうの世界でも、角は怒りの象徴であるところがあります。主に鬼の所為ですが……。


 不安に押し潰されそうだった人々の心に、スルリと入り込んだのでしょう。そしてすかさず、傭兵等を使っての守護。確実に信じますし、頼りにします。


「金銭問題とマリスタザリア。どっちも今の私達には何も出来ないから」

「はい……。今この宗教を潰すと、荒れます。せめて料金の引き下げや、必要のない壺の販売を止める事が出来れば良いのですけど……」

「まァ、難しいでしょうネ」

 

 シーアさんの言うとおり、最低限すら出来ないかもしれません。それでも、何も言わずに素通りは出来ません。無理なお布施や傭兵代の所為で、無茶な仕事をしているとツルカさんは言っていました。値段がもっと安くなれば、もっと豊かな生活が出来るはずです。ただ……今でも、エセフぁの人たちの幸福度は高かったんですよね。


「無駄と分かっててやんのか」

「無駄かどうかは、やってみないと分かりません」


 難しいってだけです。


「買う物は何だ」

「まずは、予約していた家具屋で新調して欲しいけど」


 レイメイさんが家具を買う事に際して、問題が一つ程。


「お願いですから、普通のを買って下さい」

「あ?」

「奇抜な物とか、変な配色の物とかは止めてください」


 レイメイさんなら大丈夫とは思いますけど、適当で良いと言ってしまうと……本当に適当に買って来そうで不安です。木材の色そのままであっても、部屋に合うか分からないのです。本当は色を合わせて買いたい所ですけど、この際変な色でなければ問題ないと思います。


「別に何だって良いだろ」


 シックな色合いに、ポップ調の物を置くのは難しいです。出来ない事はないのでしょうけど、それには色をしっかりと見ないといけません。お洒落に気を配るタイプではないですけど、部屋を見るたびに変な家具があると……気持ちが落ち込みそうです。


「木目のある家具が良いです。変に色の塗られていない、木本来の良さが出た物が」

「木の良さなんか分からん」


 困りました。木の温もりは必要です。


「家具屋はお前等が行け」

「予約してたのに、遅れたら申し訳ないです」


 自分で行くのが一番ですけど、時間は有限とは私の言葉です。


「でハ、教会探しの時間を交代しましょウ」

「なるほど。私達が家具を買う間、レイメイさんが教会と教祖を探すのですね」

「はイ。家具を買い終わるカ、教会を探し終えるまでが刻限でス」

「それで良い」


 言ってしまえば教会探しも自分事です。家具の事も、我侭でしかありません。レイメイさんの手を煩わせてまで拘る事なのでしょうか。


「やっぱり、レイメイさんが適当に――」

「私も、余り派手な家具は嫌です」

「漸く家具を置ける場所が出来たんでス。私も拘りたいでス」


 アリスさんとシーアさんに、気を使って貰った気がします。


「女ってのは……変なとこに拘りやがる」


 女ってのはって言われるのは、癪ですね。家具への拘りに性別は関係ないと思います。


「レイメイさんも、ライゼさんと同じ服でずっと居るじゃないですか。成長したんですから、別の服に替えても良かったでしょう」

「……」


 サイズが合わなくなったはずです。それをわざわざ新調してまで着ているじゃないですか。


「そういえばそうですよネ」

「余程気に入ったのでしょう」


 気に入った服をずっと着たいというのは分かります。私も、アリスさん製の服をずっと着ていたいですから。


「好きなんですネ。お師匠さんの事」

「言い方を考えろチビガキ……」

「……?」


 あれ? なんで私、顔を赤くしているのでしょう。何かに気付いたかのように、脳髄と体の奥底から熱が溢れてきます。ん……? んん……?


「……」

「二人は二人デ、何故赤くなってるんでス」

「え?」

「そ、それは。お気になさらず」


 アリスさんも……。私また、何か変な事を言っちゃったのでしょうか。ま……街も見えてきました、し……考えるのは後にします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ