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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
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巫女の居ない王都⑩



「では、私のお願いも聞いて下さいますか」

「何でも言ってくれ」

「この街に滞在し、最初の選任冒険者となって欲しい」

「選任冒険者?」

「はい」


 ライゼルトは……コルメンスの目に、確かな光を見た。その光はまさに、革命軍の長コルメンスの目であり、ライゼルトを持ってして感嘆の声を上げるほどの力強さだった。


「そりゃ、一体何だ?」

「私の勅命で動く冒険者としています。そしてその本分は、化け物の退治です」

「ほう。報酬は冒険者とは違うって事だな?」


 命を懸けるのだ、そして選任という身分。ただの報酬ではないだろうとライゼルトは踏む。

 

「はい。基本給として三十六万ゼルを予定しています。治療費や武器等の整備費、薬代は補助金として出すつもりです」

「命を懸けるには、少ねぇな」

「そうだったようです。その条件で既に公募を何度か行いましたが、一人も集まりませんでした……」


 冒険者の給与は少ない。せいぜい十六万ゼルと任務の成功報酬の二割程だ。王国の財政に余裕は無いが、少しばかり足元を見すぎているとライゼルトは感じた。


「なので、一体十万ゼルを成功報酬として出します」

「どんな化け物でも十万か」

「はい。大型小型関係なくです。そして、住民達が受けた危険度から評価を行い、基本給に追加して給料を上げます」

「それだと、小型ばかりを斃す奴が出るが」

「構いません」

「それはどういった理由だ?」


 一体十万は破格だ。小型でも良いなら、誰でも志願しそうなものだとライゼルトは考える。ホルスターン等のマリスタザリアならともかく、小型のマリスタザリアならばチームでかかれば斃せるだろう。


 そんな簡単な条件で良いのか? とライゼルトはコルメンスの真意を探る。


「戦いの中で、絶対はないからです」

「ほう」


 コルメンスの言葉に、ライゼルトは再び唸る。ただの旗持ちではなかったようだ。しっかりと戦士としての心得がある。


「王都は今、小型だけと戦っていられる状況ではありません。確実にその時は来ます」

「ああ」

「小型だけと戦うのは無理です。何より、査定はしっかりと行います。冒険者の命も懸かっていますが、何より国民の命が懸かっている」


 コルメンスの覚悟を見て、ライゼルトはカカカッと自嘲気味に笑う。


「あんさんの、アンタの事を見誤っていた。謝る」

「え?」

「王様にしちゃ、なよなよしとると思った」

「はは……良く、言われます」


 歯に衣着せぬ言葉に、コルメンスも自嘲気味に笑い出す。変に濁されるより、余程気持ちが良い評価だった。


「だが、アンタは王様だ。良いだろう。なってやる。選任冒険者」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。任せろ」


 こうして、世界初の選任冒険者が生まれた。三度行われた選任公募を越え、漸く生まれた一人だ。


「明日、選任公募をしようと思っています。ライゼルトさんには」

「ライゼで良い」

「はい。ライゼさんには、試験官も務めて欲しいのです」

「試験をやるのか」

「はい。最低限の実力は欲しい」

「道理だな。分かった」

「それと、もうニ、三、付け加えて欲しいもんがある」

「それは、何でしょう」

「チームでの参加を認める事。王からの勅命には絶対服従だ」

「そ、それは……」


 コルメンスが死ねと言えば、死ぬという事だ。それは直接的な死だけではない。マリスタザリアとの強制戦闘も、死に繋がる。それを条項に入れろというのだ。


「もし、王都に大量の化け物が出た時、逃げる奴を選任にはしたくねぇ。逃げたら罰を与える」


 コルメンスを試すような目で、ライゼルトが見る。それは最後の試験だ。コルメンスの覚悟が本物かどうか、見極める。


「……分かりました」

「辛い役目だろうが。任せたぞ」

「もちろんです」


 コルメンスは本物だ。国民の為に、戦士を斬り捨てる覚悟を見せた。だからこそ戦士として志願してくる者には、相応の恩赦を与える。その代わり命は、国民の為に使ってもらう。


「チームでの参加を認めるのは、どういった?」

「個人で殺せる程弱くねぇ。俺ならまだしも、他の連中が個人でやれるのは少ないだろう」

「確かに……」

「情報では、個人で化け物を退治出来たのはライゼ様だけです」


 そっとライゼルトの後ろに立っていたアンネリスだが、ほっと一息ついて資料を捲りだす。今まで、コルメンスとライゼルトの雰囲気に圧倒されていたのだ。


「盾と治療役、拘束役と攻撃役だ。兵士と防衛班にも伝えといてくれ」

「分かりました。すぐに編成しなおします」


 コルメンスが頷くと同時に、アンネリスがディルクへ連絡をする。


(アンネちゃん、有能だな。この王様が側近にする訳だ)

「編成中は穴が空くだろうからな。見張りだけ残しておいてくれ。俺が出る」

「よろしいのですか?」

「この街が今日から俺の寝床だ。しっかり守ってやる」


 執務室から出て行くライゼルトの背中は、頼もしい物だ。コルメンスの尊敬と憧憬が含まれた視線を受けながら、ライゼルトは出撃した。



 この後、ライゼルト手動で王国の防衛は大きく変わっていく。リツカ達が来るまでの間、王都の民が笑顔で居られたのは間違いなく――ライゼルトのお陰だ。


 英雄。国民全員が文句なく称する男は、その称号に驕る事無く……王都の民に愛されていた――。




 時は戻り、カルラの飛行船へと移る。


「一度見ておきたかったの」

「見れますぜ。きっと」


 カルラの言葉に、ディルクが力強く答える。


「そ、そうですよ! リツカさんとアルレスィアさんが約束してくれたんですから! ね!?」

「はい。絶対に連れ戻すって、言ってました」


 リタとクランナは、その場で約束を聞いている。アンネリスが何をしてしまったのかも知っている。だけど、アンネリスを責められない。二人も失くしたくない者達が居るから、気持ちが分かるのだ。


「二人がした約束なら、間違いないの」

「……はい。ライゼ様は絶対に、戻ってきます」


 カルラにじっと見られながら、アンネリスが頷く。それをみて、カルラも頬を綻ばせる。


「さぁ、行くの」

「飛行船、初めてです」

「お、落ちたりしない?」

「空を飛ぶマリスタザリアが出たら分からないの」

「え゛!?」


 扇子で口元を隠したカルラの言葉に、リタとクランナが震える。


「安心するの。予備のバルーンもあるし、ディルクが居るの。不時着時の安全確保も完備されてるの」

「しっかり守りますんで、ご安心を」


 アンネリスと一緒に、ディルクもライゼルトを思い出していたのだろう。ライゼルトの守るという言葉は重かった。


(最期まで……いや、最期じゃねぇか。散々人に死ぬなと言って置きながら、自分が先に死ぬわけがねぇ。約束もあるしな)


 ディルクはまだ、剣術を習っていない。レイメイ流の三番弟子は自分だと、ディルクは周囲の警戒に気合を入れた。


(お前の代わりに、守ってやるよ)


 船には国賓と、ライゼルトが守りたかった国民、そして……ライゼルトの最愛の人間が居る。


「港ではどんな事が起きたの?」

「……その事です、が」


 アンネリスがディルクのチームの者達を見る。


「一応俺達も関係者だったりするんですよね」

「役得というか何というか、リツカ様の向こうでの生活を聞けたり」


 カルラが冒険者達に半目を向ける。冒険者達が隠そうとしているのに気付いたのだろう。アンネリスが迷っている以上、冒険者達が勝手に話すわけにはいかないと、口を噤む。


「何を聞いたの?」

「えっと」

「個人情報……」

「貴方達が知ってるのなら、リツカは知られても問題ないって思ってたはずなの。言うの」

「はい……」


 カルラに押し切られる形で、冒険者達は話す事になった。港までは十分とかからない為、話を纏める時間には少し短いかもしれない。あの日見たことは色々と、衝撃が強かったから――。



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