二人の王国生活②
宿というより、ホテルといった建物でした。
この重厚感溢れる、佇まい……私の世界で泊まろうと思ったら、所持金全部使っても足りないことでしょう。
「ア、アリスさん……。ほんとにここ?」
私は不安になってしまいます。
「はい。陛下にはここだと、教えられたのですけれど……」
見ればアリスさんも不安そうです。無理もないでしょう。私たちは本当に、旅は初めてなのですから。
「とりあえず、入ってみよ?」
こんな時は、私が行くべきでしょう。私のほうが、活動範囲は広かったのですから……リードするべきです。
「は、はい」
アリスさんを促して、中へいきました。そして内装を見て、確信します。
(ここは絶対高い)
ランプの火によって仄かにライトアップされた空間。仄暗いのに、雰囲気は暗くありません。むしろ落ち着く色合いです。これだけで、軽い気持ちでやってきたお客さんは弾かれそうです。
待合所と思われる場所にある机、椅子には緻密な装飾が施されています。正直、王宮にあった調度品より高そうな物ばかり……。
受付の佇まいは……まさに、執事と見間違うほどです。
(王様は、間違えたのかな?)
普段王様が市井に来た際に泊まる場所かな? と思いましたけれど、王宮は近くにあるのでわざわざここに来るとは思えません。
「リッカさま。どうすれば……」
見ればアリスさんが珍しく、目に見えて困惑しています。恐らく、普通の宿に泊まるつもりだったのでしょう。私も、ソウ思ってました。
「受付に行ってみるから、ちょっと待っててね?」
入り口に立ったままなのも失礼なので、受付にいきます。大丈夫。学校でそれなりに……社交を学んでいます。
「ごめんください。陛下の紹介で訪ねたのですが」
とりあえず、陛下の名前を出します。
「大変失礼ですが、お名前をいただけますか」
アリスさんのフルネームはしっかり覚えてますが、発音が……。
「はい、あるれしーあ・ソレ・クレイドルと六花立花です」
やっぱり舌足らずになってしまいます。はずかしい。
「――巫女様のお二人ですね。たしかに陛下よりご連絡をいただいております。どうぞ、こちらへ」
連絡してくれていたのですね、助かります。でも、生活は自分たちでやると……。そう思いつつも、アリスさんに声をかけ、受付の案内を受けます。
通されたのは、先ほどロビーにあった机と椅子ではなく……明らかに特別な人だけが通されると思われる部屋でした。
「陛下より、伝言を賜っております。本日は旅の疲れもあるでしょうから、一晩だけでも当宿へ泊まってください。とのことです。お代もすでにいただいておりますので、ご安心ください」
どうやら、最後までお世話になってしまったようです。
「ありがとうございます。陛下にお礼を言いたいのですが」
「いえ、お礼はいらないのでどうか、よろしくお願いします。と」
どうやら、陛下はお見通しだったようです。
「では、しばしお待ちください」
そういって受付の方が退出しました。
「結局、御世話になっちゃったね」
一晩だけだし、気にしてもしかたないですね。お言葉に甘えて、休みましょう。
「ありがとうございます、リッカさま。こういった経験はないもので……」
「んーん、気にしないで。アリスさんにしてもらったことに比べれば、全然だよ?」
感謝したいのは私のほうです。だから、アリスさんの為になれるのなら――。
「私の全部あげても足りないくらいだよ」
と、はにかむように本心を伝えます。
「えっ!? ……は、はぃっ。ありがとうございます」
アリスさんの声が上ずってしまいます。どうしたのでしょう。
(私の全部を、あげ……)
コンコンとドアがノックされました。
「どうぞ」
私は冷静に招き入れます。
「お待たせしました。ではお部屋へ案内します」
私たちは――お互い顔を染めたまま……案内を受けました。
通された部屋もまた、先ほどの王宮より……よほど豪華でした。どう使うのかわからないような家具が多くあり、部屋にお風呂がついていて、調理場まであります。
そしてベッドが、キングサイズのベッドが一つ。
(集落でも一緒に寝たんだし、今更だよね。今更)
――私の全部をあげても。
「~~~!」
思い出さないように別のことを考えます。
「アリスさん。ご飯は、一応宿のものもあるみたいだけど。どうしようか」
「はっはい。私が、作り、ましょうか……?」
アリスさんに視線を向けると、アリスさんは顔はまだ赤く、視線は……ベッドにいっていました。
約束通り、今日はお料理教室です。やっとお互いの顔の熱がひいたころ、外に買い物にいくことにしました。
「リッカさま。どちらへ先にいきましょう」
アリスさんも普段通りに戻っています。
「じゃあ、武器屋先にいいかな? 魚買うなら、すぐ宿に戻れたほうがいいから」
「はい。では参りましょう」
ナマモノは危険です。気をつけないと。生きていましたし、まだまだこの世界は寒いですけれど、体調の管理が最優先なのです。
アリスさんと笑顔で、街を歩きます。これからの共同生活に、想いを馳せて――。
日常編です。
戦闘も入れてメリハリつけたいと思っております。
テンポは大事にしたいですが、うまくいきません。
ご容赦くださいっ