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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
47日目、巫女とは、なのです
671/934

『ノイス』続・北部の大市

A,C, 27/04/11



 最近は起きるのが遅かったのですけど、今日はさっぱりパッチリ起きる事が出来ました。やはり朝はこうでなくてはいけません。魂が抜けたり戦ったりで、「また起きれないかも」とか言ってたのが嘘のようです。


「おはようございます。リッカさま」

「おはよう。アリスさん」


 今日も朝が始まります。



 今日の朝稽古の準備をして、船の外へ出ます。もう四月も半ばへと突入しようとしているのですけど……。


「今日は、寒いね」

「防寒着を着た方が良さそうです。風邪をひくなんて事はありえませんけど、持って行きますね」

「うん。アリスさんはしっかり着込んでてね」


 私は運動をするので、暫くは大丈夫です。汗をかいた後には必要ですけど。私を見守ってくれるアリスさんにこそ、必要なものです。


「風邪ひかないんでス?」


 流石のシーアさんも、今日は厚手のマントです。もこもこのファーがついていたり、丈が長くなったりです。


「私が菌を”拒絶”してますから」

「相変わらず便利でス」


 この世界に私が来た時から、アリスさんは私に”拒絶”の魔法を使ってくれていたのです。


 向こうにはない病気に対して、私は免疫がないかもしれません。病気になってからでは遅いので、魔力に中てられていた私を救う時に、魔法もかけていたらしいです。


「シーアさんもしてもらう?」

「ンー。菌って全部でス?」

「そうですね。空気中の菌全てです」

「それはそれデ、問題なのではないでしょうカ」


 免疫をつけるには、多少の菌は必要になるそうです。完全に滅菌されている場所に長く居ると、免疫力は落ちる物だと聞いた事があります。かといって、私にとってこちらの世界は初めての事ばかり。用心に越した事はありません。


「リッカさまが病気になるなんて嫌です。ずっとし続ければ問題ありません」

「巫女さんモ、リツカお姉さんの事になると極端ですよネ」


 アリスさんが過保護と言われていた理由が分かる気がします。でもそれを受け入れている私は何と呼ばれるのでしょう。甘えん坊? でもアリスさん限定ですから。


「私は止めておきまス。リツカお姉さんにだけかけておいて下さイ」

(厚着にはしましたけど、寒さは感じてませんし)

「無駄遣いすんなよ」


 レイメイさんが最後に降りてくるのは珍しいです。しかし、無駄遣いとは……アリスさんが私に”拒絶”を使ってくれている事に対してでしょうか。これはあくまで日常での話しなのです。戦闘で、私に割く魔力がないときはしていません。


「無駄と言いましたか……?」

(寝起きは特に失言が多いですね。これだから酒飲みは。完全に目覚めるまで時間かかりすぎです)

「レイメイさんも、学習しませんね」

「あ?」


 アリスさんと私とは、レイメイさんと考え方が根本的に違います。多分世間一般として、レイメイさんが正しいと思います。いつ戦闘が起こるか分からない状態で、いくら消費が少ないただの”拒絶”とはいえ、使い続けるのは無駄と言われても仕方ありません。


 でも、私達にとって……大切な、命より大切な人にする事全て、無駄な事なんてしてません。というより、無駄と思っている事をしないのです。


「私がリッカさまの為にする事全て、無駄と思った事はありません。無駄というのは、眠くも無いのに惰眠を貪るあなたの行為を言うのです。有意義に過ごしてみてはいかがですか? 心に余裕が生まれますよ。すぐに叩かれる軽口も、少しは治まるでしょう」

「……」

「昨日の今日で逆鱗に触れた気分はどうでス」

「節約しろ、とか言葉遣いを矯正してくださいよ……」


 もう二十歳なのですから、丁寧な言葉遣いを心得て欲しいものです。ライゼさんと別れた後、悪い大人に捕まってしまい色々と苦労をしたそうです。「嘗められないように」これがレイメイさんの考えなのでしょう。


 しかし、この考えが遊び癖や見下し癖に繋がっているのです。矯正出来るのならして欲しいものです。もう二十歳と言いましたけど、まだ二十歳ともいえます。人が変わるには、まだ遅くない年齢です。


「大体レイメイさんはリッカさまを何だと思っているのです。赤いのだの何だの、まずはしっかりと見直して、いえ、やはり見なくて良いです」

「昨日も聞い」

「言ったにも関わらず何も理解していないじゃないですか。リッカさま。もう少々お時間を頂きます」


 私に防寒着をかけながら、アリスさんがニコリと微笑みました。叱っていた最中の出来事でしたけど、その笑みは本物で、アリスさんの腕の中で暖められていた防寒着はほんのりと熱を持っています。アリスさんの、ぬくもりに包まれたようです。


「ありがとう。時間に余裕はあるから、待ってるね」

「おい……」

「諦めるんですネ。弄る距離感を量れない未熟者さんには良い薬でス」


 私に止めるように求めたレイメイさんですけど、シーアさんがバッサリと斬り捨てました。


(まぁ……アリスさんと私は、デリケートというか扱い難い所はあると思うけど)


 こういった部分を出せるのは、信頼しているからと思っていただければ、と思っています。もし信頼出来ない人の前であれば、見せないので。


「お前にだけは言われ――」

「レイメイさん。アリスさんを無視しないで下さい」

(こんなんだから素直に尊敬出来ねぇんだよ……。阿呆が)


 朝陽が昇ってきましたね。向こうとは太陽の出方が違う気がします。高い建物がなく、空気が澄んでいて遠くまで見渡せるからでしょうか。爽やかな朝です。この温かさ、癖になります。もう暫く、着ていたいですね。




 王都も、朝の活動を始めた者達が居る。


「うん?」

「おはようなの」

「おはよう。カルラ姫。早いんだね」


 昨日リタ達の案内で王都中を見て回ったカルラは、ロミルダ達とも挨拶する仲になったようだ。


「リツカが毎日走ってたって聞いたの」


 あくまで聞いた話だけだけど、カルラはリツカとアルレスィアの王都暮らしを追体験している。

 昨日は教会やギルド、花屋を巡った。主に王都内だ。


「そうだねぇ。ここの前を通って、噴水広場に出てから素振りをしてたはずだよ」

「どんな感じだったの?」

「三周くらいだったかねぇ。私が話しかけない限りは止まらないで走る走る。心配になって話しかけた時もあったけどさ。汗を滲ませる程度だったよ」


 ロミルダが心底懐かしそうに話す。リツカがロミルダと知り合った次の日に挨拶をした時の話だ。それまでも見ていたが、心配だったのだろう。アンネリスからのお願い関係なしに挨拶をした。少しくらい休憩しても良いのでは? といった思惑もあったのだが、汗を滲ませる程度で、息も乱していなかった。


「リタなんて、一周走っただけで座り込んじまったよ」

「かなりの距離を歩いてここまで来たの。どれくらい速かったの?」

「一周十キロくらいだったかねぇ。それを、どれくらいだったかね。最終的には二十分掛かってなかった気がしたけどねぇ」


 強化を使わずに、魔力運用だけで走っていた。それのベストタイムが、三十キロを二十分だ。向こうの世界なら、間違いなく人外だ。こちらの世界でも驚異的なタイムだが。


「リツカは目の前から消えるの」

「だねぇ。あの子は特別なんだって、最初は思ってたよ」

「ロミィでも最初は思ったの?」

「そうだねぇ。あの子の話は全部、本当かどうか分からないような物ばかりだったからね」


 それは仕方の無い事だろう。リツカの行動も力も、この世界にとっては新しい物ばかりだ。特別視するのは当然だ。ロミルダだけではない。コルメンスですら、リツカを特別視した。そう、()()()()()()、だ。


「だけどね。中身は普通の女の子って分かったら、見方が変わったんだよ」


 ロミルダの言っていることが、カルラには分かる気がするようだ。


「もしかして、無理してるんじゃないか。ってね」

「……なの」


 昨日思った事は、”巫女”として、というよりも”英雄”としての印象が強かったという点だろう。”英雄”リツカを支える”巫女”アルレスィア、といったところか。自分の見たリツカとは王都での印象が別物だった。


「そう思ったらもう、普通の子にしか見えなくなっちゃってね」

「それが良いと思うの」

「だろう? 良い子で凄い子っていうのは変わらないけどね」


 カルラは、ロミルダを信頼している。「ただの花屋が」とロミルダは照れたが、カルラは首を横に振った。職業の問題ではないのだ。アンネリスやその他の関係者達も、リツカとアルレスィアがロミルダを慕っていたと言っていたのだ。その通りだと、カルラは深く納得している。



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