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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑰

 


 暫く歩いていた二人の周りに、住民が集まって来た。咄嗟にアルレスィアを背に庇ってしまうリツカ。しかし住民はそれに気付かなかった。近づくや否や、住民達が頭を下げたからだ。


「え、っと?」

「この度はありがとうございました!」

(どこから伝わったんだろ。シーアさん?)

「町の警備隊からお聞きしました! 巫女様方のお陰でこんなにも早く解決を……」

「あのような大軍、我々だけではとても……犠牲も出ていたでしょう……」


 最初に防衛していた警備の者達が話したようだ。


「何でも千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回りだったとか……流石は噂に名高き赤の巫女様……」

(どんな噂なのかな? もしかしてアレ?)

(……ライゼさんに会ったら言う事が増えました)

(そういえばライゼさん由来だった……。って、ここまで伝わってるの……?)


 アルレスィアとリツカの脳裏には、ライゼルトがつけた渾名の数々が思い浮かんでいた。


「大した事は、何も。今回は仲間が殆ど対処してくれたので」

「それに私達は、マリスタザリアへの対処とはいえ、許可も無く酪農場を全滅させてしまいました」

「いえ……確かに少しの間は苦しいでしょうが、前町長の件も合わせて考えれば余裕があるくらいでして」

「そう、なんですか?」

「はい。今まで王国の支援金を横取りされていたらしく……それが我々の為に使われるようになったので、買い付けもすぐに出来るんです」


 すでにクロードの不祥事は知れ渡り、対処もされている。もちろん巫女一行が解決した事も。巫女が作った損失よりも、もたらした恩恵の方が大きい。お金で解決できる家畜達がマリスタザリア化した。それらが本来起こすはずだった暴風を鎮めたのだ。命はお金に変える事等出来ない。


(そんな事になってたんだ)

(シーアさんから聞く機会が中々取れませんでしたからね)

(脱税って事かな?)

(脱税もでしょうけど横領や、他にもありそうです)


 リツカ達は今始めて、クロードの悪事を知った。レティシアに対しての暴言を聞いただけで、二人はクロードの性根を把握していた。だから、悪事の内容は気にしなかったのだ。


「なので、是非こちらを!」

「え?」


 住民達が道を開けると、大量の食材や調度品が積まれていた。


「いえ、いただけませんよ……?」

「買い物をしにきたのでしょう。でしたら、こちらを! 新鮮なお肉や今朝取れたばかりの野菜もあります! 少ないですが、川魚も! 我々の命を助けてもらった礼と考えたら、まだまだ少ない程です!」


 リツカは普段から、こういったお返しを好まない。しか時と場合による。今ここにあるお礼の数々は、リツカ達が欲していた物が多くあった。


(あれ全部買い揃えようと思ったら、時間かかりすぎるよね)

(あり難い申し出ですけど、この量は流石に……)

(だよね。じゃあ、買おっか)


 リツカとアルレスィアが目を会わせ頷きあう。


「せめて、代金を支払わせてください」

「いえいえ! お礼なのですから!」

「いえ、私達は国からお金を貰っているのです。お礼を受け取る事は出来ません。ですけど、私達に必要な物で間違いありません」

「ですから、買わせてください」

「そ、そうですか……。巫女様方がよろしいのであれば……」

「あっ! 俺が運んで――」

「いえ。大丈夫ですよ」


 納得のいく形で取引を終えたアルレスィア達は、それを船に運ぶ。かなり重い荷車だが、リツカが”強化”を発動し曳いていくようだ。男達三人でやっと運んだ物を、こんな華奢な体で運べるはずがないと訝っている。


「家具足りてるかな」

「少し、足りませんね。食材ももっと買い足しておきたいです」

「明日の予定は変わらない?」

「もう少し滞在する事になるでしょうね」

「そういえば、地図も書き足さないといけなかったね」


 船に向かって、二人が歩き出す。男三人が必死で曳いてきた荷車を、片手で力を入れた様子すらなく曳き始めたリツカに、男達は固まってしまった。


「だらしない男達よね」

「三人がかりでヒィヒィ言ってたわよねぇ」

「ていうか、何で魔法使わなかったのかしら」

「さぁ? かっこいい所見せようとしたんじゃない?」

「何それぇ」


 荷車を押した事が無いのだろう。女達は荷車をまともに押せなかった男達を肴に盛り上がっている。

 リツカとしては、運ぶのが辛そうな男達の代わりに運んでいるだけなのだが。


「さて、帰りましょうか」

「うんっ」


 アルレスィアが差し伸べた手をリツカが取る。まるで舞踏会を誘うかのような優雅さに、色々と疑問を持っていた住民達は見惚れていた。ただ一つ、リツカが軽々と運んでいる荷車だけが景観にあっていなくて、戸惑う事ばかりだった。




「結構良いお肉?」


 後ろの荷車の中にあるお肉をチラッと見てみます。一人一枚のつもりが、こんな山盛りに……。


「そうですね。筋が少なく、油が程よく差してます。良いお肉ですね」

「やっぱりステーキかな?」

「薄切りのお肉もあるみたいですから、リッカさまが言っていた」

「すき焼き?」

「はい。それでも良いかと」

 

 醤油もどきと砂糖があれば作れるはずです。先にお肉を焼いて食べるパターンと、煮るパターン。どちらが良いでしょう。生肉は早めに処理しないといけないとはいえ、ステーキとすき焼きどっちもという訳にはいかないでしょう。


「大荷物ですネ」


 シーアさんが戻ってきました。そうですね。シーアさんに託しましょう。


「どうだった?」

「予約は出来ましタ。これは一体?」

「先程の騒動を治めたお礼と、皆さんで集めてきてくれたのです」

「貰う訳にはいかないから、お代を払って買ったんだ」


 シーアさんが荷車に跳び乗って、荷物を確認しています。足りていない物の確認には丁度良いですね。


「律儀だな。相変わらず」

「それが普通なんですヨ。大体私は酪農場を壊滅させてますからネ」

「良くまぁ、こんだけくれたな」

「クロードのお馬鹿のお陰でハ?」

「そんな事言ってたね」

「横領分を考えればむしろ黒字といった内容でした」


 シーアさんの口から、元町長のことを聞きます。共和国でどうだったか、とかです。どうやらずっと、シーアさんを揖斐っていたようです。あの愚か者に一撃くらい入れておくべきでした。



 船に戻ったら、晩御飯を食べて明日の事を話しましょう。やる事は山積みなんです。


(せっかく昨日、予定を詰めたんだけどなぁ)


 明日もきっと、昼過ぎ出発になりそうです。でも、確実に一歩を踏み出します。問題ありません。




  暗い、暗い城の奥。玉座の在る広間。影が五つ、それぞれ思い思いに動いている。


「まっくー、おれたー」

「あぁ? やっぱこれと同じのは作れんか」


 片刃の剣が、鈍い光を帯びる。世界に三本しかないシルエットのそれは、リツカとウィンツェッツの手元に一本ずつ、そしてもう一本は――王都に保管されているはずの物だ。


「全く。ほら」

「おにんぎょーさーん。さいかーい」

「……」


 胡坐をかいたマクゼルトと、剣を持った少女が仲良さげに話している。お人形さんと呼ばれた者と少女が切り結ぶ。激しい剣戟が鳴り響く広間にて、玉座から二人がそれを眺める。


「それで、どうであった」

「万事恙無く。魔王様には手間をかけさせてしまい、申し訳ございません」


 魔王に影は頭を下げる。手でそれを制した魔王は頬杖をつき、少女と人形を再び見ている。


「我に何の頼み事かと思えば」

「どうしても欲しかったのですよ」

「フッ……次はお前か」


 魔王の質問に、影は口角を上げて答える。


「もちろんです。マクゼルトの了承も得ています」

「必要な物は?」

「そうですね。では――」


 影は魔王に伝える。それを、マクゼルトが見ていた。


(……)

「まっくー」

「あん?」

「おれたー」

「だから、早ぇって」

「だってー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだもーん」


 少女が可愛らしく腕を組み、そっぽを向いている。


「もうちっと待て。んで、今度のはどうだった」

「まえのほうがかたかった」

「あー……」

(全く、良いの作りやがったな)


 次の剣を投げ渡し、横になる。まだまだ怪我が治っていないようだ。魔王の居城では、弛緩した空気が流れている。周囲を取り巻く悪意に目を瞑れば、だが。


()()()も終わりか)

「まっくー」

「ほら」

「わわっ」


 マクゼルトが投げ渡した剣を受け取った少女が、ぷくーっと頬を膨らませた。


「ちーがーうー!」

「あ?」


 良く見ると、少女は剣を二本持っている。


「まっくーがたたかって」

「はぁ……あぁ」


 人形がいつの間にか居なくなっている。マクゼルトが起き上がり、少女から投げ返された剣を取った。怪我は治っていないが、少女と遊ぶくらいは出来る。


 魔王達がまた、何かをしようとしているようだ。気をつけておくれ。きみ達なら、何だって――。



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