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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』悪意の影響④



「うお……巫女様方……」

「さっきの事どうする? 聞くか?」

「いや、止めようぜ」


 バルト達三人が少し離れ、巫女二人を窺っている。話す良い機会だと思っているようだが、男の一人は巫女達がそんなに強くあって欲しくないようだ。というより、天使の様な二人がこの惨状を作ったと思いたくないようだ。


「アリスさんアリスさん」

(助かった。これで巫女も止まるだろ)

「いいえ、リッカさま。レイメイさんに助け舟は必要ありません。大体この人は感謝が足りないのです」

「それも、そうだね」

「……」


 袖を引いてアルレスィアを止めようとしたリツカ。しかしアルレスィアは止まらない。こちらも普段から、ウィンツェッツのリツカへの態度にイラついていたのだろう。


(急ぎの用事はないし、レイメイさんの総評はアリスさんがしてくれてる。私はどうしよう。纏めておこうかな)


 リツカが思考の渦に入っていく。今日の出来事を纏めるのに丁度良い時間だ。


(マリスタザリアが突然現れて、その中には強敵が二体。マリスタザリアの出現位置は酪農場とその他の場所。雑兵は酪農場。理由は基本的にドルラームとホルスターンだったから。強敵二体は肉食獣だったから別の場所)


 一つずつ確認していくリツカ。音が急速に遠のいていく。リツカが思考の渦に迷い込んだ時、音から離れていく。そして視界が狭まり、感知だけが残る。


(出てきた理由、か。悪意が急に溢れ出したから。それは魔王が吸収しなくなったからだよね。溢れた魔力を操作して、酪農場に集中させたはず。そうだけど、あの二体の出現理由……それは本当に、魔王が関係してるの? 大落窪が関係している、んだよね)


 今回は特に深く入っていく。もう敵が居ないとはいえ、こんなにも深く入っていくのは久しい。アルレスィアの声だけは最後まで薄っすらと耳を叩き続けるのだが、今回は少し、更に遠い。


「――――ン。リツ―――」

「お―――赤――」

「リッカ――」

(やっぱり私達が関係してるの? 私達を試す為に敵を生み出して、ぶつけてるって事? 思えばメルクの時もそんな感じがした。王都で起きた戦争だって、私を狙った物だった。しかもあの時は、ずっと私を観察した上で起こした物だった。観察して、研究して、私を確実にやるためだけにあんなに巧妙に――)

「リッカさま!」

「っ」


 肩を掴まれたリツカがハッとする。


「ご、ごめん」

「シーアさんも戻ってきました」

「でス。街の混乱は治まりましタ。すでに通常業務に戻ってるらしいですヨ」

「つっても、もう夕時だ。どうすんだ」

(どれだけ、考え込んでたんだろ)


 いつの間にか陽が沈みかけている。リツカがそれ程長く考えていたと取るべきか、アルレスィアがウィンツェッツをそれだけ長く説教していたと取るべきか。


(レイメイさん。こってり絞られたみたい)


 レティシアの表情からリツカが察する。


「食材を買いたかったけど、この時間じゃきついかな」

「そうですね……。まだ予定を一つも終える事が出来ていませんから、何か一つは終えたいのですけど」

「でハ、手分けしましょウ。私達が家具屋の方に予約入れてきますかラ、お二人は食材を出来るだけ多くお願いしまス」

「今日の分と適当な保存食で良いだろ」

「でス」

「じゃあ、すぐに動こうか」

「はい」


 二手に別れ、予定を少しでも多く消化する。残りは明日に持ち越しとなった。

 突然の強襲にも関わらず、街は穏やかだ。死人が出なかった時点で、大騒ぎする事もないという事だろう。しかしリツカとアルレスィアは分かっている。この穏やかさは、魔王が悪意を吸っているからだと。もし吸収されなかったら瞬く間に町が染まる事を知った。


「北だから、なのかな」

「私は、そうだと思っています。”神林”が近い南と西、魔王から遠いと思われる東は、ここまでの被害がないはずです」


 北以外で悪意吸収を止めても、この街のような被害が出るか考える。出ないというのが、二人の共通見解だ。大落窪の被害もそうだ。北が最も、危うい。


「ほぼ、北で確定かな……?」

「……導かれている、気もしますね」

「だよね。魔王に会ったら、全部聞く時間あるかな」

「魔王が饒舌なのは、メルクでも分かりましたから……機会はあるのではないかと」

「マクゼルトもだけど、向こうの陣営は饒舌だね。饒舌の質は違うけど」

「ですね。マクゼルトは楽しんでいますけど、魔王はこちらの不安を煽るような感じでした」


 メルクに続いて、強く魔王を感じた出来事だ。自然と話題は魔王の人と成りになっていった。答えの出ない、日常の会話。少々物騒だが、二人は特に深刻に考えていない。


 ただ倒す。そういう相手である事は間違いないし、実行するつもりだ。だけど二人が、魔王の考えを気にしている事も事実なのだ。


「出会えた魔王と幹部の二人の中で、影の幹部が一番厄介そうなんだよね」

「目的の為に手段を選ばない性格だと感じました。マクゼルトはシーアさんとレイメイさんを人質にしながらも、こちらが言う通りにしていたら攻撃を加えてきませんでした。しかし、影の者は……」

「うん。絶対に、何でもする」


 リツカがアルレスィアを守るためなら何でもするし、最優先にするという事はバレている。これは魔王達にとって最大のチャンスとなってしまった。どんなに自分達が止めを刺されようとしても、アルレスィアを狙えば回避出来る。マクゼルトとの戦いで、それを見せてしまった。


(一番厄介だけど、それは内面の話。戦闘力だと……あの時、盗賊を惨殺した相手が……)


 マクゼルトと同等かそれ以上の体術と剣術を持った者、もしくは者達。体術側は女性。剣術側の性別は分からないが、太刀筋が綺麗だった。リツカでも驚嘆する程だったのだ。


(これが、同一人物だったら……)


 体術と剣術を併せ持ち、マリスタザリアの力を有している。それこそまさに、化け物だ。


「マクゼルトの手の内は結構手に入れたけど」

「残りの幹部、二人か三人……もしくはそれ以上の者達の力は未だ謎が多いです」

「そして魔王は欠片でも、そんな幹部達の誰よりも……」

「あの時点で、マクゼルト以上だと感じました」

「魔王の行動理念とか考えるのは……まだまだ早い、かな」


 まだ幹部を一人も倒せていない。せめて一人でも減らさなければ、魔王との戦いすら侭ならない。魔王の真意を考えるにしても、状況証拠しかないのだ。


「買い物しよっか」

「はいっ。何を買いましょう?」


 一先ず、魔王の事を切り上げる。市場についた二人は買い物を開始するようだ。


「牧場全滅させちゃったから、お肉買うのにちょっとだけ抵抗が……」

「そうですね……。これから暫くは、この町の食卓からお肉が消えてしまう可能性があります」


 流通も、西との交流は大落窪で遮断されている。あの危険地帯を通って行商するのは推奨出来ない。


「お魚も少なからずありますけど、干物や冷凍が主のようです。鮮度の高い蛋白源であるお肉を私達が買うのは……」

「だよねぇ……。今日は野菜とお魚にしよっか」

「シーアさん達との約束を反故にしてしまいますけど、理解してもらいましょう」


 理由があっても、酪農場を滅茶苦茶にしてしまった罪悪感は否めない。罪滅ぼしというわけではないが、在庫の多い食材を買うようだ。


「でも、一人一枚ずつくらいなら良いんじゃないかな?」

「シーアさんは今日も奮闘してくれましたし、レイメイさんは……頑張ったのは確かですから、約束はなるべく果たしたいですね」

「うん。じゃあ、お魚と野菜、お肉を少しに干物や乾物を多めだね」

「はいっ」


 買うものを決め、市場に足を踏み入れた。



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