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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑯



 まずは地図を埋める作業をしないといけませんね。私達は北東方面です。二つか三つは埋めたいですけど、無いなら無いで良いのです。


「買い物をしながら聞いていこっか」

「はいっ」


 家具屋や金物店も回りたいのですけど、時間が時間です。余り長々と探せませんね。明日の朝まで滞在する可能性を考えると、食材は明日の方が良いでしょうか。


 しかし早朝に仕入れをして、店頭に並ぶのは早くても七時か八時といった所。そんな時間に大量の買い物は迷惑というものです。


 やはり食材が先ですね。家具や金物の方を後にしましょう。でも、朝のうちに来店する事は伝えた方が良いですね。


「先に家具屋とかに伝えに行こう。もしかしたら、朝から開いてないかもしれないから」

「はい。朝から開けてもらえるようにお願いをしに行きましょう」


 開店を早めてもらえなくても良いです。行くという事だけは伝えておきたいです。


「うん?」

「久しぶりに見た気がしますね」


 大きな街はいくつか回りました。しかし、王都以外で花屋を見ませんでした。この街にはあるようです。


(時間が余り無いって確認したばっかりなのに)


 行ってみたいという衝動が起きてしまいます。王都よりもずっと北にある街です。そこにある花屋では、どんな草花と出会えるのでしょう。


「家具屋や金物店を明日にすると決めた事ですし、必要な物を買い終えたら寄ってみますか?」

「良いの?」

「もちろんですっ」


 新しい発見があるかもしれません。雪兎のような幻想的な動物もいるのです。北の固有種もあるはず。どんな花を咲かせるのでしょう。旅に出てから、花の勉強はストップしています。もっと色々と知りたいのですけど――って……。


「ぁ……」

「まさか、出たのですか?」

「うん……南西、だね。私達の船の近くかな」


 仕方ありません。まずはマリスタザリアを倒さなければいけません。


「すぐに向かいましょう。時間をかけなければ予定通り動けます」

「結構大きいのが二つと小さいのが三つあるっぽい」

「レイメイさんとシーアさんを呼んだ方が良さそうですね」


 アリスさんの”伝言”と同時に街がざわつきました。マリスタザリアに気付いた人達が騒ぎ出したのでしょう。このままでは不安で悪意が高まり、より大きな騒ぎになります。


「シーアさん達も気付いたようで、今向かっているそうです」

「じゃあ、向こうで合流しよう」

「はい。レイメイさんに対処を任せるという話でしたけど」

「人命優先だから、現場を見てからかな」


 余りにも切迫していれば、一も二もありません。私が飛び出します。余裕があるようなら、雑兵を私が片付けます。


「この街にも腕利きが居るみたい。食い止めてくれてる」

「倒せそうですか?」

「防衛が主みたいで、マリスタザリアの数が減らないね」


 街の人間が逃げ切るまで守りに専念しているのでしょう。しかし、このままではジリ貧です。予想通りマリスタザリアがじわじわ増えています。船から少しだけ離れた所にあった酪農場からでしょう。


「反撃出来るか微妙なところ。殺意の方が強い」


 現場に急ぎながら敵の詳細を感知します。マリスタザリアから弄ばれている気配はありません。もしそうなら反撃出来たでしょうけど、このままでは守ったまま力尽きる人も出そうです。


「その状況ですと、雑兵から片付けた方が良さそうですね」

「うん。シーアさんが来るまで、私が数を減らすよ。アリスさんはまず治療を」

「はい。治療を終えたら私が防衛をします」

「お願いね」


 そろそろ着きます。人が疎らになっていますけど、まだまだ住民が居ますね。これでは下がるに下がれません。


 丁度二体が、盾を攻撃しようとしていました。あの威力と盾の耐久、壊れます。


「先行くね」

「お気をつけて」


 ”抱擁強化”で駆け、盾の前に。盾に当たりそうになっていた二匹の拳。うち一匹の手首を捻り上げ、もう片方の隣に飛ぶように投げる。


 小手返しと呼ばれる技です。本来は投げたら地面に叩きつけるようにするのですが、少し高く投げました。衝撃ですら致命傷になりえるマリスタザリアの攻撃。でも衝撃は……魔力を放ち相殺。一匹分の攻撃は盾に当たりますが、一匹分ならばギリギリ盾が保ちます。


「ハッ!?」

「浮い――!?」

 

 頑張っている中、いきなり驚かせてしまって申し訳なく思います。でも、防衛の方に説明している暇はありません。


 投げたマリスタザリアと盾を殴りつけたマリスタザリア、二体の首が直線で重なった瞬間を狙い――。


「――シッ!!」


 居合い。そして、納刀。マリスタザリアの絶命を確認しました。マリスタザリアがまた増えましたね。二十体を超えました。


「レイメイさんはもう少しかかるみたい」

「治療が必要な人は居ません。私が盾を代わりましょう」

「うん。防衛している方達は、街に戻って避難誘導をお願いします。混乱を治めなければ敵が出続けますから、全員で」

「だ……し、しかしこの数では!」


 いきなりやって来た人間に命令されても、すぐには動いてはくれませんね。それでも重要なのはここではないのです。街の中から溢れてくる悪意です。それにしても、最初の大群はなぜやって来たのでしょう。あの強力な二体は……。まさか、大落窪……?


「問題ありません。一匹も後ろにやりません」

「ッ――!?」


 思考の渦に入るのは後です。とにかく騒ぎを止めます。


月光の輝きを(【モディク・)纏いし城壁よ(ヴォグマゥ】)()私の想(【グフュ・)いを受け聳(アウシュ】・)え立て(オルイグナス)!!」


 丁度、アリスさんの”光の城壁”が建ちました。街の一角を完全に守りきれる程広範囲の城壁に、私達の実力を訝っていた人達が大口を開けて呆然としています。


「街の混乱を治めてくれますか」

「ハ、ハイ! すぐに!」


 マリスタザリアが城壁を殴っていますが、無駄です。その程度では傷一つ付きません。


「リッカさま」

「逃げるように下がってる人達じゃなくて、目の前の生意気な私を殺したがってる。大丈夫」

「では……予定通りに」

「うん」


 私が表で戦い続ける限り、殺意の高いマリスタザリアは私を狙います。遊び癖が強い個体はその限りではありませんけど、それまでにはレイメイさんが着くでしょう。


「レイメイさんとシーアさんには私から話します」

「じゃあこっちに集中するね」

「はい。後ろは私にお任せ下さい」


 アリスさんが後ろの街を気にしてくれます。これで、前のマリスタザリアに集中できます。


「――行くよ」


 盾を飛び出し、三体を斬り捨てます。雑兵は問題ありません。しかし、強い二体の敵も私を襲って来てます。この二体は体術を使うようです。私が殺せれば良いのでしょう。回りの雑兵を巻き込んでいます。私が攻撃せずとも数は減らせそうですね。上手く誘導して雑兵を減らしましょう。


(まだ増えて……何故こんなにも簡単に悪意が溢れて……? いえ、魔王が吸収するのを止めているのですね。本来はこんなにも簡単に、悪意が吹き荒れるのですか……?)


 悪意が止まりません。マリスタザリアの増加が止まらないのです。強敵の攻撃も苛烈さを増してきています。敵の数も増えてきています。もっと減らさないと、住民の不安も拭えないでしょう。反撃します。


「始まってましたネ」

「すぐに加勢する」


 シーアさんとレイメイさんが来ましたね。この戦場、強敵二体をレイメイさんが担当するのなら、私が出来る事は余りありません。雑兵はシーアさんが一撃です。


「レイメイさんは、リッカさまを攻撃している二体をお願いします。あの中で一番強い敵です」

「あ?」

「そういう約束をしたでしょう」

「待ってたんか」

「リッカさまは、レイメイさんに早く強くなって欲しいのです」

「……行くぞ」


 レイメイさんが割って入り、強敵と戦い始めました。私は手近の雑兵二体を斬り捨て下がります。


「シーアさん後はお願い」

「任せて下さイ。サボリさン、離れてくださイ」

「無茶言うな。結構強ぇ」


 相手は私を倒す為にギアを上げています。今が一番強い――。


「……っこれは!」

「シーアさん。急ぎ雑兵をお願いします。悪意が集まっています。これは……神誕祭の状況に、似ています」

「イェルクの時ですカ。仕方ありませんネ。サボリさんが上手く避ける事を願いましょウ」


 ”抱擁強化”に初めて目覚めた時や司祭イぇルクが変質した時に似ています。あの二体が強化されるかもしれません。その前に雑兵を片付けないと。


 その二体とはレイメイさんに戦ってもらいますけど、私も……いつでも戦えるようにしておきます。



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