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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑭



 シーアさんが”転写”を構えていました。このアリスさんは独占させてもらいます。写真を見るであろうエリスさんとエルさんには渡しません。


「リッカ、さま」

「して、良いんだよね?」

「は、はひっ」


 綿の様な雪兎ではなく、絹の様なアリスさんの肌。手袋越しでしか触っていなかった雪兎ではなく、アリスさんだとその肌の温もりを全て堪能出来るのです。雪兎と戯れる予定が、アリスさんに甘えてもらえるとは。私が甘えているのでしょうか。どちらでも、構わないですね。早くアリスさんに。


「ぃ、いくよ?」

「どう……ぞ、リッカさま」


 頬擦りは何度もしています。いつも通り抱き寄せて……抱き寄せて……。


「……」

「リッカ、さま?」

「ぅ……」


 何でこんなに緊張を……。いつも待ち望んでいたはずです。どんな時でも、こういった一時を、大切に想い、何度もしたいと……。ちょっと抱き寄せて、頬擦りするだけ……こんな簡単な事が出来ません。


「……」

「……」


 こんなヘタレでどうするのでしょう。アリスさんもきっと呆れて……。ここは男らしく……男? 私、女……。頭混乱して? あう……。


「……えいっ」

「ぅきゅっ!?」


 抱き……? 押し倒……!? ここで倒れたら、アリスさんが怪我する可能性が……!


 ギリギリ耐え、アリスさんを。受け止めきります。先んじられた上に、このままではアリスさんに主導権を渡してしまいます。今回は私がアリスさんを癒すのです!


「私への頬擦りをお願いして、リッカさまはそれを受けたのです。つまり……逆でも良いのですよねっ」

「ぁ……わ、私がするのっ」

「早い者……勝ちですっ」


 あぁ……っ! アリスさんのすべすべで……張りがあって、吸い付くような……頬が……私の頬にっ。


「リッカさまの頬は、オモチみたいですね」


 アリスさんに教えた、向こうの世界の食べ物です。アリスさんの頬は白玉のようです。


「もっと、欲しいです」

「アリスさんなら……良いよ……」


 あぁ……っ。私は何て、弱いのでしょう……。流されて、アリスさんに捧げてしまいました。私がアリスさんを癒そうとしたのに、これでは私が癒されっぱなしです。


「他に、して欲しい事ある?」

「……え?」

「頬擦りしたいのは私だから、アリスさんがしたい事、して良いよ?」


 私とアリスさんの間に、ギブアンドテイクはありません。それでも私は、アリスさんから受けるだけは嫌です。アリスさんにはいつも支えられているのです。アリスさんも、思い通りにならない私に気疲れを起こしているかもしれません。だから私はいっぱい、アリスさんを癒したい。これはアリスさんから受けた癒しを返すといった物ではなく、私の想いです。アリスさんが大切なのです。


「き……今日のお願いは、使いましたから……。ちゃんと私の作った髪型で居てくれています」

「お願いじゃなくて、私からの懇願って事で。私も欲しいな?」


 アリスさんの欲しい物が、私も欲しいです。本心です。


「では……私が合図するまで目を、閉じていて下さい……」

「うん!」


 目を閉じると、より強くアリスさんの肌を感じます。視覚に頼らない訓練の賜物でしょう。目を閉じると、耳、鼻、肌、第六感が強く働くのです。漠然とした情報の方が、脳をより刺激します。アリスさんを強く感じるのです。


「……」


 アリスさんがじっと、私を感じています。目を閉じているから、詳細は分かりません。でも私は受け入れます。


 首筋、背中、腰、肩、頬、瞼、頭。アリスさんが触れていっています。全身ふかふかで、良い香りがして、溶けそう。


「リッカさま……」

「ぁぅ……!」


 名前を呼ばれると、脳髄がビリビリと痺れます。自分からお願いして、アリスさんの欲しいままに私を捧げています。しかしこれは……っいつもより激し……!


「そのまま……いて下さい」


 アリスさんが私を抱き締めたまま、私の背後に回りました。背中も、温かくなっていきます。


「ぅぅ……」


 見たいときに見れない事が多いです。今のアリスさんは、どんな表情をしているのでしょう。幸せそうなら、良いのですけど……。


(シーアさんを待たせていますし、そろそろ……しかし……リッカさま……)


 アリスさんの手がお腹を撫でています。


「リッカさま。もう、目を開けて……大丈夫です」

「良いの……?」

「……はいっ」


 物足りないようですけど……目を開けます。私の前に戻ってくれていたアリスさんと目が合いました。やっぱり、物足りないようです。


「続け、ないの?」

「ここでは、ゆっくり出来ませんから」

「じゃあ船で、続きする?」

「……良いの、ですか?」

「うん。私からの、お願い。今度は目を、開けてたいな?」


 アリスさんの表情を見ていたいです。目を閉じているのも趣があって良かったですけど、やっぱり見たいのです。 


「ぜ、善処しますっ」

(み、見られてしまうのでしたら……気をつけないといけませんね……っ)

「うん?」


 アリスさんが気合を入れなおしています。緊張もしてるような。見られると恥ずかしい? のでしょうか。


「目、瞑ってた方が良かったり?」

「い、いえっ。リッカさまは、私の表情を見たいのです、よね」

「うん。気になっては、いるかな」


 それに、私も抱き締めたいです。


「それでは、夜寝るときに……っ」


 帰ってすぐではないんですね。我慢出来るでしょうか。


「シーアさんと雪兎が待っていますよ。リッカさま」

「雪兎。次はいつ見れるか分からないしね」


 シーアさんを待たせては申し訳ないですね。


「戻りましょう?」

「うん」


 エリスさん達に見せるための写真なのでしょうけど、撮られないようにしましょう。エリスさん達になら見られても問題はありませんけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。




 戻ると、氷の床に雪が敷かれていました。人口の雪も綺麗ですね。ごわごわしているのはやっぱり、人工だからでしょうか。


「戻りましたカ。雪兎は今お食事中でス」

「そうなの? 見えないけど」

「雪の中で食べるんですヨ」


 穴が空いており、そこを覗き込むと雪兎が一心不乱にキャベツを食べていました。


「結構買い込んだけど、何日分なの?」

「あれで五日分ですネ」

「一日一玉食べるの?」

「でス」


 この小さい体に、キャベツ一玉と蕗の薹が入るのですか。丸々と太るのでは……? それはそれで可愛いですね。


「シーアさんみたいですね」

「まァ、大食いな所は似てますネ。私と違っテ、雪兎はただの食事ですけド」

「シーアさんは違うのですか?」

「私は趣味ですネ」


 趣味で、あんなに食べられるんですか。違いますね。あんなに食べられるから趣味に出来るんですね。


「さテ、どうしますカ。まだ見ているなラ、戸締りだけお願いしたいのですけド」

「シーアさんはそろそろ行くのかな?」

「ですネ。外でサボリさんを知っている人達を待たせているのデ」

 

 レイメイさんの名前を出していたあの人達ですね。シーアさんとはこれから別行動です。シーアさんが動くのなら、私達も動くとしましょう。


「私達も行くよ」

「良いんでス? 次見ることが出来るか分かりませんヨ」

「一回も見れないはずの雪兎を一回でも見れたなら、それで満足かな」

「ですね。本来であれば絶対に見る事の出来なかったはずの子ですから」

「お二人が満足したなラ、見せた甲斐があったというものでス。でハ、ご飯に夢中になっている間に行きましょウ」


 共和国に行く予定はあります。その時にまた見れるかは運ですね。一期一会です。一度の出会いであっても、私達には思い出です。


(また会えたら、餌やりとかしてみたいな。雪の下でしか食べないみたいだから、無理かもしれないけど)


 楽しみを後に取って置く。そういう生き方もあるのです。アリスさんとの抱擁をお預けされていますけど、楽しみで仕方ありません。


「きゅきゅ」


 まだ食べている最中の雪兎が顔を出しました。


「食べなくて良いの?」

「きゅっ」


 まるで、「またね」と言っているようです。気のせいですかね。


「気のせいではないと思いますよ」

「そうかな?」

「はい。この様子だと、会いに来てくれるかもしれませんね」


 想像するくらいは、許されるでしょう。次会えた時、元気な姿だと良いなぁって思っています。


「またね」

「きゅぅ」


 

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