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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑬


 時間は一時間前に遡る。


 逮捕された町長を拘置所に押し込んで貰いました。私達が出発するまで、もう二度と見たくない顔です。見たくない顔ベスト三に入ります。ちなみに、圧倒的一位は下衆です。


「それじゃ、雪兎に会いに行こう?」

「雪兎も安心して過ごせるでしょう。あんな人と一緒ではストレスです」

(貶された私より怒ってます)

「とりあえず注意点だけヲ、っト」


 シーアさんが何かに気がつきました。視線を追うと、男性の一団が走ってきています。というより、よく見たらすごい人だかりですね。


「ウィンツェッツさんが言ってた事、誇張じゃなかったんだな……」

「こっち見てないか?」

「俺等みたいなのに興味持つわけないだろ」


 今、レイメイさんの名前が聞こえましたね。少し話を――。


「巫女さん達は先に中に入っててくださイ。これ以上は暴動になりまス」

「リッカさま。シーアさんの言うとおりにしましょう。このままでは皆さんの邪魔になってしまいます」


 話を聞こうと思いましたけど、シーアさんの提案を聞き入れます。あの人達からの話は、シーアさんにお願いしておきます。


 大捕り物になってしまいましたね。ただ私がキレちゃっただけなんですけど……。逮捕じゃなくて強制送還ですし、その強制送還の理由もまだ不明だったりします。町民に嫌われる事みたいですけど、何でしょう。後で聞かないと。


「うん。分かった」

「雪兎にはまだ触っちゃ駄目ですヨ。私が”冷気”かけかますかラ」

「頑張る」

「絶対ですヨ?」


 どれ程可愛いかによります。でも大丈夫です。私の体温は結構高いみたいなので、雪兎には毒でしょう。しっかり理解しています。


 それでは、ご対面といきましょう。氷の様な冷たい扉を、注意しながら開けます。


 中はまさに、氷の世界。全面氷漬けなので鏡のようになっています。雪の様な物がありますけど、本物を知らないのでこれが雪といえるのか分かりません。雪兎は何処でしょう。


(雪っぽい物の中に)


 何か、綿みたいなのが――。

 



 巫女さん達が居なくなり、人が疎らになっていきました。まだまだ人だかりは出来てますけど、先程よりはずっと動きやすいです。


「すみませン」

「な、何でしょう」

(ほ、他の国の子かな? ちっちゃくて可愛いなぁ)

「先程サボ……ウィンツェッツと言ってましたけド」

「へ? あ、はい」

「お知り合いですカ?」


 鍛治屋ってところでしょうね。サボリさんはそこを目指していた訳ですから、そこで知り合ったのでしょう。しかし、何故その人たちがここに? まさか、巫女さん達をわざわざ見に来たんですか? 仕事を放って? お馬鹿なんですかネ。


「えぇ。うちの鍛治屋に今居ますよ」

「そうですカ。すぐに戻るのデ、待っててくださイ。その人に用がありますかラ」

「え? あ、はい」

(この子と一緒なら、巫女様達と話す機会もあるんじゃ……というより)

「えっと、ウィンツェッツさんとはどういう」

「ふむ」


 本当の事を言うかどうかですね。面倒な話です。何で私がサボリさんが嫉妬されるかどうかで迷わないといけないのでしょう。巫女さんとリツカお姉さんの為なら労を惜しみませんけどね。


「一緒に旅してるんですヨ」

「お嬢さんと、ウィンツェッツさんが?」

「ですネ」


 このままだと二人旅って事になりますね。でも当然、私と巫女さん達の関係も気になっているわけですから。


「巫女様達とは、どういった関係、何ですか?」

「旅の仲間ですヨ」


 私の姉のような方達です。どこまでも真っ直ぐで、優しくて、信頼出来る姉です。これは私だけのものです。人に教えてあげる必要はないです。


「ウィンツェッツさんも……?」

「男手そのニでス」


 その一は、今は行方不明ですから。連れ戻したら今まで以上に働いてもらいます。片腕でも関係ないです。


「……」

「とりあえズ、待っていてくださイ」

「は……はい」


 何を落ち込んでいるのか、大体は分かっています。でもそれを気にしてあげる必要性を感じません。どんなに慰めても、一緒に旅をする訳ではないのですからね。羨むならサボリさん相手に突っかかって下さい。その方が面白いです。


 さて、成金邸はしっかりと冷え切っていますね。これなら問題ないです。巫女さんとリツカお姉さんは奥まで行っているみたいです。私もすぐに行きましょう。きっと我慢して――。


「ふぁぁぁあ……可愛い……。まだ触っちゃダメ?」

「まだダメですよリッカさま。しかし、これは……本当にリッカさまの色に……」

「白色より白銀で、アリスさんの髪に似てるね!」


 我慢も限界といった声です。早く向かいましょう。


「お待たせしましタ。この手袋をつけてくださイ。”冷気”付きでス」

「ありがとう! シーアさん」


 早く触りたいと目で訴えていたリツカお姉さんが手袋をつけています。


「巫女さんもどうゾ」

「ありがとうございます。シーアさんはよろしいのですか?」

「私は既ニ、マントにかけてますかラ」

「ふぁぁぁぁ……もこもこふわふわ……」


 私の時同様、雪兎がリツカお姉さんの手の上で首を傾げるようにしてます。何てあざといのでしょう。可愛いですけど、こんな魔性な部分があったんですね。論文に追加できそうです。


「アリスさんアリスさん。ふわもこ」

「本当ですね……綿よりも柔らかいです」


 お二人は雪兎に夢中です。今のうちにキャベツや蕗の薹を雪の下に設置しましょう。


「接触禁止になるのも分かるかも。自由に触れられるようになったら皆夢中になっちゃうよ」

「もし見学施設等があれば、毎日満員でしょうね。ここまで人懐っこいとは思いませんでした」

「そうだね。無警戒で近づいてくれたもんね」


 実際、雪兎の目撃例は多いのです。見つけたら近寄ってくるそうです。ただ色々と気配には敏感みたいで、狩猟目的の人が見つけた例は少ないです。


 それが、生存個体数の割りに絶滅しない理由です。ここ数十年、雪兎の数が激減したという話は一切聞かないそうです。激増もしないのは、雪兎達が自分で個体数を抑えているという研究結果が出ていますが、定かではありません。


「頬擦りしたいくらい……」

「リツカお姉さんの頬に”冷気”をかければ大丈夫ですけド、凍傷になりますネ」

「……」


 巫女さんが言うか迷っているような? 表情を隠しているので私には判断がつきません。しかし、何か言いそうですね。私の感覚が鋭く察知しています。今回は撮りますよ。


「リッカさま。あの」

「アリスさん?」


 巫女さんがリツカお姉さんの袖を掴みました。手袋は既に外しています。


「わ、私っ……私に……」

「ぅん」


 すでに解ったのでしょう。リツカお姉さんの頬が、雪兎の目よりずっと鮮明な赤になっていってます。そして巫女さんはもう、湯気が出そうなくらい真っ赤です。


「ぁ……す」

「……す?」


 リツカお姉さんも意地悪ですね。巫女さんの声で聞きたいのかもしれないのでしょうけど。


「すれば、良いのではっないでしょうかっ!」


 やっと言えましたね。さて、リツカお姉さんの反応はどうでしょう。いつものようにゆったりと実行するのでしょうか。そっと雪兎を置いて……? リツカお姉さんが消えて?


「シーアさんちょっと待っててね」

「あっ!」


 撮ってたのバレてました。リツカお姉さんが巫女さんを連れて部屋の奥へと消えてしまったのです。一番撮らないといけない所が撮れなくなってしまいました。


「外の鍛治師さん達に、もうちょっと待ってもらうように言っておきますか」

「きゅきゅ?」


 後でもっと、雪兎と戯れるでしょう。今日で最後かもしれないのですからね。そうなると時間がかかります。サボリさんが鍛治屋で待っているかは微妙ですけど、鍛治屋に向かうのは確定しているのです。先に伝えておかないといけません。


 中々良い写真が撮れませんね。これだけでも良いには良いでしょうけど。手に持っているのは、巫女さんとリツカお姉さんが赤い顔して見詰め合ってる写真です。これでもエリスさんへのお土産には十分でしょうけど、そこは私です。しっかりと、予想以上の写真をお届けしますよ。



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