王国③
「初めまして。コルメンス・カウル・キャスヴァル。現国王です。是非、コルメンスとお呼びください」
「お初にお目にかかります、陛下。”巫女”アルレスィア・ソレ・クレイドルです」
「六花……立花、です。リツカの方が名前なので、そちらでお願いします」
「畏まりました。リツカ様」
挨拶と軽い自己紹介をすませた後、アリスさんから事情説明が行われました。
・マリスタザリアの正体と生まれ方。
・魔王の存在。
・私が別世界の”巫女”で神さまから呼ばれたこと。等々。
私が聞いた、世界がどうやって生まれたかなどはボカしていたので……多分、話さないほうがいいのでしょう。気をつけないといけません。
その間私は手持ち無沙汰だったものですから、みっともなく辺りをキョロキョロと見てしまいました。お城って初めて見たものですから。
「リツカ様、興味がお有りなら王宮の見学でもいかがですか。私が即位した際、殆どの貴重品は手放してしまいましたが、まだ面白いものが眠っているかもしれません」
そんな私に見兼ねたのか、陛下が気を使ってくれました。王様から敬語で話しかけられて、思わず驚きが顔に出そうになります。
提案は、ほんとに嬉しいものでした。気になっていたのは事実です。
「お心遣いしていただき、ありがとうございます。ですが、私にも関係することですので、このまま一緒にお聞きしてもよろしいでしょうか」
丁寧に頭を垂れます。もうキョロキョロするのは止めよう。失礼すぎました。
でも……。
「もし、よろしければ……後ほどアリスさ……コホンッ。”巫女”様と一緒に見学させていただきたいのです」
アリスさんもきっと気になってるでしょうし、先に楽しむのは違うかなと思いました。
アリスさんが微笑んでくれたので……正解でしたかね。
「わかりました。では、後ほど案内をつけます」
やはり、敬語に違和感を感じてしまいます。
「あの、国王陛下。私はこの世界の”巫女”ではありませんし、敬語でなくても」
”お役目”に就く、”巫女”ではあります。年長者から、敬語で話しかけられることも……この世界に来て増えました。
ですけど私は、年長者からの敬語が好きではありません。あの時を思い出し、どうしても……。っ。
「あなたもこの世界のために戦う巫女様であることに変わりはありません。どうしてもと言うのでしたら、そうしますが……」
ここまで、言わせてしまっては、失礼になってしまいます。
「いえ、詮無いことを、いいました。ご期待に副えるよう、尽力します」
慣れて、いかないといけませんね。
アリスさんが私を心配そうに見ていましたけれど、何かを我慢するかのように飲み込み、話しを再開させました。
「では、国王陛下。これからのことについてのお話しをさせていただきます」
「はい、我々キャスヴァル王国は、巫女様方のご協力を惜しみません。どうぞ、なんなりとお申し付けください」
魔王がどういう存在なのか、まだわかっていないのです。
協力者は多ければ多いほど良く、王国からの協力が恙無くとりつけられたのは、これ以上ないほどに頼もしいものでした。
「ありがとうございます。我々もこの身を賭して尽力いたします」
アリスさんが頭を垂れます。私もそれに倣います。
そして具体的な内容をつめていきました。魔王の探索、マリスタザリア発生の際の連携、国民への注意喚起、避難誘導など。
「ひとまずは、これでよろしいかと思います」
「ありがとうございます。陛下」
確実に起こるであろう出来事を予見せずに対応を話し合わないのは……怠慢です。
だから状況確認よりもずっと慎重に話を詰めました。魔王の出方が分からないうちは、慎重すぎるという事はありません。
「もう一つお願いがございます。リッカさまの身分証を発行いたしたいのですけれど、よろしいでしょうか」
「わかりました。では、すぐにでも」
そう言って、陛下が部屋から出て行こうとしました。……陛下がいくんです?
「あの、私が自分で発行所まで」
一筆いただけるだけでいいのですけど……。
「いえ、お気になさらずに」
そういって、ニコリと微笑んだ陛下は……本当に出て行きました。もしかしなくても、陛下って。
「ねぇ、アリスさん。陛下って」
これ以上は失礼がすぎますので、言葉に詰まってしまいます。
「革命軍のリーダーではありましたけれど……元々は、小さな町の町長の息子だったそうです」
貴族階級出身のイメージでしたけど、通りで……。
「その、あれだね……。あまり、落ち着かないね」
アリスさんも困ったように笑ってはいますけど、あまり驚いてないということは……陛下があんなにも、国王らしくないのは、有名なようです。
そこに呆れや不信が含まれていないので、本当にいい国王陛下なのだと、私は思いました。
「お待たせしました。どうぞこちらを」
そういって陛下から、王国の紋章が書かれたカードのような物を渡されました。紋章以外は、何も書かれていませんね。
「そちらを手に持ち、魔力を込めてみてください」
言われた通りに魔力をこめるとカードが私の魔力色である赤色がカードに吸い込まれていきました。
「あとは、そのカードにあなたの名を書き判を押すだけです」
これがこの世界の身分証。いえ、王国の……でしょうか。
「身分証の提示を求められましたら、そのカードを見せ、魔力を込めてください。本人であったなら、カードが淡く光ります」
なるほど、よくできてますね。筆跡だけでなく、魔力での判別。本人確認で、これ以上はないでしょう。
赤い色で光っているように見えますけど、陛下にはただ単に光っているように見えているようです。
色が見えるのは、私とアリスさん含め三人。話の流れ的に、見えるのは魔王ですよね。結局聞けませんでしたけど……。
色が見えることにさほど意味はないようですし、気にしてもしかたないでしょう。
「本人以外では光りません。なくさないようお気をつけください」
しっかり両手で受け取り、言われた通りの事をして――名前は、アリスさんに書いてもらいました。これも特例です。だって文字書けない……。
こほん。ちゃんと大事に、仕舞います。
もう昼過ぎでしょうか、おなかがすいてきました。
「ところで、住む場所はいかがなさいましょう。よければ王宮に一室用意いたしますが」
陛下が提案してくれます。が、余り好ましくはありません。アリスさんがこちらを見ています。
「アリスさんが、決めて?」
お願いという仕草をし、アリスさんの決定に委ねます。アリスさんは微笑み、頷きました。
「ご提案は嬉しく思いますが、街で宿をとろうかと思っております。生活は、自分たちの力でやっていきたいと思っておりましたので」
私の気持ちを汲んでくれたのか、そう告げました
「わかりました、では何か御用がお有りの際は”伝言”魔法をお使いください」
伝言魔法? 電話のようなものでしょうか。……私は使えないでしょうし、アリスさんにお任せしておきましょう。
「それでは、今日くらいは王宮で御食事なさってください。その後王宮の案内をさせていただきます」
ありがたい申し出ではあるのですが……洋食のテーブルマナー、わからないのです。どうしましょう。
王宮を出たら、王国生活しばしスタートです。