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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑫



「もう来たんか」

「またレイメイさんだけですか」


 オルデクでの一件が思い出されます。


「今回は安心しろ」

「そうですね。中からシーアさんの魔力を感じますけれど」

「雪兎ってぇのを密輸したらしくてな。そいつが生きるのに最適な温度にしてんだと」

「雪兎?」


 雪で作った、あの兎でしょうか。魔法生物みたいなもの?


「共和国にだけ生息するという、寒冷地でしか生きられない兎ですね。生息個体は千羽程で、十度を越えると生きられないと言われています」

「そんな、幻想的な生き物が居るんだ」


 すごく、興味をそそられます。十度というと、人肌すら駄目ですね。抱っこは出来そうにないです。


「今入れば会えるかな?」

「接触は禁じられていますけれど、シーアさんの許可が出れば大丈夫だと思います」

「チビは抱き上げてたぞ」

「マントに冷気を纏わせたのでしょう。十度以下ならば弱る事はありません」


 抱き上げる方法はあるようです。どんな兎なのでしょう。イメージ通りなら、可愛らしい兎ちゃんのはず。


「シーアさんが出てきたら頼んでみましょう」

「うんっ」

「いやお前等、先にやる事あんだろ」


 雪兎を見ながらでも、良いじゃないですか。


「来てましたカ」

「雪兎ちゃん見ても良い?」

「え?」


 見たい気持ちが前面に出すぎてしまいました。まずはちゃんと、報告を聞きましょう。


「見せるのは構いませんけド、保護団体が来るまでの食事を用意しないといけないのデ、それの後で良いですカ」

「うんうん」

(少し複雑です)

(絶対巫女さんは嫉妬してます)


 どんな子でしょう。雪兎って事はやはり、アリスさんのように白くて赤い目なのでしょうか。先程動物に例えたら何? といった会話をしたからでしょう。ウサ耳をつけたアリスさんを想像してしまいます。可愛い……狐なアリスさんも可愛いけど、兎なアリスさんも……。


(絶対リツカお姉さんは巫女さんに関連付けてます。巫女さん顔真っ赤で恥ずかしがってます)

「早く移動しようぜ。視線が集まってきちまった」


 確かに、私達は目立つ集団ですね。そんな目立つ集団が、目立つ建物の前で何かしてたら注目されます。移動しましょう。


「餌を買いに行きます。キャベツ?」

「蕗の薹もでス」


 蕗の薹があるという事は、そこは雪解けがあるのですよね。そうなると雪兎の生息地としては温かくなりすぎるのではないでしょうか。


「雪兎は、蕗の薹が芽を出す瞬間が分かると言われています。雪解け前の一瞬の間に食べて、すばやく北上するのです」

「雪兎と山菜取りは常に競争してますヨ」

「上手く環境に適応してるんだね。雪の上なら、多少気温が高くても大丈夫なのかな?」

「はい。雪兎と接している部分が十度を越えない限りは大丈夫なはずです」


 儚い生き物です。雪が減り、温度がどんどん上がっていっている向こうの世界では生きる事は出来ないです。こちらの固有種ですね。


「餌の野菜を買うついでに、市場を見ておきましょう」

「うん。保存食を中心に、今晩から三日分くらいの生の物かな?」

「新鮮なお肉食べたいでス」

「もちろん買いますよ。ステーキにしましょうか」


 新鮮な生肉は久しぶりですね。アリスさんのお陰で食材の管理は完璧ですけど、生肉や生魚ほど管理が難しい食材はありません。お腹を壊すなんて、旅では致命的ですからね。


「俺は鍛冶屋に行く」

「分かりました」

「酒は頼んだぞ」

「はい」


 高いお酒でしたね。何でも良いって事でしたけど、よく分かりません。お店の人に聞くのが一番ですけど、未成年が尋ねて良い物なのでしょうか。


「サボリさんモ、料理人探ししてくださいヨ」

「あ?」

「忘れたんですカ。私を騙した罰ですヨ」

「あぁ……ブフォルムん時の……ありゃ元々お前ぇが」

「もう納得したでしょウ」

「チッ……分ぁった分ぁった」


 何か約束していたようです。料理人探し、というのはどういう? この船には最高の料理を作れるアリスさんが居るので必要ありませんし、別の件ですよね。


「リッカさま。参りましょう」

「うん。雪兎の餌って蕗の薹が最適なのかな?」

「雪の下で育った野菜が一番らしいです」

「グルメ?」

「かもしれませんね」


 クスクスとアリスさんが笑って、私の頬も綻びました。

 雪兎は贅沢っ子のようです。蕗の薹なんて、今では高級品ですからね。こちらでは結構安価みたいですけど、取れたてを食べるなんて。てんぷらが一番おいしいんでしたっけ。


「シーアさん。買い物しながら良いかな」

「いエ。話したい事はいくつかありますけド、町民には聞かれない方がいいでス」

「そうなの?」

「でス。なのデ、餌を買った後この家の中でしましょウ」

「うん」

「分かりました」


 町民に聞かれない方がいい話ですか。この街は確かに北の要所。町民達は活気に満ち溢れています。しかしながら、たかだか町長がこんな贅沢が出来るでしょうか。共和国の要職でもあるのかもしれませんけど、明らかに貴族。もっと直接的な言葉を使うと成金です。


 何かありますね。


「まァ、解決してますからお気になさらずニ」

「それなら、大丈夫かな」


 納得した結果にはならなかったようですけど、妥協は出来たみたいです。


「この街での活動は自由になってますかラ、安心してくださイ」

「ありがとうございます。シーアさん」


 ゆっくり買い物が出来て良かったです。その代わり、「この街での」ですか。


「それでは行動を開始しましょう」

「うん」

「あぁ」


 雪兎と戯れるために、餌を買いましょう。


「でハ。市場ってどっちですカ?」

「え? あ、あああっち」

(綺麗な人ばっかり……)

「ありがとうございまス」

 

 偶々近くを通りかかった男の子に、シーアさんが尋ねました。いきなり声をかけられたからか、どぎまぎとしながらも答えてはくれました。


「あっちにあるみたいでス」

「雪下キャベツとかはどうするの?」

「この家の中は今雪国ですから問題ないですヨ。雪の下で保存しましょウ」


 確か、北海道等ではそうやって保存していた所もあったと聞いています。じゃがいもだったかな? 


「蕗の薹は売ってるかな」

「少し時期は外れていますけど、食べてくれると思います」


 今だと、苦味が強くなっているかもしれませんね。栄養として摂るのであれば今でも十分でしょうけど、美味しいほうが良いですよね。


「手から食べてくれるかな?」

「雪兎を飼っている人を知らないので、人懐っこいかどうかは分かりませんね……」

「私には縋りついてきましたヨ」

「やっぱりもこもこなの?」

「もこもこふわふわでス」


 いいなぁ……私にも縋りついてくれるでしょうか。


「…………っ……!?」

(わ、私は何を兎に……雪兎に興味を持っているのは私に似て……あわ、わ……)

「アリスさん?」

「な、何でもありません。市場はあそこですね」

「うん?」

(巫女さんの嫉妬が日に日に強くなってる気がします)


 アリスさんの目がぐるぐるとしています。一体どうしたのでしょう……。混乱しているみたいですけど……。


(ここは()()()しますカ。クふふふ!)

「雪兎の目の色ハ、どちらかといえばリツカお姉さんの方に似てますネ」

「そうなのですか……リッカさまに……。私にも懐いてくれるでしょうか」

「巫女さんは優しいですからネ。動物には分かりますヨ」

「少し不安ですけど、楽しみですね」


 アリスさんの興味が雪兎に……。何でしょう。もやもやします。この感覚には何度かなっていますけど、記憶してる限り人相手が主で……動物にまでなった事は……。


「うん……? むぅ……」


 考えても分かりません。


「キャベツ。あそこかな」

「はい。そうですね」


 分からないのですから、目的を優先させます。考え事してたらすぐに元通りになるはずです。


 キャベツと蕗の薹、買う予定の食材。見ていきましょう。


(これは面白いですね。もっと遊べそうです)

(シーアさんの策に乗るのは気が乗りませんけど、今のリッカさまも可愛らしいです)

(アリスさんは元に戻ったけど、今度は私が……)


 あぁ……私は、日に日におかしく……? 気をしっかり持たないといけません、ね。



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