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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑩



「これが手配書か。似てんな」

「その目ってガラス細工かなんかなんでス?」

「あ?」


 どこをどう見たら似てるとか言えるんです? リツカお姉さんとか特に酷いですよ。


「どこを見たら似てるっていうんです」

「赤いとことか、白いとことか似てんだろ」

「……?」

 

 それだけです? 赤か白かだけなんです?


「一体どこで判断してるんですカ。顔が全然似てないでしょウ」

「顔とか覚えてねぇよ」

「ハ? もう一月以上見てきて何言ってるんでス?」

「見てねぇ物は見てねぇ」


 このまま見せない方が良いですね。男には刺激が強いお二人ですし、赤か白だけで判断して貰いましょう。しかし、アーデさんはこんな人のどこが良いのでしょうか。それともアーデさんはしっかり見てるんですかね。船で会った時すぐに分かってましたし、そういう事なんでしょうか。


「まァ、もうそれで良いでス」

「馬鹿にしてねぇか?」

「馬鹿にされない要素ありましたかネ。もうアーデさんだけ見ててくださいヨ。その方が巫女さんもリツカお姉さんも安心でス」


 とりあえず蔑んでおきます。メモ帳の、サボリさんお馬鹿ページに一文を書き加えて向かうとします。お師匠さんとアンネさんに見せて笑ってもらいましょう。


「ア。もしかして余りに美人すぎて目を合わせられないって話ですカ?」

「んなわけねぇだろ。あんなガキに見惚れるかよ」


 赤か白で認識して、年齢で恋愛対象かどうかを判断してるわけですね。健全ですね。先の連合の豪族のお馬鹿よりずっと良いですね。アーデさんも安心でしょう。逆に年齢が上の女性は対象になるって事ですから、その辺りに注意して監視しましょう。アーデさんへの連絡事項ページにも追加しておきます。オルデクで鼻の下を伸ばしていた、と。


「何書いてんだ」

「何でもないでス」

「嘘つけ。俺の事書いてたろ」

「中見たんでス? ヘンタイ!」

 

 わざとらしく胸にメモ帳を抱き締めて隠します。外から見れば、胸を隠しているだけに見えることでしょう。

 

「おいやめろ」

「乙女の秘密を見るとはヘンタイでス!」

「おいやめろ。周りの奴等が見てるだろうが」


 つまり、私に欲情したサボリさんが襲い掛かって来た様にしか見えないって事です。


「覚えていますカ」


 小声で尋ねます。


「あ? あぁ……料理人を探すとかいう奴か」

「覚えてるならいいでス」

 

 残念です。もし忘れていたら、それを口実にもっと荒らして上乗せしようと思ったんですけどね。とりあえず、お姉ちゃんのための、最高の料理人探しは出来そうです。


「それでは行きましょうカ」

「おい。誤解だけ解いていけよ」

「どうせ喧騒に揉まれて忘れ去られますヨ」

「本当か?」

「本当でス」


 多分、ですけド。




 呼び鈴を鳴らして数分、漸く出てきました。


「寒」


 サボリさんが寒さを感じたようです。私にも冷気が届きました。しかし、外気より寒いのは何故でしょう。


「どちら様かと思えば、姫様ではございませんか。何の用ですか。まさか……」


 共和国時代よりずっと太っています。指には豪奢な指輪が大量についてますし、ちらっと見えた家の中の装飾もごてごてしてます。成金です。だから嫌いなんですよ。

 その怯えも嘘ですね。まだまだお仕置きが足りませんでしたか。


「姫なんて思ってないんですかラ、言わなくて良いですヨ」

「相変わらずヘクバル語が苦手なようで。コルメンスの若造を焚きつけてまで何の用ですかな。痩せた鼠(メグスウィ)君」

「メグ……何だって?」

「メグスウィ。フラン語で痩せた鼠でス。孤児に向けられる蔑称ですヨ。まともな人間は使いませン」

「成程な。コイツが屑ってのは良く分ぁったよ」


 ごく一部の人間しか使わない言葉です。国内の公の場で使ったら、その人は一生()()()()()()で見られます。すぐに広まりますからね。


「この言葉を発した人間は仕事にあり付けずニ、自分がどんどん痩せていくんですヨ。今ではメグスウィとハ、言った人間に対する蔑称でもありまス」

「何だ。自己紹介だったのか」

「そういう事ですネ」

「……生意気なのも相変わらずのようだ」


 しかし、何でいきなりお兄ちゃんの話題になったのでしょう。

 ああ……私と同じように町を経由して連絡を取れば、お兄ちゃんもここになら連絡出来ますね。カルラさんが到着した頃でしょうし、私達の現状を知ったのかもしれません。先んじてノイスに釘を刺してくれたのでしょう。お兄ちゃんが即決するとは思えませんし、カルラさんのお陰でしょうか。


「お兄ちゃんが純粋ニ、私達を案じてくれただけですヨ」


 お兄ちゃんの忠告も意に介さないようです。少しは丸くなっていたかと思えば、より凶悪な害獣になってます。


「何にしても、誘拐犯からは逃げ出せたようですな。余計な者までついてきていますが」

「ですかラ、それは誤りでス。お兄ちゃんからも連絡が来ているでしょウ」

「はて。何の事やら」


 お兄ちゃんが抗議したはずですけど、この様子では街に伝わってません。ただ、お兄ちゃんと連絡出来たというのが分かっただけで収穫ですね。この人を捕まえればすぐに連絡出来ます。


「ところデ、その放送止めてくれませんカ」

「はい?」

「恍けても無駄なのは知っているでしょウ。何処に繋がってるんでス」


 街の放送局じゃないですね。元老院ですか。出てくるのに時間がかかったのは、元老院に繋いでいたからですか。


(忌々しい力だ……。女王は幽閉出来ている。この鼠には野垂れ死んでくれた方が良いのだが、元老院は何を考えているのか)

「元老院ですよ。早く貴女に帰って来て欲しいそうです」

「帰らずに野垂れ死んだ方が嬉しいんじゃないですカ。問題にしやすいですヨ」

《事は簡単ではないのですよ。レティシア様》


 黙っていた元老院が口を挟んできました。この前来ていたお馬鹿三人とは別の声です。この声は、エマニュエルでしたか。元老院の長です。


《貴女が死のうとも、交渉の材料に出来ませんのでね。こちらに戻ってきて貰い、賠償請求という形で進めるしかないのですよ》


 この人は別の意味で嫌いです。感情で動く他の人たちと違って冷静ですから。


「いっソ、こんな事止めたらどうでス。お兄ちゃんならある程度は許容してくれますヨ」

《女王陛下の生温い条件では納得出来ないのです。こちらに有利な状況を作った上で交渉したく思います》


 交渉じゃなく脅しです。つまりこの人は、私がどういった立ち位置かわかっているみたいです。


《貴女はどうやら、旅には必要な人材のようなので》


 リツカお姉さん達が自分を犠牲にしてまで止めたという事は伝わっているでしょう。だったらそれを利用しようとするのは当然です。


《コルメンス陛下においても、貴女はもはや知り合いの妹ではありませんからな》


 今では本当の妹です。こういった所が嫌いなんですよ。理詰めできます。私という立場は非常に隙だらけです。無理やり旅を強行するしか策がないのです。何よりお姉ちゃんが人質なのですから。


「お帰りにはならないのですかな」


 元老院の傀儡でしかないお馬鹿が口を開いてきます。傀儡なりに、甘い蜜を吸う努力だけはしているみたいですけどね。


「とりあえずサボリさン。その人捕まえてくださイ。話はそれからでス」

「あ? あぁ」

「な、何をする!?」


 太っていても、サボリさん以下の筋力です。脂肪の塊でしかないお馬鹿には振り解けませんよ。


《何をなさっているのですかな?》

「横領と税法違反でス」

《何ですと……?》

「王国と共和国の支援金を私的流用。明らかに王国法以上に設定された税。捕まえる理由はこれだけで十分でス」


 十分ですけど、まだ押しましょうか。クロードがお叱りを受ける事が第一目標です。それで交渉は有利になります。


「やけに寒いこの部屋とペットが居る形跡がありますネ」


 温度にして五度以下です。こんな中生活する必要はありません。わざわざ魔法で温度を下げているのは、あそこですね。


「雪兎。ネグラパでス。特定外来生物の一種ですネ。調度品の数々もやけに豪勢ですけド、連合の物が何点かありまス。密輸でしょうネ」


 ボロボロ出てきます。税法違反だけでも良かったんですけどね。雪兎が居たのは嬉しい誤算です。元老院の中には動物愛護団体所属の人が居ますからね。


 可愛らしい見た目の雪兎です。リツカお姉さんが見たら何と言うでしょう。巫女さんみたい? 兎と一緒にぴょんぴょん跳ねて、喜びそうです。でも残念ながら飼う事は許されません。共和国に帰って貰う事になります。


 この子は十度以上の環境で生きていけないのです。人肌が触れることすらご法度。触れるには、冷気を纏わせた手袋が必要なほどです。もちろん共和国でも触れ合い禁止とお触れが出ています。


 私の足にぴょこぴょこと……確かに、飼いたいですけどね。



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