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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑦



「そろそろ昼だぞ」


 掃除を始めて、三時間程でしょうか。伝声管からレイメイさんの声が聞こえました。丁度終わった辺りですし、軽くシャワーを浴びてお昼を作ります。


「今日はこれくらいにしましょう。本の移動は明日行います」

「うん」

「はイ」


 シーアさんは先に、本の整理をするみたいです。また読み耽る事がないように、願っています。




 ノイスに入る準備は出来ました。お昼を食べたら向かいましょう。先ずはシーアさんとレイメイさんが入ります。シーアさんは町長さんに釘を刺してくるそうです。少し物騒ではありますけど、謂れの無い嫌疑をかけられているのですから、断固たる意志で誤解を解いて欲しいです。


「そういえバ、何で掃除してるんでス?」


 それは、掃除を始める前にする質問では? と思ってしまいます。


「ノイスが最後の大都市だから、そこで一新しようと思って」

「足が早い食材を片付け、日持ちする食材を買い溜めます。余計な物は捨て、より必要な物を買い足そうと思っています」


 薪や石鹸等の日用品、少しガタついてしまっている椅子等も変えたいですね。とにかく、ここが最後と思って買い溜めます。


 一番必要な物は食材です。次に、私達の体調を管理するための道具ですね。防寒着や薬です。生命剤も必要ですね。魔力の枯渇は致命傷です。実際私は倒れかけでした。後必要な物は、各々で決めるという事で良いでしょう。


「そうでしたカ。でハ、この町での滞在は少し長めに設定しまス」

「お願い」

「この先は未知ですから、周辺の町についても聞いておきたいですね」

「地図が売ってたら良いんだけど、あるかな?」

「どうでしょウ。商人なら独自の物を持っているでしょうけド、その情報が命より大事って商人の方が多いと思うんですよネ」

「個人使用って事なら買えるんじゃねぇか?」

「そこは信頼関係を築けないと難しいでス」


 自ら命をかけて作った経路と周辺の町の情報です。おいそれと売ってくれる物ではないそうです。せめて町があるのかだけは聞きたいですね。地図は無理でも、町の情報だけならお金を渡せば売ってくれるでしょう。私達の持つ地図を埋める事も、この旅の副産物として必要な事です。後ほどコルメンスさんに渡す事で、北部の整備に役立ててもらいます。


 王国の支援がない地域ですから、廃れている町もあるでしょう。ノイス周辺は共和国からの支援があるとはいえ、それも一部です。大落窪の所為で、ノイスがある東と西が分断されているようなものですから、支援も届かなくなる可能性すらあります。


「町の情報は私達にとっても生命線だから、多少割高でも買った方が良いかも」

「ですネ。交渉してみましょウ」

「お前等に任せる。俺よりは教えてもらえるだろ」

「その分吹っかけられそうですけどネ」


 見た目はただの小娘三人組となります。そうなると、法外な値段を請求されそうですね。それでもこちらが納得出来れば、その値段でも買うつもりです。まだまだ広い北部です。適当に進んで町や村に当たる可能性の方が少ないのです。砂漠に落としたコンタクトレンズではありませんけど、闇雲に進みたくはありません。


「レイメイさんの方でも聞いておいて下さい。私達はノイスから見て北と東を聞きますから、レイメイさんは西を聞いて下さい」

「あぁ。もし吹っ掛けられたら多少強引に聞くが」

「……お任せします。傷つけない程度なら、叱るのもありでしょう」


 余り推奨出来ませんけど、仕方ありません。怪我人を出さないのならば許可しましょう。相手も詐欺を働こうとしている悪党です。こちらの強硬策に文句なんて言わせません。


「人間相手くらい、手を出さずに屈服させて下さい」


 守るべき商品があるので、商人も戦う力くらいはあるでしょう。でも、逃げる為に使うのが殆どのはずです。マリタザリアを単体で倒せる人間は多くないと聞いています。そんな相手に、本気の拳なんて向ける必要はありません。


「自分の為に振るう拳程、虚しいものはないでしょう」

「……まぁ、な」

「素直ですネ。アーデさんですカ」

「うっせぇ」


 出会った当初は己の為だけに振っていた人が、私の言葉に頷きました。アーデさんとの再会は、色々な変化を生んだようです。


「欲しい情報は町の位置だけか」

「そうですね。それだけで良いかな?」

「良いと思います。町の詳細まで分かるのが一番だと思いますけど、その分値段が上がるでしょうから」

「確実に上がりますネ。位置だけにしてモ、嘘の場合があるでしょうけどネ」

「私達は大丈夫だけど、レイメイさんは問題ないですか」

「最近はそれなりにキレてやがるからな。何とかなんだろ」

「少し心配ですネ。やはりここは私がサボリさんに着きますカ」


 レイメイさんも成長しています。人の気持ちを酌む事も出来てきてますし、察する事も出来ています。それでも、商人相手の騙し合いですか。ロミーさんは凄かったですね。私でも一枚上を行かれていました。ロミーさん級がごろごろ居るのが商人だとすると、レイメイさんでも厳しいでしょう。


 騙すプロとの会話経験が多いシーアさんが一緒なのは良いかもしれません。元老院とのいざこざから考えるに、毎回あの人たちと喧嘩していたでしょうからね。レイメイさんや私より、嘘に敏感なはずです。


「巫女さんが居るなラ、私が居なくても問題ないですからネ」

「それでは、レイメイさんをお願いします。シーアさん」

「お任せ下さイ」


 シーアさんが着くなら安心です。喧嘩も止めてくれるでしょう。負担が大きくなってしまいますけど、夕飯で労うとします。ノイスで新鮮な生肉を買っておきましょう。夕飯はステーキとか良いかもしれませんね。地図にない世界への突入前夜です。心身ともに英気を養いましょう。


「こいつらは俺等の保護者か?」

「アリスさんは”私だけの”です」

「あぁ……お前はそういう奴だったな……。あくまで俺が主導だぞ。チビ」

「分かってますヨ。騙されそうな可哀相なサボリさんのお助けってだけでス」

「絶対ぇ騙されねぇ」


 呆れられるのは心外です。私という人間ならどういう返しをするか分かっていたでしょうに。それにしても、自信たっぷりですけど……難しいと思いますよ。


「商人は手強いですから、今のレイメイさんなら苦戦します」

「……そんなにか?」


 アリスさんの言うとおりです。商人の性質上、気づき難いのです。


「私を騙せる人がごろごろ居ると思いますよ。命がけの交渉とかしてるでしょうし」


 何より、悪意がありません。商人はそれを本当に良い物として最大限の値段をこちらに伝えます。それに、その商品に命をかけている時もあるのです。非常に厄介です。悪意を持って近づく商人等、下の下です。本物は悪意等滲ませません。


 命を張った交渉とは常に、悪意を超えた生への執着です。小金を稼ぐのではなく、それに命全てをかけて騙すのです。常連でもなければ、同業でもない旅人です。カモと思われては、まともな交渉は出来ません。


「人間って、いくらでも醜くなれるんですよ」

「……お前が言うか?」

「どういう……?」


 意味でしょうか。


「いや……お前も、醜くなれるんか?」

「なろうと思えば、なれるんじゃないですかね」


 なろうとは思えませんけど。人を騙すって自分を殺す事です。そんな事、ずっと続けるなんて無理です。ロミーさんのような商人ばかりなら、私はこんな警告を出しませんけどね。


「とにかく、嘗めてかからない事です」

「リツカお姉さんの言う通りですヨ」

「出来るだけシーアさんの言葉に耳を傾けて下さい。喧嘩になってからでは遅い事も多いです」


 最悪、脅しも視野に入れてはいます。しかしそれをしてしまったら、町での活動は無理になるでしょうね。最後の最後、町を出る前にどうしてもという話にだけ使って欲しい手段です。



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