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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市⑤



「結局、あの窪みは危ねぇのか」

「急いで離れるように言われたので、危ないはずです」

「世界の終わりっていうのが良く分かりませんけド、具体的にはどうなるんでス?」

「何もかもがなくなります。あれでもまだ、途中なのです」


 世界の終わりとは、完全なる死です。向こうの世界は、私が”巫女”になるまでは危機的状況であったと聞いています。それよりも危険なのが、この世界です。あの大落窪が途中だとすると、全てが更地になって尚止まらないという事です。星自体、無くなるかも……。


「魔王と話し合いって訳にはいかねぇのは、それが理由か」

「そうです。居るだけで、世界が死ぬんです」

「この戦いに、講和など初めからありません。魔王を殺すか、私達全てが死ぬかです」


 隠していた事ですけど、もう隠す事は出来ません。ある程度まで話します。


「私達の敗北は、私達の死では終わりません。魔王が直接手を下さずとも、世界は死にます」

「……聞いてねぇぞ」

「言ってませんから」


 ”巫女”である私達が勝てなかった時点で、魔王に対抗する手段が無くなります。そうなれば世界の死を緩やかに待つだけです。こんな事を国民に知られてしまえば、人々はより恐怖と混乱に陥るでしょう。それは、旅の進行の妨げになります。だから、隠していました。漠然と、魔王を倒さないと危ないという事だけ、伝えたのです。


「魔王にだけは、負けてはダメなんですよ」


 もう死は進んでいます。大落窪が出来たのは近年だそうです。何故止まったのか、今動いていないのかは、予想でしかありませんけど……”巫女”が二人になったから、と思います。


「やる事は変わらないという事ですネ」

「うん。魔王を、殺す」

「幹部の存在は人類にとって危険です。ですが魔王の危険度は幹部達の比ではありません。どうか、それを念頭にお願いします」

「お前等が魔王と、絶対に戦えるようにするって話だな」

「そうです」


 だから、レイメイさんにはマクゼルトを担当してもらいます。幹部の存在は、魔王戦で邪魔になります。出来るなら倒したいというのが本音です。もし倒しきれなくとも、魔王戦で邪魔に入らないようにして欲しい。兎にも角にも、魔王です。


「危機感を、最大級に高めてください」

「分かりましタ。しかシ、どれくらいの余裕があるのでしょウ」

「アルツィアさまは、期限については何も言ってなかったのですよ、ね」

「うん。窪地が出来た事より、私があそこに居る事の方が大変だったみたいで」

「世界から弾かれるというのは、そういう事なのだと思います……。もしかしたら、魂だけ向こうの世界に……」


 その可能性が、あったのでしょう。神さまはすごく焦っていました。いつになく、真剣な話しかしませんでしたから。普段であれば私の緊張や不安を取り除く際に冗談を交えていたのに、今回はストレートな言葉で私を安心させてくれたのです。


「現状ではこの窪地だけが危険区域であり、気にする事はないという事だと思います」

「もし急いで欲しかったら、私に伝えたはずだから、今の進行速度でも問題ないはずだよ」


 かといって、ゆっくりして良い訳ではなさそうです。シーアさん達との約束。もっと真剣に取り組む必要が出てきました。


「疑問なんですけド、あの窪地が危険なのっテ、リツカお姉さんの魂が帰っちゃうからなのですかネ」


 神さまからは、そういったニュアンスは伝わってきませんでした。むしろ、全員危険といった感じです。


「私の危険は、魂の帰還だと思う。神さまの急ぎ様からすると……皆も危険だったんじゃないかな」

「これもまた想像ですけど、私達が”死”に巻き込まれる可能性があったのではないでしょうか」

「何も残らないっていう死ですよネ」

「はい」


 動植物など一切存在しない窪地です。水すらないのです。雨水が溜まっていてもおかしくない窪地なのに……。


「ここにマリスタザリアを放り込んだラ、どうなるんでス?」


 動物も死ぬでしょうから、もしかしたら死ぬかもしれません。良い罠になるかもしれませんけど……疑問が、一つ。


「世界の死の原因は、悪意だから」

「私も、同じ考えです」

 アリスさんも、私と同じ考えを持っているようです。


「悪意が原因である”死”の地に、悪意によって生まれたマリスタザリアを入れたら……強くなるのではないでしょうか」

「死なずニ、むしろ強くですカ……魔王が放り込む可能性はありますカ?」

「もしそうしたいのなら、私達が居る時にしたと思います」

「魔王には窪地の正体が分からなかったんですかネ」

「魔王は、悪意とマナで出来た存在だから、窪地の持つ力にも気付いてそうだけど……」


 これは、気にしすぎでしょうか。しかし、ここまで目立つ窪地です。魔王も気になって調べたりするのではないでしょうか。でもそうなると、マリスタザリアを送り込まなかった理由が分かりません。むしろ魔王自身が来てもおかしくないのです。


「どれも想像だろ」

「そう、なんですけどね」


 私にはそこに、魔王の真意が潜んでいる気がするのです。最初からずっと感じている違和感というか、それの真実が……。何故魔王は、私が弱っている時に攻撃を仕掛けて来ないのかという疑問の答えが、ある気がするのです。


「ここまで離れれば、大丈夫かな」

「そうだと、思います。このままノイスへ向かいましょう」

「あぁ」

「ただの観光地かと思えバ、とんだ地獄でしたネ。ノイスの長に注意喚起しましょウ。知ってる人ですかラ」


 人を近づけないようにしないといけません。迷い込んでは大変です。


「ノイスに行った事があるの?」

「いエ。ノイスの長は共和国の人間なんですヨ。元老院の息がかかってますかラ、余り良い知り合いではないんですけどネ」


 どういった経緯でそうなったのか、シーアさんから説明を受けます。コルメンスさんの為に、エルさんが色々と苦労したようです。そんな優しさ溢れる話の中に、シーアさんの怒りが混ざってしまうのは全て、元老院の所為でしょう。


「じゃあ、私達は一先ず……」

「出ないほうが良いみたいですね」

「ですネ。最初は私だけで動きましょウ。長のお馬鹿の事でス。元老院から連絡を受けているでしょうからネ」


 私達はシーアさんを誘拐した事になっています。まずはシーアさんだけで歩いてもらわないと、色々と疑いが増すのです。


「つってもよ。二人一組の方が良いんじゃねぇか」

「巫女さん達と歩いていてモ、あの二人が誘拐? って感じですけどネ。サボリさんと一緒だト、そのまんまじゃないですカ」

「んだと……」


 シーアさんを一人歩かせるのは気が進みませんけど、かといってレイメイさんと一緒になんてダメです。本当の誘拐に見えかねません。


「とりあえズ、長と話をつけたらすぐに戻りまス。大体二十分くらいですネ。それ以上掛かったら探してくださイ」

「分かった」


 二十分は長いですね。もし本当の誘拐に会ってしまった場合、五分の差でも大きいです。十五分で迎えに出ます。


「船で待った方が良いんか」

「出来るだけそうして欲しいですけド、何か用事でもあるんでス?」

「鍛冶屋があるなら行きてぇ。道具が磨耗しちまってる」


 私とレイメイさんの刀と剣は、生命線です。鍛治道具がなくなると手入れも出来ません。重要事項ですね。


「そういう事なら構いませン。サボリさんは先にお願いしまス」

「よろしくお願いします」

「他に要る物があったら言って下さい。私の方で買っておきます」

「じゃあ酒」

「……? 私は未成年ですから買えませんよ」

「買うだけなら出来る」


 何に使うかは分かりませんけど、お酒が必要みたいです。お酒で砥いだ方が良いのでしょうか。


「……」

「……何だ」

「リッカさまの純粋さにつけ込んで、何をさせようとしているのですか?」

「必要なもんは必要だ」

「後で折檻されても私は知りませんヨ」


 アリスさんとレイメイさんが睨み合って、シーアさんが呆れています。一触即発の空気感ですけど、それすらも私の胸のざわつきが許しません。間に入って、止めます。


「どんなお酒が良いんですか」


 アリスさんの視線を私が独占しつつ、レイメイさんに尋ねます。


「高ぇの」

「分かりました」

「リッカさま。その人は」


 アリスさんは少し頬を染め、じっと私を見てくれます。私の醜い嫉妬? にこんな可愛らしく反応してくれて、嬉しいです。


「大丈夫大丈夫。買うだけだから、酔ったりしないよ?」

「いえ、そういう事ではなく……。はぁ……レイメイさん。お金を出してください」

「……ほら」


 渡されたのは、三万ゼルです。これでは足りないのではないでしょうか。値段が良い方が砥げるんですかね。


「リッカさま? あの人の言う事を真に受けてはいけません」

「えっと」

「あくまでお酒はついでという事で、お買い物に出ましょう」

「う、うん」


 よく、分かりませんけど……アリスさんとお買い物です。ノイスでもやる事はありますけど、楽しみですね。



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