王国②
流石は信心深い世界です。アリスさんが通る度、「まさか……?」といった視線が投げかけられます。
白銀と言ってもいいほどの透き通った髪、私の、ワインレッドの赤い髪と目と違って綺麗な鮮烈な赤い目。こんな絶世の美女。他に居ないでしょうから。
そんな女性が笑顔で、隣を歩く私に話しかけながら歩く。
(あの女は誰だ、って目で見られてるなー。ま、ただでさえ笑顔を向けられてるだけでも目立つのに、一緒の服だからね)
アリスさんへの視線にいやらしさは混じっていません。私へは少しあるようですが、これくらいどうでもいいです。
ローブのスカートを摘み上げ見つめ、周りの視線に少しだけ気を向けます。
「どうかなさいましたか? リッカさま」
「いやぁ、なんか見られてるなーって」
露骨に気にしすぎましたね。アリスさんに気づかれました。周りへの牽制のつもりで声を少し大きめにして、アリスさんの疑問に答えます。
注目されることは、慣れてます。元の世界でも、この髪のせいで昔から注目されてましたし、男からのそういった目もありました。
巫女になって、便利屋まがいのことをしてからは注目度も増しました。集落でも、好奇心の視線は浴びました。でも、この手の視線は初めてです。
(嫉妬……? 不信感?)
よく分かりませんね、混ざりすぎて。なんにしても、どうにかして払拭したいです。
「リッカさまの赤く燃えるような髪。素敵ですから。見てしまいますよ」
アリスさんが笑顔で、私の髪を褒めました。髪を玩びながら、アリスさんの顔を見ます。ニコニコと、私の髪が跳ねる様を見ていした。
そんな無邪気な笑顔に、周りの視線への興味は薄れていくのでした。
「それは、違うと思う」
でも……苦笑いになってしまう、私なのでした。
王国内の町並みは、雑多に見えてしっかりと整備されていました。大通りは活気に満ち溢れ、たまに酒場なんかから喧嘩の声が聞こえてきます。
その一角に武器屋を見つけました。あとで確認しにいってみましょう。
その武器屋に着流しのような格好の男性が入っていくのが見えました。私の世界にいるような格好の人だけに、思わず目で追ってしまいます。
(あんな格好の人も、この世界にいるんだ)
着流しというには、かなり洋風の服でしたけど。レザーっぽいボトムスも見えましたし。
「……」
ちらりと、アリスさんが何を見てるのか目で追ってみます。
(あれは、調味料?)
その他にも生鮮品や乾物の類…差t年食材メインですね。市場でしょうか。海が近くにあるのか、まだ生きた魚が並んでます。
料理が趣味ということもあるでしょうけど――。
(今日の約束のために、見てくれてるのかな)
一緒に料理。しっかり気をつけて臨まないといけませんね。アリスさんが楽しみにしてくれているようなので、私が壊すわけにはいきません。
このまま大通りを真っ直ぐ進めば、王宮です。緊張してきました。
「アリスさん、ちょっと良いかな」
「はい、リッカさま。どうしました?」
魚に興味を示していたアリスさんに、一つ気になることがあるので声をかけます。
お魚は集落にないものでしたから、もうちょっと堪能させてあげたかったのですけど……王宮に着く前に確認しなければいけないのです。
「”巫女”の正装って、このローブだけど、謁見もこのままでいいのかな」
ドレスアップとか、いらないですよね。たぶん。
「はい。”巫女”として謁見しますので、このままで大丈夫なはずです」
アリスさんも少し心配しているようで、いつもより歯切れが悪いです。ダメなときは止められるだろうし、その時は、その時ですかね。
「ありがと、アリスさん。あとで、魚見に行く? 私もこの世界の魚、どういうものがあるか気になるし」
「はい、ぜひっ」
アリスさんの顔が綻びました。
アリスさんと町並みを眺めながら、「後でここも行こうか」なんて話していると――王宮へとたどり着きました。
装飾の施された、重厚な門。その前に四人の門番がいました。
すぐさま門番のうち二人が止めに近づいてきますけど、アリスさんを確認すると案内するための足取りへと変化しました。
「失礼します。”巫女”アルレスィア様でございますか」
「はい、アルレスィア・ソレ・クレイドルです。陛下のお誘いを受け、謁見したく参りました。」
一番の年長者と思われる門番の方が、私に視線を向けました。頭を下げ、会釈をします。検問をやっていた方からちゃんと……話、行ってます、よね?
「今しばらくお待ちください」
年長者の門番が残りの三人に声をかけ、門の内側へいってしまいました。中々に厳重です。
「お待たせしました、ご案内させていただきます」
「はい、よろしくお願いいたします」
戻ってきた門番さんに、アリスさんが礼をしました。少し遅れて、私も頭を下げます。
ドアマンというか、警備が厳しい場所に入った経験がないので……少し圧倒されてしまいます。
それに、”光”を使えただけでは、信用に足る証拠ではないのかもしれません。確認したのが検問官だけというのも要因でしょうけど……。
王宮の中は、外見の荘厳さとはうって変わって……その、質素でした。装飾品の殆どが、不自然なまでに抜け落ちています。
そのことに首を傾げていると、一際大きな扉の前で止まりました。
「国王陛下! お二人をお連れしました!」
門番の方から案内を引き継いだ、鎧を着込んだ近衛兵の大きな声が響き渡ります。この鎧、一度も戦闘に出た事が無いようです。ピカピカですから。
「入ってくれ」
「ハッ!」
中から、重厚感をもった厳かな声が聞こえ、扉がじわりと大きく開きます。
「どうぞ」
敬礼をし、「自分はここまでです」と、近衛さんは私たちを送り出しました。
玉座、といったものもなく。そこは、まるで……執務室でした。椅子と執務机。ソファ二つに、長机が一つ。御もてなし用か自分用か、茶葉とカップがいくつかあります。王様よりも、大臣とか居そうな部屋です。
「よく、来ていただきました。”巫女”様」
金色の髪に切れ長の金色の目。間違いなく、美男子でしょう。この方が、革命軍の元リーダーで、現国王……コルメンス・カウル・きゃすばる陛下――。