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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
46日目、最後の都市なのです
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『ノイス』北部の大市②



 出発して三時間程経ちました。シーアさんが先に整理したいというので待ってます。どうやら昨日は早々に諦めたようです。


「レイメイさん」

「あ?」


 何だかんだで、朝食にありつけたレイメイさんに話しかけます。アリスさんとの日向ぼっこの時間を割いてまで話しかけたのは、ここ最近のレイメイさんによるテスト結果を聞くためです。


「結局、私に対しての評価はどうなったんですか」

「気付いてたのか」

「露骨にリッカさまを査定するような目で見ていたのですから、当たり前です」


 いつ頃からでしょう。多分オルデクの後だと思いますけど、レイメイさんの中で私に対する不信感というか、疑問が出来たのでしょう。人助けしすぎて、目的を忘れているのではないか? と、いった具合でしょうか。


「キールとエセフぁで確かめて、どうでした」

「まだ微妙だな。キールん時は良く堪えたと思ったが」

「キールで私達が出来る事なんて、無いでしょう。レイメイさんもそれを知ってて連れて行ったんでしょ」

「あぁ」


 キールで両親に挨拶とか一切せずに出て行ったレイメイさんです。キールに対して何の思い入れもないのです。それなのに、あれだけの情報を私に渡したんです。首を突っ込むなと言っていた人が、です。何も出来ない癖に何とかしようとする事すら、レイメイさんにとっては減点対象だったわけです。


「エセファは仕方ねぇってのは分かったが、ノイスでどうなるかだろ」


 最終試験はノイスですか。


「不合格だったらどうなるんですか」

「何もねぇよ。呆れるだけだ」


 呆れられて、私が困る事はありません。ただそれで、朝の訓練に身が入らなくなるのは大変困りますね。


「キールん時に言ったろうが。キレるくらいなら聞くなってよ。お前等なら聞くまでもなく想像出来んだろ。わざわざ首突っ込んで気疲れ起こしてんじゃねぇよ」


 呆れるというより、心配の方が大きいようです。私が首を突っ込んで、心を磨り減らす事を心配しているようです。怒りますし、場合によっては心を痛めます。それでも私は、目の前の人を救いたいと今でも思っています。


 それも、今は我慢すると決めています。”巫女”とアリスさんの事だけに注力すると、決めています。

 約束は守ります。


「心配、ありがとうございます」

「心配じゃねぇ」

「私にはアリスさんが居るので、気疲れなんて一日でけろっとしてますよ」

「分ぁっとる。だから心配してねぇっつってんだろ。お前がそんな事言うたびに、俺の方が気疲れ起こすんだよ。辞めろ」

「どういう事です?」

「隣に聞けよ」


 隣にはアリスさんが居ます。視線を向けると、いつものようににこりと微笑みを向けてくれる天使さんです。アリスさんとレイメイさんの気疲れがイコールになりません。


「うん?」

「はぁ……女狐が」

「女狐って誰の事ですか」

「やっぱお前等、面倒だわ……」


 レイメイさんも面倒な人ですけどね。というより、話の流れ的に女狐ってアリスさんの事を言ってましたよね。やっぱりお昼ご飯抜きです。今度は鉄の意志で実行します。


「分け終わりましたヨ――っテ、またサボリさんが失礼をしましたカ」

「アリスさんの事女狐って」

「あァ……まァ、お馬鹿ですネ」


 シーアさんの、あぁ……って部分が気になります。


「もしかして、シーアさんも」

「いえそんな事ないですヨ」

「本当に?」

「もちろんでス」


 怪しいです。目が泳いでます。


「私は狐でも構いませんよ」


 狐なアリスさんは可愛らしいですけど、女狐はまた違うと思うのです。


「リッカさまを動物に例えたらなんでしょう?」

「犬ですネ」

「犬だな」


 犬と言われたのは初めてです。向こうでは、椿から猫って言われました。でも私は思った以上に犬だったのではないでしょうか。皆はそう思っているようです。


「アリスさんは、どう思う?」

「そうですね…………猫、だと思います」


 少し迷って、アリスさんは言いました。猫、ですか。自分では分からないところで、猫の様にフラフラしている所があるのかもしれません。


「コイツが?」

「ピンときませんネ。忠犬って感じじゃないですカ?」

「何となく、そう思っただけです」

「直感ですカ。巫女さんの直感は頼りになりますからネ。こういう時もそうなんでしょうカ」


 アリスさんの直感は、珍しいです。勘のように思える言動も、アリスさんには真実味があるのです。私の様に曖昧には生きていません。


「リツカお姉さん自身はどう思ってるんですカ?」

「んー」


 犬っぽいと思った事もありますし、猫って感じも分かります。でもやっぱり――。


「猫が、良いかにゃ?」

「~~~っ!!」


 少しだけ猫っぽく、答えました。アリスさんが口を手で押さえ、我慢するように私の肩に縋りついて俯きました。


(これで、狙ってやってないっていうんですから、困り者です)

(巫女が黒を白っつったら白になるんじゃねぇか、コイツ)


 生暖かい目と呆れた様な目が刺さります。そんなに見られるような事を、したのでしょうか。


「偶にやらかしますよネ」

「え」

「巫女連れて部屋に引っ込んどけよ」

「……えぇ?」


 よく分かりませんけど、言われた通りにします。何か忘れているような気がするんですけど……何だったか思い出せません。


 とりあえず……アリスさんと二人きりになりましょう。今のアリスさんを独り占めして良いと許可が出たわけですから。


(これで掃除しなくて良いです。全部必要に見えて進まなかったんですよ。たまには良い事しますね、サボ――)

「後ほど見に行きますから、シーアさんはしっかり掃除をお願いします」

「……はイ」


 そういえば、掃除でした。ちゃんと進んでいるのでしょうか。シーアさんの様子から考えるに、進んでないみたいです。




 アリスさんを抱えて、部屋に戻ってきました。


「不意打ちです……。リッカさま」

「そう、かにゃ?」

「――っ!」


 ベッドに押し倒され、頭を撫で撫でとされます。いつもみたいに、慈愛の篭ったような撫で方ではなく、ペットの猫を褒めるみたいに、です。


「可愛い猫ちゃん……」

「にゃ、ぁ」


 アリスさんに抱き起こされました。私の膝の上に、向き合う体勢で座ったアリスさんが私の髪を整えています。その際、リボンを解いて整えていたので、別の髪型にしているみたいです。


「出来ました。今日一日、それで居て下さい、ね? お願いですっ」

「うん。どんな髪型かな?」

「それは、内緒という事で」


 気になるので触ろうとしましたけど、アリスさんに抱きしめられて手が使えません。リボンがいつもとは違う結ばれ方をしていました。多分、ツインテールのような髪型だと思います。


 アリスさんが本当の猫を愛でるように、私の喉を転がしたり、頭を撫でたり、髪に顔を埋めたり。すごく……幸せです。自然と喉が、ごろごろと鳴ってしまいます。


「リッカさま……」

「にゃ、ぅ?」


 手を握り、指を絡め、ベッドに押し付けられています。じっとアリスさんが私を見下ろし、その瞳はうるうるとしているのです。


「……」

「……っ」


 何度か、こういった状況になりました。その度に、()()が入って……じゃま? 少し緊張感を纏った空気の為か、頭がだんだんとじんじんとしてきました。上手く考えられません。


「……ぅっ」


 アリスさんの顔が近づいてきます。私は、じっと見ていたいはずなのに、スッと目を閉じました。何故閉じたのか、分かりませんけど、体が勝手にそうしたのです。


「っ――」


 近づいてきたアリスさんの顔が、私の――――胸に降りてきました。ぽすっと顔が埋められて、アリスさんの耳は真っ赤で、私の心音はフォルテフォルテッシモで……スタッカートで……。


(私は、何を……!?)

(私、何を……?)


 良く、分かりませんけど……こういったのも、悪くないって思うのです。もどかしさ? 上手く言葉に出来ないけど、それすらも、私を満たしてくれるのです。

 ぎゅっとアリスさんを抱きしめて、シーアさんの掃除が終わるまで待つのでした。



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