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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
45日目、利用なのです
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『エセフぁ』角④



「先程行われていた御祓いは、一体?」

「化け物が全くでなくなった訳ではないんです。偶に、出ます。それを鎮める儀式です。教祖はその理由を、皆の信仰心が足りないからだ、としています」

「完全な平和となっていない分、厄介ですね」

「そうだね……。完全な平和がきたら信仰を忘れる人も居るだろうけど、偶にでも襲われてたら信仰し続けると思う」

「そしてその分、お布施が増えます……」


 神さまの信仰を奪ってまで行われるお金儲け。怒りを通り越し悲しみにまでなってしまいます。肩を落としてしまったアリスさんを慰めるように、頭を撫で、頬を撫でます。ノイスの教祖についても、どうにかしないといけませんね。


「申し訳、ございません。アルツィア様の信仰を……」

「いえ……。アルツィアさまを信仰しても、何もしてくれないのは事実なのです。他に救いを求める事を、アルツィアさまは否定しません」

「しかしそれでは、アルツィア様が……」

「信仰心がなくとも、アルツィアさまが消えたり弱ったりはしません。悲しみは、するでしょうけど……」


 もどかしさを感じ、歯噛みしてしまいます。今でこそ”巫女”が動いているので、神さまの信仰も高まっているはずです。しかしそれまでは、皆どこかで思っていたのかもしれません。何もしてくれない神さまよりも、と……。


 そういったネガティブな考えは、今は置いておきます。神さまの愛をしっかりと受けている私達がするべきは、落ち込む事ではありません。再び信仰してもらえるように、私達が世界を救うのです。


 整理をしましょう。一月前に生えた角。それをきっかけにしたかのようにマリスタザリアが減っていった。教祖はそれを鋭敏に感じ取り、利用したのでしょう。口八丁手八丁で人々の信仰を促し、この町で確立させた。そして、他の町へ布教もしている。


 いきなり大都市に出向いても、相手してもらえないと思ったのか。それともノイスの次に行ったのかは分かりませんけれど、トぅリア……ライゼさんの故郷にも布教したのです。隔絶された村であるトぅリアでは、何処よりも強大な信仰が生まれていました。


「トぅリアでは、お金は手に入らなかったと思うんですけど」

「それは……申し訳ございません。教祖の全てを知っているわけではないので……」


 用心深いです。ツルカさんが乗り気ではないのを感じ取っていたのでしょう。


「トゥリアでは、何をなさっていたのですか? 私達が出て行った後に、出向いたようですけれど」

「村人に、村が滅ぼされたと連絡を受けました。教祖と共に出向くと……っ」

「申し訳ございません。余り、思い出したくない光景でしたね」

「いえ……そこで、御祓いと鎮魂を。あそこで何が……?」

「マリスタザリアによって、一人を残して全滅させられました。強い憎しみがあったようで、あの状態に」

「そうでしたか……」


 ツルカさんはしっかりと、役目をこなしているのです。間違った宗教ではありますけれど、ツルカさんを責める気になれません。


「その時教祖は、教本を回収していませんでしたか?」

「して、ましたね。たぶんですけど……。荷物が増えてましたから」

「それは、ありませんか?」

「私のでよければ」


 教本を見せてもらえました。アリスさんが読んでくれます。


「教えは、自身が在るのは先祖のお陰である。世界の異変は、大地と先祖の怒りである。その怒りを一身に受けた少女、ディモヌを崇めよ。といったものです」

「マリスタザリアが減ったっていう実績で、一気に信用を勝ち得たのかな」

「そのようです。多くの文言が書かれていますけれど、殆どが細かな取り決めですね。お布施の金額による、受けられる寄与について。商品購入による、地位向上。他者に信仰を広めた場合の返戻について等です」

「怪しい宗教の常套句ばっかり……」

「リッカさまの世界では、その……」

「こういうのが、多いみたいだね。私の居た町は、神樹神社だけだったけど」


 まさに、悪徳宗教です。怪しい壺とかアクセサリーとかを買わせるんでしたね。マリスタザリアという恐怖の権化が居る分、この世界でのこの手の詐欺は……最悪です。少しでも恐怖を遠ざけたい人達は、騙されるでしょう。


「マリスタザリアが来た時、どうやって対応を?」

「今回のは、巫女様がやってくれたんですよね」

「はい」

「普段は、町民で対応してます。それでも無理な時は、ノイスから派兵を」

「それも……」

「値段は、十二万から二十万みたいです」


 高……。足元を見すぎでは?


「そんなお金……」

「オルデクやエアラゲに出稼ぎに出ています。貴族相手だと、お小遣いが貰えるらしいです」


 チップ、というやつでしょうか。頑張りに応じて追加で貰えるのでしょう。そんな物を貰えるのであれば、エアラゲの冒険者達や商人達の態度も分かります。貴族の為に奮闘する事でしょう。


「この町はまだ良い方です。私が居ますから」


 この宗教の根幹であるツルカさんが居る町です。蔑ろにしては不信感となるでしょう。


「他の町では苦労してるみたいです。でも実際に化け物が減ってるので、信じてもらえていると聞いています」

「そうですか……」


 こういった話を聞かせてもらって、感謝しています。その上で、ツルカさんの葛藤も感じているのです。アリスさんも、対応に迷っています。この際、聞いておきましょう。


「ツルカさん」

「はい」

「ツルカさんは、どうするつもりですか」

「……」


 教本まで見せてもらえました。どういった経緯で生まれた宗教なのかも知れましたし、教祖が居る町、活動まで。でも、ツルカさんはどうするのでしょう。私達に話して、宗教を辞める? そんな事は、無いと……私は思っています。


「大変、申し上げ難いのですが……」

「構いません。どうか、話して下さい」


 アリスさんも、聞く準備が出来たようです。


「私は、続けます」

「……生活の、為ですか」

「はい」


 ツルカさんの覚悟は、本物のようです。


「町長にはお会いになりましたか?」

「いえ」

「おかしい、ですね。巫女様達なら会うはずなんですけど……」

「”巫女”である事は、伝えませんでしたから」

「良ければ後ほど、会って上げて下さい」

「それは、構いませんけれど……」


 町長が、話の肝なのでしょうか。


「町長は私の叔父です。私を育ててくれました」


 つまり、両親は。


「両親は居ません。私を庇って、死んでしまいました」


 この世界では、決して珍しくはない出来事……何て言葉で終わらせられません。親は子を守る為に、文字通り命をかけているのです。


「叔父は旅人でした。なので、”巫女”を知っています。両親の死を知ったらしく、戻ってきてくれたのです」

「”巫女”を知っている方だと、この宗教に関して何か思う所があったのではないですか?」

「はい。当然、反対しました」

「それでも、宗教を手伝ったのは……お金ですね」

「はい。見ての通りの町です。昔はもっと酷かったのです。土の栄養が足らず、農耕すら出来ませんでしたから」


 今は、良い土壌が出来ています。畑もありました。自給自足が出来るくらいに、豊かです。


「そのお金を集める為に、手伝いました。詐欺であるのは分かっています」


 犯罪と認識しながらも、辞める事が出来ないのです。全ては生活の為に。


「叔父とは喧嘩しました。ですが、叔父の収入は微々たるもの。生活なんか出来るはずもありませんでした」

 

 両親を亡くした姪のために戻ってきた人です。その優しさは本物でしょう。だからこそ、姪に詐欺をさせなければ生きていけないという現状を、嘆いたはずです。


「叔父は引き篭もってしまいました。罪悪感と無力感に」


 やはり、精神的においつめられているようです。それでも気力に満ちていたのは、ツルカさんが更生した時に自身の手で養う為? 難しい問題です。


「私は、辞められません。申し訳ございません。どうか、見逃して欲しいのです」


 ツルカさんが、深々と頭を下げました。もはや、土下座といった姿です。この世界における最敬礼を遥かに超えて頭を、下げているのです。申し訳なさと、それでも辞められない弱さを示すように。


 私達に声をかけたのは、この為だったようです。教本等の証拠を差し出したのも、今は見逃して欲しいという事でしょうか。


「……」


 私達は、迷います。このまま見逃して、良いのかと。



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