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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
5日目、共同生活なのです
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王国

  


 先に言って起きますけれど……決して、戦いたいわけではありません。でも……。


「あまり、敵出ないね」


 気になるのは、事実なのです。


「悪意は人の多いところに集まりますからそろそろ、本番です」


 アリスさんが顔を引き締め、告げます。


「わかった、いつでもいけるよ」


 私も……気を引きしめます。


 遠くからですけど、人の気配を強く感じます。耳を澄ませば喧騒も聞こえると思います。


 どうやら――もうそろそろのようです。


「リッカさま、この坂を登り切れば見えるはずです」

「うん。少しだけ、楽しみ」


 ほどよい緊張感のまま、私たちは歩を進めます。でも、私は自然体を意識します。いつでも、動けるように。心には余裕を。教えは忘れていません。


「――はいっ」


 アリスさんも、あまり気を張り過ぎないように。ね? 



「わー……」


 思わず、声が出ます。そこには、坂の上から見下ろしているにも関わらず、端が見えないほど広大な……石造りの建物が立ち並ぶ――”国”が、ありました。


「予想より、ずっと大きい」

「実物は、こんなにも広く感じるものなのですね……」


 ヨーロッパにも、こんな感じの町並みがあったような。アリスさんも感嘆の声を上げています。


 私がいた、向こうの世界の街と同じかそれ以上でしょうか。


「リッカさま。坂を降り少し行った所に検問所があるそうです」


 ようやく、検問所。ちゃんと通れるのでしょうか、私……。厳重そうに見えます。


「そういえば、集落とこの王国は繋がりあるの?」


 坂を下りながら雑談をします。


「集落に、私と同世代の子が居なかったのは、気づいていたと存じております」


 アリスさんが少し、寂しそうに。でもそこまで気にしてないように、話をします。


「そうだね。気にはなってたけど。子供が全く居なかったわけじゃないから」


 エカルトくんとエルケちゃんは元気でしょうか。


「村の子たちも、いずれはこの国にくることになるでしょう」


 住民登録とかでしょうか。でもそれって生まれた時にすぐ……んー?


「”巫女”のルールです。リッカさま」


 少し顔を赤らめ、それだけいいます。


「未婚で……あっ」


 同年代の子がいると、そういう仲に、なるかもしれません。


「間違いが起きないよう、”巫女”である私の同年代の子たちは、()()するために王国で住むことになります」


 勉強と称して、アリスさんから引き離すんですね。


「男の子はわかるけど、女の子も?」

「一応、ただ引き離すだけではありません。しっかりと外の世界で学び、育ち。そして新たな知識と経験によって集落をよりよくするのです」


 なるほど、それはエルケちゃんが目指してるものですね。


「エルケちゃんが目指してるものだね。勉強してアリスさんのために役立てるって」


 エルケちゃんはすでに、その時を覚悟していたのかもしれません。


「エルケちゃんが、そんなことを?」

「あっ――ご、ごめん。聞かなかったことにしてっ!」

「ふふ。わかりました」


 つい口が滑ってしまいました。アリスさんが口に手を当てて笑いをこぼしながら、お願いをきいてくれます。


「ありがと……。じゃあ、会えるかな? 集落出身の子に」


 どんな子達でしょう。


「どうでしょう。集落の習慣ではありますけれど、帰ってくる子は多くないと聞きます」


 二十人中十人帰ってくればいいほうですね。とアリスさんは言いました。


「なんか、寂しいね。それ……」


 集落より、この国での生活のほうが、楽ではあるでしょうが……。残念です。


「そうですね、私の幼いころの友人も行っていますが、帰ってくるかどうかは」


 アリスさんが少し寂しそうに……。


「……きっと、帰ってくるよ」


 私は、確信に満ちた声で伝えます。


「だって、アリスさんのこと助けたいって、きっと皆、思ってるから。私だったら、絶対帰ってくるよ」

(って、これだと慰めにしかなりませんね。でも、本音です)

「――。はいっ。絶対」


 アリスさんがこんなに喜んでくれるなら、いいですよね。



 検問所に重い空気が流れています。周りのほうもざわざわと……。さて、問題がやってきました。


「……」


 じっと、私を観察する。検問官さん。


「……」


 私は、どうすることもできないので黙ります。


「では、この方も巫女様であなた様と共にお役目にきたと?」


 検問官さんが疑いを隠すことなく尋ねてきます。


「はい、その通りでございます」


 アリスさんが厳かに応えました。でも、説得には至っていません。


「……」


 検問官さんが困っています。私も、困ってます。まさか、本当のこととはいえ、そのまま伝えるとは。


「巫女様はお一人。あなた様だけと記憶しておりますが」


 ええ、この世界の”巫女”はアリスさんだけです。


「我らが神、アルツィアさまのお導きです」


 これも、本当です。


「ふむ……では、巫女様である証拠をお願いできますかな」


 検問官さんが私の方を見てやってみろと言わんばかりに伝えます。


「リッカさま、お願いします。巫女であるという唯一の証を」

(アリスさんが淡々と言います。少し怒って……?)


 私は検問官さんにオルテさんの剣を渡し、準備します。私に敵意がないと示すには、武器を渡すのが一番です。


 検問官から少し離れ、木刀を自分の前で横に構えます。練習したかいがありましたね。こんな時の為に練習した訳ではないのですけど……。


 かつて神さまの使いである”巫女”が、本物であるというのを伝えるために行使したという証の光。


 瞳とローブを赤く煌かせ。魔法を発動させます。


光よ(【フラス】・イグナス)……!」

「――! これは……」


 周囲を暖かい光が包みます。しっかりと、光り輝いてくれてほっとしました。


「たしかに、”光”の魔法」


 震える声で、検問官さんが言います。


「大変、失礼を……。すぐに、王宮へ伝えます」


 そういって、部下と思われる方に連絡するように伝えるのでした。


 周りのざわめきは大きくなる一方ですけど、どうやら検問は問題なさそうなので、安堵しています。


「リッカさま、これで安心ですね」


 アリスさんが笑顔で小走りに近づいてきてくれます。


「だね。でも驚いたよ。本当のこととはいえ」


 アリスさんに嘘をつけなんて言えませんけれど……何か別の方法があるものと。


「本当のことを伝えるのが一番ですっ」


 満面の笑みでそういわれると、もう私は何もいえません。


「アリスさんらしいよ」


 一緒になって微笑みあいます。確かに、嘘で通るのは違いますね。

 

「お待たせしました。お二方共。どうぞお通りください」


 検問官さんが、剣を私に返しながら敬礼しました。


「はい、ありがとうございます」


 アリスさんが祈りを捧げ、私もそれに倣います。


「それと……王宮から、もし良ければお越しになって欲しいと、伝言を授かっております。どうか、ご検討ください」


 頭を下げながら告げられる衝撃の言葉。王宮からという事は……そう、なのでしょうか。


 アリスさんが、どうしますか? といった視線を送ってきます。王様からのお誘いを断るわけにはいかないので、異論はありません。私は頷きます。


「かしこまりました。このまま王宮へ向かいます。どうかお伝えください」


 再び祈り、大きな門を通り抜け。王国へ入国しました。王様への謁見ですか……緊張しますね。



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