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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
45日目、利用なのです
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王と皇⑤



「陛下。お連れしました」

「どうぞ、お入り下さい」

「失礼します」


 通されたのは執務室。


(執務室なの)

「こんな所にお呼びたてして申し訳ございません。皇姫カルラ」

「場所は気にしないの」

(理由は気になるけれど、なの)


 別にどこであっても、コルメンスが直々に会ってくれるのなら問題ない。しかし理由は知りたいようだ。


「元々平民だったもので、玉座は苦手なんです。自分本位の理由で申し訳ありません」

「下手な理由より余程納得出来るの。リツカ達ともここで会ったの?」

「え? は、はい」


 何故リツカ? という疑問を、コルメンスは飲み込む。


「挨拶をしにきたというのもあるのですけど、わらわはシーア達の事が聞きたいの」

「成程。シーアもこの街に来て最初にしたことが、アルレスィア様とリツカ様の噂集めでしたね」


 レティシアが来た日を、コルメンスは思い出す。リツカ達を信じるかは試験次第と言っていた、小さい頃から知っている少女。しかし、コルメンスは気付いていた。レティシアはあの時既に、認めていた事に。


「噂は嫌いだけど、一番簡単な情報集めなの」

「リツカ様に関しましては、少し事情が違いましたが……概ね同意見です」

「そういった話も聞きたいの」

「紹介状にも書かれていますね。リツカ様とアルレスィア様の事を話してあげてくれと」

「そんな事まで書いてたの?」


 リツカ達にバレないようこっそりと、レティシアは書いていた。次会った時、カルラが色々知っていたら面白いのではないのかと。しかし、レティシアは甘かった。というより、浮かれていたんだ。


「じゃあ、シーアの事をまず教えて欲しいの」

「ふむ。リツカ様でなくて良いのですか?」

「もちろん聞くの。リツカもアルレスィアも。もちろんサボリも」

「その中で、まずはシーアと」

「なの。だってシーアは」

 

 カルラは扇子をパンと閉じ、胸に手を置き告げる。


「第六十五位皇姫、カルラ・デ=ルカグヤの妻になるの」

「成程。妻の事を知るのは大事………」

「…………?」


 コルメンスとアンネリスが固まる。


(聞き間違いかな)

「も、申し訳ございません。シーアは、カルラ様の……」

「カルラで良いの。シーアは妻なの」

「……そ、そうでしたか。シーアも何と、いうか早い……」

「コ、コルメンス様。流石にそれは……無い、はずです」


 困惑するコルメンスとアンネリス。レティシアはまだ十二歳。カルラもまだ十四ほどの年齢しかないはず。皇国では結婚適齢期はこの年頃なのだろうか。レティシアの結婚は無いといえるだろうか。


「そ、そうだね。ハハハ、カルラさん。お戯れが」

「正確には何れ妻になるの」

「ハハ、ハ……エ、エルヴィに連絡を入れても良いですか?」

「出来るならわらわ自身が伝えたいのですけど、譲るの」


 どうやら、本当のようだ。まずはエルヴィエールと話さなければいけない。妹が皇姫と結婚。しかも同性婚。もしレティシアも本気ならば、エルヴィエールは早く知っておいた方が良い。


「………」


 ”伝言”でエルヴィエールにかけるコルメンス。出ないと思っていても、何かと理由をつけてかけたいのだ。元老院に捕らえられてしまったであろうエルヴィエールに。


「やはり、かからないか……」

「シーアの危惧した通りなの」

「シーアの……?」

「女王陛下の事も聞いてるの。その上でシーア達の現状を伝えるの」

「よろしくお願いします……シーア達の情報はもはや、ここには届かないものですから……」

(そして、あの子達は……率先して伝えようとしないのだろうね……)


 ()()()()()ならば、リツカ達は伝えてくれる。どうにかして、国民を守ろうとする。しかしそれが、自分達の異変となった時はどうだろう。何一つ情報が入ってこない。


 かのトゥリアの事件。それはマクゼルトによるものだという。それはつまり、マクゼルトと交戦したという事になる。無事では済まない。それでも、リツカ達自身の報告はないのだ。しかし目の前の少女が、巫女一行の今を教えてくれるという。是非もない事であった。


「今元老院は、エルヴィエール女王陛下を軟禁しているの」

「……はい」

「それを盾にシーアを脅したの。シーアはそれに反抗したの。その結果、シーアは”巫女”に誘拐された姫君となっているの」

「……ッ」


 コルメンス、アンネリス両名共に、息を呑む。レティシアの元に元老院が行った事でいくつか浮かんだ考えの中でも、怒りを覚える暴論であった。


「アンネ。北部の情報はどれくらい入ってる?」

「依然として岩山によって分断されています。何より今はマリスタザリアの存在によって、遠征がし辛い状況です。北部からの情報は殆ど遮断されています」


 アンネリスが現状の厳しさを伝える。共和国の動きはどこまで進行しているのかを知らなければいけない。しかし、北部は殆どが未開の地だ。


「”伝言”はブフォルムまで、通達が届く範囲はノイスまでです。それより先には届きません」

「もどかしい……。国内整備の為に貴族を排斥したのが、ここで仇となるとは……!」

「革命という形で王位を継承したコルメンス陛下を、貴族が恐れるのは当たり前なの。だったら、先に貴族制度を廃止する事は間違いではないの。ただただ、時期が悪かったの」


 カルラはコルメンスの後悔を受け止め、正しかったと断言する。しかし、今は貴族が必要であったとも、断言するのだった。


「はい……。当時の王国は、絶対の指導者が必要でした。一人の力による統治こそが望まれていたのです」

「混乱していた王国で、貴族を交えて陛下が舵を取ることは難しいの。そして今の落ち着いた王国で、街と街を繋ぐ統治者が居た方が助かるのも事実なの。でも、悔いても仕方ないの」


 カルラの言葉に、後悔を口にし頭を抱えたコルメンスはハッとする。


「リツカとアルレスィアは、”巫女”を隠す事も視野にいれてるの」

「お二人の矜持すら、守れないとは……」

「後悔ばっかりの陛下は無視するの。アンネリス」

「は、はい」


 コルメンスとカルラで切り替えの早さが違うのは、付き合いの長さは関係ない。コルメンスは自国の整備を怠った所為でこんなにも苦労させているという自責の念があるのだ。だから、カルラが責めることはない。自責と後悔はするだけすればいい。でも今必要なのはそれではないので、カルラは無視を選択する。


「二人は、先に進む事を優先させてるの。”巫女”の矜持と”役目”。どちらを取るか、なの。リツカ達に迷いはなかったの」

「やはりお二人の精神は、完成されていますね……」


 自身の事では怒らず、怒るのはいつも他者の為、悪を赦さず、守る為ならば矜持を捨てる事に躊躇はない。理想的な正義の味方だろう。憧れを持たれるのは当然だ。しかし、リツカ達にこれを言っても困惑される事だろう。本人達は自分の事を、真逆と思っているのだから。


「何とか、手伝えないものでしょうか……せめて国王として、お二人の無実を証明したい」

「ノイスにだけでも伝えてみてはいかがでしょう。ブフォルムかゾルゲを中継すれば伝えられるかと」

「大都市で買い物が出来るだけでも違うと思うの。”巫女”って事を言わなくても、知ってる人は知ってるの」


 もしこのまま”巫女”が悪人となれば、買い物もままならないだろう。国賊である人物に、物を売る。それだけで、罪になるのだから。


「問題が一つ、あります」

「ノイスに伝える上で、なの?」

「はい……」


 コルメンスとアンネリスが目を伏せる。ただ連絡するだけならば簡単ではないのか? と思うカルラは首を傾げる。


「ノイスの町長、共和国出身の者が担っているのです」

「女王派なら問題ないはずなの」

「言い辛い事なのですが……ノイスは共和国の支援を受けて発展を遂げた町なのです」

「エルヴ……女王陛下の命によって北部の支援を執り行ったのですが、女王陛下の命を呑む条件として、元老院の息が掛かった者を長とする事になったのです」

「なるほどなの。普段なら問題なかったはずのその条件が、今問題になったの」

「はい……」


 まだ国が不安定であった時、国の末端まで目が届かなかった。海が近く領土が少なかった東、早々に奪われてしまった西はなんとかなった。そして広い南と北。王であったコルメンスはまず、南を整備する事を選んだ。全ては、”巫女”の為に。


 割を食う形になってしまった北部。エルヴィエールはその事を責める事無く、むしろそれで良いと頷いた。王は時に、残酷な判断をしなければいけない。だから手伝う事にした。優しいコルメンスでは、非情になりきれないから。


 共和国として支援する事を決めたは良いものの、共和国も裕福ではない。そんな中エルヴィエールは、王国の豊かな土地を借り受ける事の有用性を説き、援助を取り付けた。エルヴィエールは、そこに私情が無かったと自信をもっていえないだろう。それに気付いていた現元老院は、王国への楔を打ち込むことにした。


 それが今、花開いたのだ。



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