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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『キール』子捨て



 シーアさんがレイメイさんに首根っこを掴まれて戻ってきました。”花火”を打ち上げている間に捕まったみたいです。


「もう出るのか」

「そのつもりですけど、何か用事ですか?」

「あいつ等がどうなったか気になってな」

「あぁ、連合の」


 あの人達は、二日は行動出来ません。気にしなくても良いとは思います。捕まえる事は越権行為が過ぎますし、様子を見て何かをしていても、無視しか選択肢がないのです。


「見ておきたいなら見ても良いですけど、何も出来ませんよ?」

「脅すくらいは出来るんじゃねぇか」

「ヒスキが私の脅しに屈するとは思えません」


 一方的とはいえ、一戦交えました。私の殺気に屈する事無く、死すらも克服しながら作戦を遂行していたのです。何よりその執念は、自らの欲を越えていました。そんな人は、脅しに屈しません。


「侍従は従うでしょうけど、ヒスキが起きたら戻ってきますよ」


 むしろ、あの人達との問題はこれ以上作らないほうが良い。侍従がヒスキに告げ口するでしょうから、勝利報酬以上の事はしません。


「意外とさっぱりしてんな。もっと許さねぇって感じでいくかと思ってたんだが」

「お馬鹿ですネ」

「あ?」

「リツカお姉さんは許してませんヨ」


 シーアさんは私を理解してます。


「アリスさんに手を出そうとした人間を許さないって、レイメイさんが一番良く知ってるって思ったんですけど」

「……」

「レイメイさんは特例です。狙いは私だった訳ですし」

「その代わり私はまだ許してませんよ。絶対に味の濃い料理は作りません」

「何だその、地味な仕返しは……」


 もしあの人たちがまだ調子に乗っている姿を見たら、記憶が飛ぶまで殴ってしまいそうですから、会わない方が良いんですよ。


「出発しましょう。カルメさんの捜索が追加されたので、丁寧に町を回って行きます」

「浄化は殆ど必要なくなってるから、神隠しとカルメさん捜索を重点的に。もし魔王の痕跡である悪意瓶や黒い魔法を見たら最優先で対処ってことで」

「分かりましタ」

「あぁ」


 計画を更新して、出発します。観光地であり保養地、エアラゲ。何とも……寂しい町です。貴族が居た時に来れば、また違った賑わいがあったのでしょうか。でもこの町での出会いは私達にとって、掛替えの無い物になりましたね。




「次はエセファで良いですかネ」

「いや、少し遠いがキールの方が近ぇ」

「漸く行く気になりましたカ」

「最初から行くつもりだったが、まぁ、良い機会だろ」

 

 進路は、エアラゲから北西みたいです。北部の端っこなのでしょうか。


「そろそろ教えてくれませんか」

「あぁ……」


 何故隠していたかは、分かっています。


 ライゼさんやオルデクでの経験から考えるに……子供を捨てる事に躊躇がありません。そんなの、私達が怒るに決まっています。でも私達に出来る事はないのです。こんなに、辛い事はありません。だからギリギリまで言いたくなかったのではないかと思っています。


「子捨ては今でも行われてるって事に、俺は驚いてんだよ」

「どういう事でス?」

「これは見た方が早ぇ」

「もったいぶりますネ」


 話すにしても、実際に見てからの方が理解しやすいという事でしょうか。それならば無理には聞きません。


「私達は一度着替えに行きます」

「お風呂にも入りますカ?」

「キールにつく頃には日も落ちているでしょうけれど、どうしましょう?」

「んー。私()拭くだけで良いかも」


 血は結構出たみたいですけど、汗はかいていません。


「二時間くれぇ走りっぱなしだからな。用事あるならその間にしとけ」

「北の外れくらいの所なんでス?」

「あぁ、殆ど端だ。周りには他に村も集落もねぇからな。先に行っとく方が良い」

「そんな場所からオルデクまで子供を捨てに……?」

「……どんな理由で捨ててもよ。手前ぇの腹痛めて生んだガキだ。生きてて欲しいんだろ」


 親の勝手な罪悪感ではありますけど、生きていて欲しいと願うのは親の心なのでしょう。きっと、お母さんやお父さん、お祖母さんも――。


 というより、エアラゲにも捨て子が居る物と思っていたのですけど……見当たりませんでしたね。


「エアラゲが一番近いんですよね」

「あぁ。だが、エアラゲは拾わねぇだろ」

「でしょうネ。どこか冷たい町でしたシ」


 余り悪口を言うのは、いけないと思います。でも……寂しい町であった事を、私は否定しません。


「オルデクでは珍しくないという話でしたから、最も可能性がある場所に……置いて行くのでしょうか」

「……小さい自尊心だね。親から子への最後の愛情にしては、利己的すぎるよ」


 何故捨てるのかといえば、貧困が理由なのでしょう。罪悪感から、育ててくれる人の近くに捨てる……。気持ちの悪い、矛盾を感じます。レイメイさんが隠していたのは正解ですね。知った今では、キールの人達に対して普通の状態で居られそうにありません。


「レイメイさんがライゼさんに拾われたのも、オルデクの近くなんですよね?」

「いや。俺はもっと外れだったはずだ」

「それだト」


 レイメイさんは本当に、ギリギリの状態だった事になります。


「まぁ、オルデク近くまで行くのが面倒だったのか、何か理由があったのかって話だな」


 むしろライゼさんはそんなところで、何をしていたのでしょう。修行か、包丁等の売り込みの帰りとか?


「それでは、移動お願いします」

「はイ」


 私には、カーデのお陰で目だった血痕はありません。アリスさんは私の血を盛大に浴びてしまいましたから……お風呂は、アリスさんが入った方が良いと思います。


 部屋に戻り、そのまま着替えようとするアリスさんをお風呂場に連れて行きます。着替えは二人分です。


「リッカさま?」

「アリスさんは私の血を浴びちゃったから、一応洗おう?」

「それならば、リッカさまも……一緒に、入りましょう」

「私は全然汚れてな、い」

「ぁ……ぅぅ……」

 

 今日のお願いは、カルラさんの船で使ってしまっています。だからお願いを使う事が出来ず……アリスさんは困ってしまっています。瞳を潤ませ、どうしようか一生懸命考えるアリスさんが可愛らしすぎて、私の思考と視線を釘付けにしています。


 その所為で、アリスさんを待たせてしまってしまいました。


「じゃあ、私が流す、ね?」

「――はいっ!」


 確かに刀の整備や、石鹸等の確認をしようと思っていましたけれど――アリスさんの満面の笑みを見ると、少しでも……そんな事でアリスさんとの一時を犠牲にしようと考えた私は愚かだったと言わざるを得ません。


 今にも私の手を取りくるくると回りそうなアリスさんが、私の服をするすると脱がしていきます。着る時少し手間取ったりしてしまったはずの服は、アリスさんの手により、何の苦も無くストンと脱げ落ちました。


 私もアリスさんと、一緒に居る時間は長く取りたいのです。断る理由なんて最初からありません。「私は汚れてない――けど、アリスさんが望むなら」そんな私の言葉は、アリスさんの潤んだ瞳に止まってしまってしまいました。実は最初から、一緒に入ろうとは思ってたんです。


 服を脱いだついでに、いつもして貰っているからアリスさんの体を洗う予定でした。その後私は体と、血が着いていた所を少し拭いてから先に上がって、整備等を――とまで考えていた時に、先程の状況となりました。


 珍しい、アリスさんの早とちりが見れて、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ貴重な経験をしたと、私は思ってしまったのです。でも……少しでもアリスさんを困らせた事を後悔しています。


 だから本気の本気で、アリスさんを洗わせてもらいます! 絹豆腐を扱うかのように、白玉を丁寧に形作るかのように、傷つけないように。


「ひぁっ……リ、リッカさま……そんな……」

「次はこっち」

「ぁ……」


 二時間あるのですから、お風呂に少し時間をかけても……良いですよね。



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