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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』国際交流⑬



「ところで、席はあったの?」

「未だ行ってねぇ」

「何してるの」


 もう食事時は過ぎてますけど、むしろ人は多くなりました。席は空いているでしょうか。


「この様子だと、埋まってそうですね」

「じゃあ、船に戻って料理人に作ってもらうの。寛いでるだろうけど仕方ないの」

「それなラ、巫女さん達に作ってもらいましょウ」


 アリスさんの料理が一番好きな私としては、シーアさんの提案は最高です。私ももっと練習して、アリスさんに満足して欲しいと思ってました。皇国の料理と和食は似ているので、カルラさんの忌憚の無い意見は励みになると思うのです。


「巫女さんとリツカお姉さんの料理はおいしいですヨ」

「楽しみなの」


 ハードルが上がりました。アリスさんの料理は自慢ですけど、私の料理は超家庭料理ですから……。


「調理場はどっちを使うの?」

「どうしましょウ」

「ここから近いのは、飛行船の方ですね」

「じゃあこっちの船に行くの」


 何を作りましょう。時間がかからず、さっぱりとした物で、大人数で食べられる物。アリスさんが大皿を用意してくれるようなので、私は小鉢ですね。小松菜の和え物とか、芋煮とかが良いかもしれませんね。肉じゃがの方が良いでしょうか。


 とりあえず、材料を見ながら船に戻りましょう。一応小さいながら、お店はあるみたいですから。




 ブイヤベースが、机の真ん中にどかんとあります。既に二つ目を煮込んでいる最中です。一応私が作った肉じゃがと小松菜はありますし、シーアさん以外は足りると思います。


「サボリはそんなに食べるの?」


 私達の中だとレイメイさんが一番大きいものですから、大食いはレイメイさんとカルラさんは思っているようです。


「いえ、これは」

「リツカお姉さんも結構食べますかラ」

「え゛」

 

 今日に限って何故、シーアさんは見栄を張るような真似をしたのでしょう。私は確かに自分が作った料理は一つまみ程度で、残りはアリスさんの料理を堪能するタイプです。でも、この大鍋から考えると……私は二つ目の鍋の時にはお腹一杯になってますよ。


(流石に恥ずかしいです)

「それでその体型って、世の女性を敵に回しそうなの」

「カルラさんモ、ダイエットとは無縁そうですけド」

「なの。わらわは少食なの」


 多分シーアさんは、夕飯を多めに食べる事になるんじゃないかと思います。でも……そんな生活をしていたら、体型が崩れてしまいますよ?


(今ここで誤魔化しても、レイメイさんが茶化すと思うんだよね)

(その時はレイメイさんの足が蹴り上げられると思います)

(想像出来るかも)


 その時を考えて、レイメイさんはシーアさんの横にしておきましょう。そしてアリスさんは一番離れた位置に。レイメイさんがもし零しても掛からない場所です。


「じゃあ、いただきますなの」


 カルラさんは少食というだけあって、小皿に一品ずつ少し入っている程度です。


「あんたも食えよ」

「はい」

「しっかり味わって食べるの。”巫女”の手料理を食べる機会なんて先ずないの」

「分かってます」


 先程言い合いになりましたけど、元の関係には戻れたようで安心しました。我慢してるだけって可能性は大いにあるでしょうけど……。


「舌に合えば、次も作りますよ」

「それって結」

「こほんっ」

「なの」


 カルラさん達は箸を使うみたいです。王国と共和国はナイフとフォークなので、新鮮な光景ですね。


「海鮮の煮込みがアルレスィアで、皇国料理っぽいのがリツカなの?」

「はい。リッカさまの料理は、異世界の物です」

「似てるの」

「そうだね。味付けも似てるかも」


 最初の一口は、私の方ですね。肉じゃがは結構上手く出来ました。


「おや……中々如何してなの」

「どうかな」

「おいしいの。毎日毎朝作って欲し」

「こほんっ」

「なの」

「ん?」


 先程からカルラさんの発言がアリスさんに止められてるような。でもカルラさんは楽しそうですし、何というか……雰囲気はエリスさんに近いような?


「リッカさまっ」

「うん?」


 アリスさんがにこにこと、私の名前を呼びました。何故か、料理ではなく私の方を向いています。嬉しいのですけど、それでは食べられません。


「あーん」

「こ、ここだと……」


 流石に、目が多いです。シーアさんとレイメイさんはもう慣れているでしょうけど……。


「むぅ……。では、お願いを使いますねっ」


 ニコリと微笑んだアリスさんは、奥の手を切りました。アリスさんのお願いを断るという選択肢はありません。周りの反応より、アリスさんの笑顔です。


「じゃあ、私のを」

「はいっ。あーん」

「あーん」


 肉じゃがの、じゃがいもを一口大に切り、アリスさんの口元へ。いつもより小さめに切ったのは、他の人……エンリケさんやレイメイさんに、見せたくないと思ってしまったからです。先程の丘の前で置いてきた独占欲が、今でも暴走気味みたいです。


「ジャガイモがほくほくで、お出汁が染みていておいしいです」

「良かったぁ」


 満面の笑みで褒めてくれた後、今度は私にブイヤベースの貝を差し出してくれました。貝柱がほろりと口の中で崩れ、口の中一杯に広がります。海をちらりと見た程度の私が、海を連想出来るくらい濃厚です。


 人前でここまで積極的なアリスさんは、久しぶりですね。カルラさんの前では隠すことでもないという事でしょうか。今のアリスさんに私は、どぎまぎしています。ぐいぐいと攻めてくるアリスさんはレアなのです。


「おいしいね。色んな味が混ざってすごく濃厚。ムール貝?」

「はい。冷凍の物でしたから、少し鮮度は落ちているかもしれませんけれど……」

「全然気にならないよ? 身は弾力があるし、貝柱は味が凝縮されてるし」

「冷凍前に塩抜きをする事と、凍ったまま調理するのがコツです」

「解凍しない方が良いんだ」

「貝が開かない事があるみたいですね」


 カルラさん達との食事なのに、少しだけ自分達だけの世界に――浸ってしまうのでした。




 二人だけの世界に入った巫女さんとリツカお姉さんは、しばらく戻ってきません。

 しかし、物足りませんね。お鍋を取りに行く振りをして、つまみ食いをしましょう。


「見せ付けられてるの」 

「巫女さんはどうか分かりませんけド、リツカお姉さんはそんな風ではないでス」


 カルラさんが巫女さんで遊ぶから、仕返しされてます。私も昔は積極的に弄ってましたから、人の事は言えませんね。


 じっとカルラさんが私を見ています。

「レティシア、わらわも欲しいの」

「し、仕方ありませんね」


 自己評価として、私は人に好かれるような人間ではないと思ってます。皮肉屋ですし、人でとことん選びます。頭が良いという自覚があるので、お馬鹿さんはとことん嫌いです。


 こんな捻くれ者の何処が、カルラさんの琴線に触れたのでしょう。


 リツカお姉さん達のように、カルラさんの口元に運んでいきます。こんな事、お姉ちゃんにもしたこと無いです。された事は、ありますけど。と考えて、止まります。


(皇国のしきたりとか風習に、食べさせあったら婚姻とかないんでしょうか)


 もはや妄想の領域ですけど、カルラさんならそんな事も仕組んでるんじゃ? と思ってしまうのです。カルラさんの事は()()()()()()気に入ってますし、好き、ではあります。ですけど、恋愛感情かと言われると、首を傾げます。


 ドキドキしてる自分が居るのは分かっているので、満更ではないのでしょう。なんでクラウちゃんを思い浮かべた時に似たようになったのかは分かりません。もしかして……いえ、確実に、()()()の影響なのではないでしょうか。きっとそうです。


「安心すると良いの。皇家にそんなしきたりや風習なんてないの」


 私が固まって思考を巡らせていたからか、カルラさんに笑われてしまいました。しきたりや風習はないそうなので、そのまま口に運び入れましょう。


「ただ庶民にはあるみたいなの」


 皇家と庶民は別です。庶民の風習に皇家が従う必要はないはずです。


「ちなみに、どんな風習なんでス?」

「棒状の食べ物の両端をお互いが咥えて、最後まで食べきる事が出来れば両想いって事で結婚するらしいの」

「何なんでス。そレ……」


 変わった風習です。棒状を両端から最後までという事は、最後はキスする事になるんですよね。確かに両想いでないと途中で離してしまいそうですけど、一体どんな意図があるんですかね。


「勇気が出ないとか、素直になれないとか、そんな理由で告白できない人たちの為に出来た風習らしいの」

「告白した方が楽だと思うんですけド」


 そんな風習が実践出来るなら、告白くらい出来るんじゃないですかね。


「売り言葉に買い言葉で競うようにやるらしいの」

「喧嘩して、勝負形式で食べるって事ですカ?」

「なの。勢いが違うみたいなの」


 確かに喧嘩の勢いに任せれば、どんな頑固者も突っ走れそうですね。普段から()()()を見てる私からすると、自分の想いくらいすぱっと相手に伝えてみせてくださいって、思うんですよね。


「試しに実践してみるの?」

「遠慮しておきまス……!」


 油断も隙も無いとはこの事です。ボーっとしてたら頷いてたかもしれません。私をここまで弄れるのは、お姉ちゃん、エリスさん、ソフィお姉ちゃんに、リツカお姉さん、巫女さん……結構多いですね。カルラさんもそこに入るわけですけど、一番気をつけなければいけない方になってしまいました。


 もし私が頷いたら、本当に妻にしちゃうんでしょうか。好奇心は隠せませんけど、確かめるには覚悟が必要すぎますね。



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