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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』国際交流⑪



 じゃれ合いながら追いかけっこをしていた二人を先頭に、船着場ではなく少し離れた場所に到着しました。何故こんなはずれに? と思ったのですけど、理由はすぐ分かったのです。


「これ、飛行船?」

「なの」

「初めて見ましタ」

「”風”と”火”で飛ぶ船、でしたね」

「ほぉ」


 そういえば東の国、オステ皇国では……飛行船が造られているんでしたね。この中では一番物を見てきたであろうシーアさんも、本物は始めてみたようです。


「皇国は山が多くて、船では移動がままならないの」


 国の地形が関わっているんですね。


「二人で動かせるんでス?」

「船員が数名乗ってるの。今は町で寛いでると思うの。興味あるの? 一緒に乗っていってもいいの」

「ま、まだでス」

「なの」


 シーアさんとカルラさんは、何かを約束したのでしょうか。カルラさんは残念そうですけど、楽しみといった様子です。シーアさんは、どぎまぎ? ですね。


 狙撃班を空き部屋に放り込み、少しだけ船の中を見せてもらえました。簡単な説明によると、バルーンに空気を入れて浮かせた後、”風”で進むようです。船の形をしているだけで、気球と同じみたいです。


 ここから王宮までなら一日掛からないそうです。船では二日以上掛かるのですけど、圧倒的ですね。


「船の技術が皇国独自なのもそうだけど、浮かせる為の燃料が採れるのは皇国だけなの」


 液化ガスの素が皇国にあり、それを加工出来るのも皇国だけとの事です。王国より、科学的な技術は上かもしれません。


(皇国で見たいものが増えました。でもこれを言うと――)

「興味増したの? 行くの?」

「私が居ないト、巫女さん達だけだと不安な事も多いのデ」

「そこはかとない説得力なの」


 年齢ではないと先程言った手前あれですけど、十二歳の少女に本気で心配される私達は、もう少し社会勉強した方が良いみたいです。




「ご飯行くの。兄様、先に行って六人分の席あるか聞いてくるの」

「はい」


 飛行船から降り、漸くご飯です。私も少し、お腹が空いています。


「いエ、ここはサボリさんガ」

「お前が行けお前が」

「私達が行こうか」


 誰が行っても同じだと思うんです。


「町の状況を考えれバ、王族とか皇家の方じゃないと接客態度が悪いと思いまス」

「なの。貴族主義すぎるの」


 お客で態度を変えるのは、私も余り好きではありませんけど……。二人は余程、冒険者組合の時に見た職員の態度が気に入らなかったようです。その後の方が酷かったので、忘れてました。


「だったら余計にお前が行けよ……。その首飾り見せりゃ直ぐだろ」

「人並みの接客してくれるだけで良いのでス」

「偉い人なのかな、と思わせるだけで良いの」


 真剣な二人は微笑ましいものですけど、食事をするだけでここまでする必要はあるのかなって思います。でも、シーアさんの食べる量が量ですからね……。店員に嫌な目を向けられながらの食事は居心地が悪いですし、貴族大歓迎の町なら、そう振舞うのが正解なのでしょうか。郷に入ってはって、こういう場合でも使うんですかね。


「お前等行けよ」

「それは構いませんけど」


 悪人相手ならいくらでも追い詰めるような事は出来ますけど、ただの飲食店店員に出来るでしょうか。


「そうこうしてる間に兄様が行ったの」


 エンリケさんは、必要最小限しか喋りません。どういった人物なのか、今でも掴み兼ねています。


「レイメイさん。一応付いて行って上げてくれませんか」

「あ? はぁ……分ぁったよ」


 同じ男同士ですし、”巫女”とか王家とかの肩書きが無いレイメイさん相手なら、何か話してくれるかもしれません。


(船員は居るみたいだけど、町の中ではエンリケさんとカルラさん二人で動いてる。カルラさんが危険に曝された時、ちゃんと守る事が出来るかだけは確かめないと)

「エンリケ様は」

「様はいらないの」

「では……エンリケさんは、戦えるのですか?」


 アリスさんがさらりと尋ねてくれます。考え込むのは、私の悪い癖でしたね。戦闘の後はどうしても、この癖が出て来てしまいます。


 カルラさんは戦闘能力がなく、マリスタザリアの存在に怯えていました。エンリケさんまで戦闘能力がないのなら、コルメンスさんに頼んで近衛の一人くらいは借りた方が良いです。王都も余裕はないでしょうけど、皇姫の護衛となれば、工面してくれるはずですから。


「戦えないの。というより、皇家の人間に戦える人は居ないの」

「自衛の魔法すら行使出来なイ、ト?」

「なの。どうやらわらわ達はそういう体質みたいなの」


 体質、なのでしょうか。魔法というのは想いの発露です。そうなると、カルラさん達含め皇家の方達は、戦いたいという想いが一切無いとなります。それはすごく素敵な事と思う反面、皇としてどうなのだろうと思うのです。


 もちろん自衛もあるでしょう。しかし、国を守るにはやはり、力は必要不可欠だと思います。力には色々あります。お金や地位、カリスマ性や知力。戦う力もその中の一つです。「この人の下なら安心だ」と、思わせるには、場合によっては戦闘力も必要なのではないでしょうか。


 戦う力を誰一人持っていないというのは、異常とも言えると思います。一人か二人が不戦主義という事はあるでしょう。カルラさんが戦いを好まない性格ですから、戦う力が無いのは理解出来ます。でも、全員となると……。


 分からない事を考えても、仕方ありません。先にカルラさんに提案しないといけません。


「今の王国では難しいかもだけど、近衛一人くらいなら問題ないだろうから」

「ですネ。紹介状に護衛の要請もしておきましょウ」

「王国の現状は知ってるの。護衛一人でも、わらわに就けるべきじゃないの」


 カルラさんなら、そう言う気がしてました。でも、それでは頷けません。


「コルメンスさんが優先するべきなのは国民です。それは理解しています」

「でも、私達はお願いしたいんだ。”巫女”に国境がないなら尚更、カルラさんも私達が守りたい人の一人だから」


 この広い王国で、果ての無い旅をするかもしれないカルラさんの助けになりたいっていうのは、”巫女”どうこうなんて関係ないんですけど、ね。


「お馬鹿はリツカだけじゃなかったの」

「そうでしょウ」

「レティシアもなの」

「私は女王陛下の意を酌む者として当然の」

「嫁ぐ気になったの?」

「まだでス」

「まだなの」

「ア」


 受け入れてもらったようです。どんなに困窮していようとも、友人を助ける行動を取るくらいは許されるのです。


「シーアさん、カルラさん、行こ」


 足を止めて何やら言い合っている二人に声をかけます。その光景を見ているアリスさんにも、笑みが零れています。あの人達が脳裏にチラつくと今でも怒りが湧いてきそうになりますけど……この光景を見てたら和らいでいくのでした。


「今行くの」

「ですから言葉のあやと言いますカ、勢いのままだったと言いますかですネ」

「分かってるの」

「分かってくれましたカ」

「ちゃんと式の準備しておくの。共和国と皇国、どっちでやるの?」

「共和国ではまだ同性は――ってそうじゃないんですヨ。私はまだ――じゃなくテ」

「ゆっくり待ってるの」


 シーアさんがあんなにアタフタするなんて、エルさんやエリスさんと同等の弄り力という事でしょうか。こちらが標的になる前に、お店に向かう方が良いかもしれませんね。


「リッカさま」

「うん?」

「手を、繋ぎましょう」

「――うんっ」

 

 頬を染め、真っ直ぐに、私と手を繋ぎたいと言ってくれたアリスさん。やっぱり、誰にも渡したくありません。アリスさんの傍で、アリスさんの笑顔を見続けるのは、私だけが良いです。


 これは、誰にも知られたくない……私の独占欲。これを曝け出す事はない、はずです。多分。



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