『エアラゲ』国際交流⑨
シーアさんとカルラさんは本当に仲良しですね。姉妹というか親友というか……とにかく、出会って数時間とは思えません。
(それにしても、カルラさんは何故……この人しかつけてないのかな)
私が気になっているのは、結構な距離に離れてしまっているエンリケさんです。護るとなれば、もっと近くに居るべきです。私でもない限り、この距離から魔法なしで守るなんて、不可能。何の為に付いて来ているのか分かりません。
「兄様が気になるの?」
「えっと……」
私の視線に気付かれてしまいました。糾弾までいってなくても、不審にはなっていました。それをカルラさんに見破られてしまったのです。
「気を使わなくて良いの。役立たずなのは分かってるの」
「い、いえ……」
さらりとカルラさんは言います。それが本当で、天地がひっくり返っても変わらないといわんばかりです。
「皇家の人間として考えた時、兄様程才能がない者はいないの」
皇家の人に必要な才能とは、何なのでしょう。カルラさんから見て取れるのは、人を見る目と、鋼の意志、豊富な知識とそれを活かす思考力でしょうか。
「剥奪されたことも当たり前って思うの」
身内からここまで言われるのは、正直どこまで、と思います。カルラさんは確かに毒舌です。相手に非があれば、それをバッサリと切ります。それでも、良い所があれば素直に褒めるのです。カルラさんも、素直なだけなのです。
「でも、こんな人でも兄様なの。わらわとしては、妹を……カルメを連れ帰った功績を兄様に持たせて、皇家に戻してあげたいの」
妹さんの名前はカルメさんと言うそうです。この王国のどこかに居るらしいですから、覚えておきましょう。今後出会う事があるかもしれません。
「カルメは皇女候補の中でも上位なの。そんな子を連れ帰ってくれば、とりあえずは皇家に戻れるの」
カルラさんが六十五位と言っていました。でもこれは生まれた順番ですよ、ね。妹さんを連れ帰るだけで、一度失った物を再び手に入れる事が出来るとは……妹さんは本当に優秀なようです。
「皇家の第何位というのは生まれた順でしかないでス。本当の序列は別にあっテ、共和国の情報部でも解ってませン」
カルラさんが上位と明言して、連れ帰った際の褒賞を考えると……一桁だと思います。
「なの。レティシアが望むなら教えてあげるの」
「い、何れお願いしまス」
「残念なの」
(いつか根負けしそうでス)
シーアさんとカルラさん距離がぐっと近づきましたね。アリスさんと私の距離みたいです。
「皇家に戻る事が出来れば、兄様の子もまた皇家となれるの。今のままだと、ただの人以下なの」
人以下と言われても、エンリケさんは特に反応を見せません。それが当たり前だと、思っているのです。
「皇家から追放されるなんて、人以下って認識になってしまうの」
王族からの追放。大抵は犯罪でしょうか。家を守る為に、その者を切り離すのです。でも、どんなに追放したからといって王族である事は変わりませんし、人以下とはなりません。皇家には、闇がありそうです。
「カルメはそんなわらわが理解出来ないと、逃げてしまったの。皇家がどうこうではないの。わらわを理解出来なかったの」
あくまで皇家の判断ではなく、自身が悪いという話だとカルラさんが念を押しました。私が皇家に不信感を持った事にも、気付いたようです。そこに糾弾の色がないので、カルラさんも内心では……これは野暮ですね。
「でもわらわは、兄様を兄と思ってるの」
身内だから、助けるのは当然。健気という言葉だけで表現するのは憚られます。皇家として絶対の地位に居るのです。人を使って妹さんを探すことも出来たでしょう。なのに、自分の手で兄と妹の問題を解決しようと……王国まで来たのです。その覚悟を、健気、そんな言葉で片付けて良いとは思えませんでした。
「身近な身内の運命すら変えられずに、皇国を変えるなんて無理なの」
カルラさんが自身に課した、皇女への道の一つ。その試練は余りにも険しく、厳しいです。王国は広い。北を回ってきた私達ですけど、すでに二十日近く経っています。人を探しているのですから必然的に、一つ一つの町にかける時間は私達より多くなるでしょう。何より、北だけでなくその他にも……もしかしたら共和国に居るかもしれませんし、連合にも……? 探し出すには、何年かかるか……。
「カルメの理解を得て、共に皇家に帰るの。そしてちゃんと、皇女を目指すの」
皇女になるのは、その試練よりも難しいという事でしょうか。六十名以上の皇家の中で、一人だけしかなれない皇です。国民による選挙制なのか、現皇による選任制なのかで難易度は変わります。
選挙制になれば、より広い土地と後援者の数が重要でしょう。いかに固定票を獲得できるか、です。
選任制ならば、現皇へのアピールが重要になります。もしそうなら、妹を探して王国を旅し、完遂。見聞を広め、王国や共和国の重要人物との交流を経て親睦を深めたというのは、最高のアピールポイントになるでしょう。
でも私は、カルラさんがそれでアピールするとは思えませんでした。何故かは、自分でも分かりません。でも、あんなにも仲良さそうにしているシーアさんとカルメさんを見ていると、それを功績として皇に報告するカルラさんを……想像出来なかったのです。
ただ一つだけ、カルラさんには非常に悪いとは思いますけど……どうしてもムカつく事が一つだけ。
「……」
カルラさんの想いを聞いたこの人は何で、こんなにもぼーっとしてるんですかね。何の反応も見せないのはどういう事でしょう。寝てるんですか?
(リツカの機嫌が悪くなった理由は解るの。でも兄様の反応がない事なんていつもの事なの。でもこのままリツカが不機嫌なのは、わらわとしても辛いの)
「リッカさま。カルラさんに私達の旅のお話した方が良いかと。これからの捜索に役立つかもしれません」
「そ、そうだね。カルラさん、ちょっと時間良い?」
「なの。ありがとうなの」
(ころころと感情が変わるの。それも可愛いけど、やっぱりアルレスィアには敵わないって思ってしまうの)
カルラさんに、行った町での様子や特徴を話しました。気をつけなければいけないのは、メルクでしょうか。元巫女が居るからと、私達と会ったというのは禁句です。ルイースヒェンさん個人であれば話しても大丈夫かもしれませんけど……微妙な表情をされるでしょう。町民に話してしまうと捜索どころではなくなります。
それ以外の町で、カルラさんに似た方は見ていません。見たら絶対に忘れませんし、噂になっているでしょうから。他の方角には居ないのでしょうか。
「カルメは寒い所に居るはずだから北だと思うの」
「連合には居ませんネ。あちらは陽の当たりが多いので少しだけ温暖でス」
「王都はそこそこ寒かったろ。東や南の一部には居るんじゃねぇか」
「寒いのが好きって事だし、本当に寒い所に居るんじゃないかな」
「共和国と北西から北東ですね。王国の北部は危険みたいですけど……大丈夫でしょうか」
「カルメは危険を避ける能力に長けてるの。危険なら近づかないと思うの」
「では、北端ではないですね」
「共和国を範囲に加えると、この辺りでしょうか」
地図を広げながら、私達とカルラさんはある程度範囲を絞っていきます。一つ一つ巡るのは、最も居そうな場所を探してからでも遅くありません。
「私からの提案ですけド、カルラさん達は先に北西か北東、もしくは共和国に行って貰った方が良いのではないかト」
「私達はこれからも北を進むからね」
見聞を広げるのなら、自身の手で回るのが良いのでしょうけど……カルメさんを見つけてからでも良いのではないかと思います。まずは見つけて、安心してから、です。
「では、お言葉に甘えるの。でもわらわ達はまず、王宮に行くの。この者を引き渡すのと、まだしてない挨拶を国王陛下にしないといけないの」
「でハ、謁見が円滑に進むように紹介状を書きますネ。お兄ちゃんならそれがなくても直ぐに謁見できると思いますけド、一応でス」
「ありがとうなの、レティシア」
コルメンスさんなら、快く入れてくれそうです。シーアさんが紹介状まで書いたのなら、最優先にするのではないでしょうか。
私達はそうは思いませんけど、エルさん曰くシーアさんは結構、付き合う人間を選ぶそうですから。
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