二人で歩く世界⑤
アリスさんが料理をしている間、手持ち無沙汰なので、今までの戦闘での反省点を確認していきます。
(この剣だと、刀と同じように斬ってたら、手への負担が大きい)
西洋剣、バスタードソードに近い見た目のそれは、斬るというよりは挽くといったほうが良い代物でした。
(”精錬”で、切れ味も上げることはできたけど……)
折れないための強化がメインであるため、斬る時にかなりの負担がありました。
「やっぱり、刀が欲しいかな」
私の戦い方で、この剣だと、長期戦になってしまう……。
刀の切れ味を更に鋭くするために、体を回転させて斬る。
もともとの筋力が平均女性より少し強い程度……いえ、むしろ平均より下かもしれませんけど、私が行える全力攻撃が回転斬りです。
母からは「そんな踊りみたいなのは実践じゃ役に立たない」と言われたけど……それをものにするために、感覚を鍛えたのです。生まれつき、人よりやけに鋭敏に働く――”第六感”を。
その分、疲れが激しいけど……一撃で、仕留めれば問題ありません。
オルテさんたちの想いが詰まっているとはいえ、その想いである『アリスさんを守る』ことが出来なければ意味がありません。
「早い段階で刀を手に入れないと、王都にも鍛冶屋はあるだろうし。頼んでみよ」
えーと、刀の作り方はどうだったかな。腕のいい人を探さないと。木刀を使って作るんだから、失敗は許されない。
もう一つの問題も出てきたかな。
「木刀なくなったら、対人どうしよう」
んー、やっぱり”光”使いこなすしかないかな。たぶんそれが、神さまが考えてた『前提』だったんだろうし。
”光”の魔法。悪意への特効。ただ、悪意に染まってしまっただけの人を救える力。
「リッカさま、ごはん出来ましたよ」
アリスさんの呼びかけで、集中していた頭がすっと冷えます。
「はーい、今いくよ」
先を見据えて、行動していこう。
少しアレンジが加えられうま味が増し、味に深みが出たスープに舌鼓をうちます。煮込み系のスープですけど、そこは干し肉を使い上手く味を出した、外で簡単に作ったものとは思えないスープが出来ていました。
「おいしー! 塩気もぴったり」
真の料理人とは、どんな場であろうとも最高の物を提供できる人と、自衛隊の父が言っていました。
そう言っていた父の料理は、私には苦かったり酸っぱかったりでしたけど。
「リッカさまにそう言ってもらえてうれしいです」
アリスさんもうれしそうにしながら、一緒にスープを飲んでいます。
「私も料理してみようかな」
私の料理でアリスさんを喜ばせてみたくなって、言ってしまいました。
「では、明日は一緒に作りましょう!」
「うん! よろしくね?」
アリスさんが笑顔で提案してくれます。つい、私の顔も綻んでしまいます。でも……私の頭の中では、母から受けた凄惨な料理教室の光景が、かけめぐっていました。
(一緒に作ろうとは言ったけど、あまり……私はしないほうがいいかもしれない)
まずいものを作るというわけではないのです。ただ、料理の時に……ドジを連発してしまうのです。
砂糖をとろうとして、なぜか置いていた塩に手があたり塩が材料に降り注いだり。醤油をいれようとしたのに、なぜか中身が酢醤油と入れ替わっていたり。
ちなみに入れ替えの犯人は偶に帰ってくる父です。
善意で入れたものが両方酢醤油というドジをしました。……もしかしてドジって父からの遺伝?
そんなことはないはずですけどね。でも母と祖母からは父親似ってよく言われますし、まさか、ね。
(気をつけないと、残りの食材を全滅させかねないなぁ)
でも、アリスさんと料理かぁ。ちょっと楽しみです。