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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』決闘⑨



「言っておくけど、黙っていた方が身の為なの」

「……」


 カルラさんが、侍従に話しかけています。私が脅したので、口を開く事はありません。でもカルラさんが黙っていた方がというのは、連合に帰ってからの話みたいです。


「連合を調べるのは難しいの。でも調べられないわけじゃないの」

「共和国としてハ、皇国の方が調べられないでス」

「なの。王国と共和国は調べやすいの」


 情報部、ですか。そういえば王国にはあるんですかね。魔王の所在を探っていたという人たちがそうなのでしょうか。結局、会えず仕舞いでしたけれど。 


「本題なの。連合の豪族には鉄の掟があるの」

「鉄の掟?」


 ヒスキから見えてくる連合とは、戦闘狂で、女を人として見ていない、金だけを信頼した可哀相な国です。そんな国での掟。碌でもないのでしょうね。


「ズバリ、負け犬に発言権はないという事なの」


 カルラさんの言葉は、切れ味がありますね。負け犬としてカルラさんが指を差したのはヒスキです。実際、欲望に塗れた結果負けた人です。


「今でこそ中堅くらいの豪族でも、負けて帰ったなんて知れたら話を伝える前に都落ちなの」

「ググ……」


 どうやら、図星みたいです。


「この誓約書が無い以上、戦闘があったかどうかすら証明出来ないの。巫女と皇姫を賭けて赤の巫女と戦ったなんて誰も信じないの。それに、無傷で帰ったそこの男の言葉なんて嘘って思われるのが落ちなの」


 カルラさんの計画は、かなり先まで見越していたようです。このまま帰しても問題ないほどに。嘘吐き呼ばわりされるか、敗者として地位を失うか。どちらにしろ、ヒスキは終わりです。それならばいっそ、この場で無かった事にしようという事でしょう。


「……」

「こちらの用事が終わるまでに考えとくと良いの」


 連合の二人がやれる事は少ないです。大人しく帰るか、足掻くか。カルラさんの言葉から考えるに、足掻いた場合多くを失うのだと思います。


 戦争を起こすための口実を求めて、この国に来たのでしょう。しかし、そんな理由で今の地位を捨てるという選択があるとは思えません。地位を失えばこの人はただの――負け犬なんですから。


「連れて来たぞ」

「な、何故お前が……!?」

「あんたも捕まってんだろ……」


 見るからに柄の悪い人が、レイメイさんによって運ばれて来ました。この人が狙撃手ですか。


 侍従が驚いていますけど、ヒスキが撃たれずに倒れている事が何よりの説明だったと思うのです。それに、レイメイさんが居なかった事にも気付いてなかったみたいですね。


「ほらよ」


 レイメイさんが捕まえたままの狙撃手をシーアさんの前に放り投げました。


縫いつ(【グラソ・)けよ、(クゥ】・)氷の茨(イグナス)


 狙撃手を氷の茨で縛りつけたシーアさんを、侍従が睨んでいます。


「貴様等、我々に手を出し」

「さて、この不審者は誰なのでしょう」


 アリスさんが侍従の言葉を遮りました。


「レイメイさんが連れて来たこの者は、私達を狙撃していたそうです」

「それは大変だね。シーアさんやカルラさんに当たってたらどうなってた事か」

「私はエルヴィエール女王陛下の義妹でしかありませんけド、カルラさんは正真正銘皇姫ですからネ。もしこの人が撃ってたら国際問題。問答無用でその国への攻撃が可能でス。もちろん計画した人と実行犯は死刑でス」

「怖いの。こんな人が居るなんてまともに外を歩けないの。一体何処の国の人なの」


 侍従は言いかけた言葉を飲み込み、止まりました。


「そいつが知ってんじゃねぇのか? 見知った顔みてぇだが」

「!」


 レイメイさんに指摘され、侍従が動きを止めました。拘束された狙撃手が助けを求めるように見ていますけど、目を合わせようとしません。


「まさか」

「連――」

「ま、待て。知らん」

「おい!」

「黙れ下郎! 私とヒスキ様はただ旅行中に少しばかり羽目を外しすぎただけだ! 貴様のような極悪犯など知らん!」

「お、お前……!!」


 侍従は選んだようです。今回の事を無かった事とし、一度国に帰る事を。しかし、完全に火種が消えたわけではありません。ヒスキがどのような選択をするかは、誰にもわからないのですから。でも少なくとも、アリスさんとカルラさんは守れたのです。私にとってはそれで、構いません。


 言い訳……という訳ではありませんけど、私達がこの人と会わなくても……この人たちは適当な人を捕まえて国際問題にしようと動いた事でしょう。これから戦争が起こるかどうかは、連合の上層部にかかっています。どうか、血迷わないで欲しいものです。


「ではこの人はこちらで尋問します」

「その後は――カルラさんにお任せしてもよろしいですか?」

「分かったの」


 狙撃手の処遇は、皇国に任せます。カルラさんも標的にされていたので、皇国で裁くと言うのであればそれで。


「一つ尋ねます」

「……何かね」


 私は確かめなければいけないので、侍従に尋ねます。


「あなたはヒスキの侍従で良いのですよね」

「……そうだが」

「この誓約書を見てください。ここを読んで欲しいんです」


 確かこの文だったはずです。


「これから戦い」


 一つ上を指してしまいました。そのまま読んでもらいましょう。訂正なんてしたら微妙な空気になってしまいます。


「――敗者は勝者の奴隷となる」

「私は勝者です」

「……ヒスキ様は奴隷と言いたいのですかな? 不敬な」

「問題はそこではなく、奴隷の侍従を私は使えるという解釈で良いのですよね」

「は?」


 唖然とした表情をしています。私はそんなにおかしな事を言ったのでしょうか。


「構わないでしょウ」

「リツカに従うように、ヒスキに命令してもらうだけなの」

「な、ま……待て!」

「この銃をどうやって手に入れたんですか。答えなさい」

「待てと言って……!」

「答えなさい」

「……ッ!!」


 量産されているのか、誰でも手に入れられるのか、もう流通しているのか。これだけで良いのです。とにかく、注意喚起が必要ならばすぐにでも対応しないと……コルメンスさん暗殺も、出来なくはないです。


 王都の南には丘があります。そこから城壁が邪魔をしていますけれど、私の記憶が確かなら……王宮の一部は見えていました。もし、そこをコルメンスさんが通るのなら、狙えます。距離にして二千メートル以上になりますけど、魔法と合わせれば三千……いえ、四千……? 


 こんな粗悪な銃でも、一発ならその距離を撃てるかもしれません。かもしれない、です。確定ではありません。でも、連合には気をつける必要があると分かりました。今ここで注意しないと、不義理です。私はコルメンスさんに大いに助けられましたから。


「どうやって手に入れたんですか」

「……ある商人から買った」

「その商人はいくつ持っていました」

「さてな……。店先には五本あったが……」


 五挺……。売れた後なのか、それが限界なのか。


「流通はしてますか。値段は」

「我々以外で買った者は居ないと聞いている。値段は……この国では家が一つ建つ」


 大体、四百万から一千万ゼルですか。高いです。誰も買っていない物に、そんなお金を出すなんて……豪族というのは思った以上にお金持ちみたいです。


「その商人は何と言っていましたか」

「……王国で、ある者に仕えていた時目にしたと。その後嫌気がさし、試作品と共に逃げ、連合に……。試作を改良し、やっと売れる物になったと言っていた」


 その言葉が確かなら、五挺で全部。流通はまだしてない。でも、もし誰かの目に留まって、量産態勢が整えば……。


「連合の権力者達は、これを知ってるんですか」

「まだ、知らない。だが何れ知るだろう。あの商人は精力的に……豪族を主な客としていたからな……」


 連合国内での出来事に、干渉出来ません。注意する事しか出来ませんね。


「分かりました。では最後に、そのまま真っ直ぐ連合に帰って下さい。寄り道すれば……」

「わ、分かっている。ヒスキ様をこのままになど出来んからな」


 この人に聞くのは、これだけで良いです。本当はマリスタザリア化実験の事も聞きたいのですけど……知らなかった場合、興味を持たれても困ります。


 真っ直ぐ帰ってくれる事を願います。


「次はこちらですね。こちらの尋問が終わるまで行動しないように」

「……」


 次は狙撃手です。アリスさんの鋭い視線に、侍従はゆっくりと頷きました。


 狙撃手に聞く事は、そうですね……雇い主と報酬の金額、どんな命令をされたか。ですね。裏切られた狙撃手はどこまで話してくれるのでしょうか。減刑を求めて全てを話してくれると、私は思っています。



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