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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』決闘⑦



(馬鹿な……!? あの、目にも留まらぬ弾を……!? 手? な、何を、した)


 ヒスキの足元まで大きく抉れ、ヒスキは宙吊りとなってしまっている。浮いたままのヒスキはその事よりも、リツカが何をしたのかに注視している。


(しかし、あ、の力……やはり、欲しいな)


 リツカが空けたであろうクレーターを視線だけで確認し、ヘトヴィヒの成果を欲する。それは、独占したいという強い欲だ。リツカという小柄で細い女であれなのだ。自身の恵まれた体格ならばどれ程の、と。


 リツカとアルレスィアから殺気と批難を浴びせられても、ヒスキは気色悪い笑みを浮かべているだけだ。


「リツカお姉さン、大丈夫ですカ」

「うん。でも、アリスさんは今他の魔法が使えないから……」

「そこは任せて下さイ。カルラさんもこっちにオ願いしまス」

「なの」


 カルラが歩いてやってくる。それをマウヌが見て、歯軋りしていた。


《ヒスキ様》

《何だ。止めるな》

《いえ。私も腹を括りました。ここは皇姫を狙いませんか》

《ほう。俺の女を殺すと申すか》

《処罰は後ほど、何なりと》

《構わん。申せ》


 ヒスキは謎の魔法で捕らわれたままだ。しかし、落ち着いている。リツカが褒めるくらいに精神力があるのは間違いないだろう。


《王国で皇姫が死んだとなれば、皇国もその他の国も王国への協力を渋るのではないでしょうか》

《確かにな。王国だけとの戦争ならば造作もないだろう。この国は見たとおり疲弊しきっているからな》


 この作戦もまた、共和国を見ていない。しかし、皇国とその他の国は手を出さなくなるだろう。エルヴィエール経由で真実が話されようとも、王国の地で死んでしまっては、言い訳にしかならないのだから。


《いかがでしょう》

《良い。とりかかれ》

《ハッ。殺れ!》

《了解》


 伏兵はすでに準備を終えている。ゆったりと優雅に歩いているカルラ相手ならば問題なく撃ち抜けるだろう。


(ロクハナリツカ。あやつは弾が見えているようだが、あの様子では第二射までは対応出来ないだろう)


 ヒスキに注意を向けているリツカならば、次を止める事は出来ないと考えているようだ。


 しかしヒスキは分かっているのだろうか。先程の状況でリツカが――アルレスィアを守りきれたという事が、どのような意味を持つのかを。


「リツカ。怪我は大丈夫なの?」

「はい。後でアリスさんに治してもらいます」

「それなら良いの。あの者を捕らえたようだけど、次はどうするの?」

「次で意識を奪います。もちろん、傷はつきません」

「問題なさそうなの」


 リツカが雑に刀を振るう。それは、カルラとの会話をしながらやる気を表現するかのようであった。しかし、キンッと小さく金属音が鳴っていた事に、カルラとレティシア、ヒスキとマウヌは気付いていなかった。


(……?)

《何をしている。殺れ》

《う、撃ちましたよ!》

《何? また外したのか》

《雇い主ですがね。言わせてもらう。馬鹿にしないで欲しい。二度も外さない!》


 一向にカルラが死なない。ヒスキは伏兵に催促するが、伏兵は困惑するしかなかった。


(撃ったよな。弾出たよな。何で死んでねーんだ!?)


 再度弾を装填し、”望遠”で見る。その映像は、水のカーテンで覆われてしまった。


(チッ……! 何だ!?)


「サボリさんを洗濯して鍛えた水流でス」

「お風呂入ってないのにレイメイさんが綺麗になってたのって……」

「頑張りましタ」


 レティシアが発動した”水流”が、アルレスィア達を囲み回っている。相手の射線から守り、尚且つ、もし撃たれても水流で弾道がズレる。水すら切り裂くライフル弾であるが、レティシアの”水流”を切り裂くには回転数が足りない。


「巫女さんとカルラさんはオ任せ下さイ」

「うん。後、レイメイさんに伝えて欲しい事があるんだけど」


 リツカがレティシアに頼んでいる間、アルレスィアは集中力を高めていく。次の魔法はより慎重に、バレないようにする必要がある。その点でも、この”水流”は大いに役立っている。


「じゃあ、私が囮になってるから」

「大丈夫なの?」

「もう弾の速度には慣れたので、目視しなくても避けれますよ」


 カルラの疑問にさらりと答え、傷ついた手をグッグッと握り、感覚を確かめている。


()()も見れたので、大丈夫です。任せて下さい」


 リツカだけが”水流”の外に出て行った。


「三回なの?」

「二回じゃなかったんですネ」

「いつ撃ったのか判らないの」

「リツカオ姉さんが隠れてた時なんでしょうカ」


 レティシアとカルラの会話にアルレスィアは、少しだけ耳を傾け微笑む。カルラの優雅さは変わらないけれど、それでも緊張感は取れている。その事が、戦いの終焉を告げているようだった。


(あれでは、当たらんな。使えない奴め。給料はなしだ)


 ヒスキは何とかして光る槍を取ろうとしている。しかし、全く力が入らないのだ。マウヌに助けてもらおうにも、一対一と言い狙撃で暗殺しようとした手前、大っぴらに手伝ってもらう訳にはいかなかった。


「そろそろ終わりです」

(何を考えている?)


 のこのこと出てきたリツカに、ヒスキは眉を寄せる。しかしマウヌは伏兵に、再度狙撃するように命令を下した。


「一対一の最中に仲間の元に行くとは、誓約を破るつもりか?」

「何もしてませんし、してもらってもいません」

(元気は貰ったけど)


 刀をくるくると回して、ヒスキの皮肉に答える。その動きはこの戦いが始まったときから、リツカがたまに見せていた動きだ。何の意味もない。実際、意味らしい意味はない。刀がしっかりと自身と同化しているか。その確認のためにリツカは刀で遊ぶのだ。しっかりと思い通りに動くのか調べる準備運動。しかし今は、明確な意味がある。


(後二回くらいかな)


 弾を再び斬ったリツカは、ヒスキをじっと睨む。

 伏兵が二回撃つまでに、この戦いは終わる。リツカはもう、相手三人の注意を惹きつけるだけで良い。


「形振り構わず、王国との戦争材料を作ろうと必死ですね」

「……小娘には解らないだろう」

(戦争したくて仕方ない人の気持ちなんて解りたくない。止むに止まれぬ理由があるならまだしも……といっても、戦争にそんな理由があるのかな。コルメンスさん達がやった革命が、それになるのかな)


 リツカが刀を振る。漸くヒスキが、リツカの不審な行動に注目しだした。


(さっきから、何を……)


 リツカが更に刀を振る。パスッと、ヒスキの両隣から音がする。


(まさか……斬って、いるのか?)

「気付いても、もう遅い」


 リツカが歩き出す。


(どうする。このままでは)

「貴様、あれを……知っているな!?」


 話をすることで、ヒスキは時間を稼ごうとする。しかしもう時間稼ぎは終わっており、リツカとレティシアにしか見えない、白銀の霧がヒスキを覆い尽くしている。


「私の居た世界では、最も手軽に、簡単に人を殺せる道具です。一発ずつとか、たかだか七百、八百メートルの距離で遠距離とか思わないでいただきたい。音が届く速度を越え、何十人も一度に殺せるんですよ」

「……ッ」

「その銃であっても、私を殺す事は出来ない。私を殺したかったら、私以上の速度と技術でもって、正面から上回るしかないんです」


 本当は、一発目で死んでいてもおかしくなかった。それでもリツカは虚勢を張る。ヒスキが完全に信じる程の気迫を纏い、淡々と告げるのだ。「私を殺したかったら、人を超えるしかない」と。


(この場の勝利は、こいつに勝つことじゃない……! 皇姫と白髪は名残惜しいが……この化け物の目論みを砕くしかないッ)


 ヒスキは近づくリツカを見る。一歩ずつ、確かに近づいてくる。傷つける事無く拘束する魔法。傷つける事無く意識を奪う方法もあると確信出来る程に自信に満ち溢れた風格だ。


(何かの条件を満たしてしまったのか……? 解らない、が……こいつの魔法は確実に俺の意識を奪う。それも、誰にも判らぬ方法で……!)


 この時点で一対一ではないとリツカは気付いていると、ヒスキは考えるべきだった。しかし、思考が混乱に向かっていた為気付けなかった。気付いていれば、リツカが魔法を使わなかったのではなく、使えなかったのだと気付けたのだ。そして、先程から黙って集中しているアルレスィアに気付けたかもしれない。


 今更気付いても、()()()()のだが。


「私の想いを受け、赤光を――輝かせよ。 拒絶(【ルフュ・)の鎌(ズィフュ】)()意識を(【アルィテ・)(ズィダス・)―刈り(ブラァスタ)(ン】)(・オルイグナス)


 粛々と紡がれたアルレスィアの詠唱。今度はリツカだけでなく、レティシアとカルラにも、そして……ヒスキにも聞こえた。



(しま――――ッ!?)


 急速に目の前に闇が迫ってくる。何も考えられなくなり、意識が落ちそうになっていく。そんな中でヒスキは、一言だけマウヌに告げるのだった。


《俺を――撃て》




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