二人で歩く世界④
「これから行く王国、キャスヴァル王国ですが」
アリスさんから王国レクチャーを受けます。これから行く所を何も知らないというのは、失礼すぎますから。
「王の名は、コルメンス・カウル・キャスヴァル。この国では十年前、革命がおきました。当時十七歳という若さでありながら、革命軍を率いていたコルメンス様が王位につき、大きく生まれ変わった国です」
私と然程変わらないのに……革命軍のリーダー……。英雄、という方ですね。
「今の暦はA,C,27です。Cはコルメンス様からとっております。コルメンス様がお生まれになって二十七年。ということになりますね」
日記の日付にどうぞ。と笑顔で教えてくれました。日付をかけていなかったので助かります。
「でも、どうして二十七年……?」
普通は、王位が変わってから数えるんじゃないでしょうか。
「本来なら、王位についてから数えます。しかしコルメンス様が始めから王であったと思いたいほど、国民の怒りは大きかった。ということです」
いきなり年が飛んで、混乱はしましたが。とアリスさんが困ったように眉をよせてしまいます。
「革命、一体何が不満でおきたの?」
「先々代の王は、賢王と呼ばれ、多くの国民に愛されておりました。ですが先代は、賢王の子であるというのが、信じられないと。王国の民が評すほどの暴君だったと聞きます」
……私の世界でもおきていたことです。王による圧制、重税による飢え。厳しさを超えた規制。
教科書で書かれるありふれた理由。なのに現実として目の前に現れると、こんなにも重い……。
アリスさんの表情が、淡々としたものから怒りを含んだ表情へ変わりました。
「最も人々を怒らせたのは、”神林”を私物化しようとしたことです」
なん、ですと……?
「それは、私も怒り狂ったことだろうね」
あの森を私物化なんて、なにをいってるんでしょう
「思えば、あの時すでに結界が弱まっていたのでしょう。本来ならそのような気はおきないはずですから」
だから神さまが気がついたのかな?本人に聞けないからわからないけど。
「でも、革命がおきた……」
「はい。人々の悲しみ、怒りを受け。立ち上がったのです」
コルメンス様に対して、尊敬の念が生まれます。私もかなり現金です。
「革命は成り、今の王国が生まれたのです」
いい国と聞いています。とアリスさんの顔が綻びました。
「楽しみだね。王様を一目見たくなったよ」
人々を、森を守るために立ち上がった人たちのリーダー。どんな人なのでしょう。”神林”の為に立ち上がった……もしかして、森好きなのでしょうか。
そういえば、ギルド。
「ギルドに所属するって言ってたけど、何をするところなの?」
イメージしているのは、狩人なんかが所属する。そんな感じですが。
「はい、商業、農業など。全ての組合の管理所です」
「割と普通?」
「ここまでは、ですね。今のギルドで一番重要な役割を担っているのが、ハンターや、護衛なんかの斡旋です。冒険者組合、というそうです」
イメージのギルドに近づきました。イメージしているのが向こうの世界のアニメーションという辺り、向こうの現代っ子という感じで恥ずかしい限りです。
「近年はマリスタザリアが増えましたので、国が主導してハンターを雇っているようです」
「国が主導して……」
「ですから、私たちもそれに所属します。金銭問題を工面しつつ、リッカさまと私のスキルアップをしていく運びにしようかと思っております」
「なるほど、一石二鳥だね」
いえ、一石二鳥どころではないですね。冒険者に所属することで得られる恩恵は、まだまだ多そうです。
「でも、なんで冒険者って名前なんだろう。依頼解決がメインなんだよね?」
それだと、冒険者より何でも屋? 便利屋立花さん復活でしょうか。
「ふふ。――開拓時代の名残のようです。その時に冒険していた人たちが、人々のためにと立ち上げた。というのが発祥のようですね」
なるほど。私の妙なやる気に、アリスさんがクスリと笑っていました。
「ありがとう。何から何まで」
申し訳なく思い、アリスさんに感謝を述べます。
「リッカさまを、支えると決めましたから」
アリスさんが笑顔で応えてくれます。本当に、アリスさんには頭が上がらないなぁ。
時間的には、まだ余裕があります。でも、道中の三分の二あたりで休むことにしました。
「ここから先は休憩できるところがありませんから、ここで一先ず休みましょう。私は”水”が余り得意ではないので、補助器がないと不安が残ってしまいます」
「補助器っていうのは、井戸とかアリスさんの家についてた」
「はい。あれで、私達の魔法で作り出した”水”の出を調整します。もちろん、自然の水を引っ張ることも出来ますから、”水”が得意でない方はそのままお使いいただけます」
川はありませんけど、小さいながら湧き水がでていました。水場の近くじゃないと、寝泊りは難しいですからね。昨日のキャンプで何となく分かりました。
向こうの世界にあるような蛇口はありませんけど、魔法を補助する器具はあるようです。得意でない”水”だと、出る量が調節出来なかったりするらしいです、ね。
「じゃあ準備するね」
私は簡易テント設置に移ります。アリスさんは、晩御飯の準備です。
「時間の余裕がありますから、スープを作りますね」
「ほんと? やったっ」
アリスさんがにこにこと教えてくれました。私は思わず、普通に喜んでしまいます。……もうバレてるんですから、隠す必要はないのです。ええ。
「コホン。そういえば私、この世界のマナーとか大丈夫かな……」
決して照れ隠しではありませんが、話しを変えます。
「普段通りのリッカさまで充分と思いますよ」
微笑むアリスさんからお墨付きをいただきました。
「リッカさまは、しっかりしてます」
アリスさんの手が、私を撫でようと伸びてきます。私は――。
「ん……」
アリスさんの手は、なぜか――避けようとは、思いませんでした。