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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』国際交流⑤



「と、いう訳でス」


 レイメイさんが戻ってきたので、シーアさんが経緯を説明しました。


「狙いはわらわなの」

「巫女さんに声かけてましたかラ、止まりませン」


 そういう事です。カルラさんも心配ではありましたけど、それだけなら口頭注意だけです。アリスさんにあんな視線を向けたというだけで、私の頭は沸騰しています。もう誰にも止められません。


「はぁ……こればっかは仕方ねぇな……つぅか、刀まで抜くんじゃねぇよ……」

「殺気を飛ばしてモ、体格差で調子に乗った男を止めれないからって理由らしいでス」


 相手は私の二倍近いです。いくら殺気を飛ばそうとも、調子に乗っている狼には効果はありません。欲望のまま近づいてくるでしょう。そんな人間相手にするなら、明確な殺意を持つしかありません。


 地面を斬り、線を描きます。この線の意味、分からない程低脳ではないでしょう。越えたら斬る。


「貴様、こちらをどなたと――」


 侍従か誰か分かりませんけど、余りにも状況を飲めてないので……剣を抜き侍従の目の前に刺さるように投げました。動くと次は斬る。


(いつ剣を抜いたか見えないの。気付いたら剣が地面。何かの魔法なの?)

(速いな。俺でも見切れん。()()()()()()()()より強いか)


 この男は、私の動きについていけている。ただの”強化”とはいえ、ライゼさんとも良い勝負が出来る……? 少なくとも、武術の心得がある。やっぱり、連合にはあるようです。


「ヒスキ様、こやつ……」

「慌てるな。丁度良い理由となる。何より――好都合だろう」

「……なるほど。流石はヒスキ様。こやつの禍々しい殺気の中、何と冷静な判断。感服いたしました」

「ガハハッ! 手筈通りやれ」


 堂々と何か作戦があると言っています。こちらが連合の言葉を話せないと思っているのでしょう。レイメイさん以外は話せます。でも私達は、皇国と王国の言葉で話しています。このままベラベラと、作戦を話して欲しいものです。


「通じているか」


 王国の言葉、話せるじゃないですか。必要に応じてという事でしょう。


「……」

「決闘を申し込む」


 私の無視には無視で返してきます。決闘というのが分かりません。アリスさんとシーアさんも分からないようです。連合の古い風習?


「取り決めは」

「リッカさま!」

「リツカ、落ち着くの」


 アリスさんが私の腰に抱きつき、カルラさんに袖を掴まれました。


「もう遅い」


 ニタリと笑った男。勝利を確信したといわんばかりです。


「……?」


 私に何かかけたようです。でも、男の困惑が伝わってきます。発動しないからでしょう。


「……”契約”なの?」

「はイ。言ってしまえば言葉による縛りでス。恐らくリツカオ姉さんの”取り決めは”とイう言葉が同意と見なされたのでしょウ。本来でアれバ、リツカオ姉さんの人差し指に魔力が灯るはずなんですけド」

「”拒絶”しました。当然です」


 私にかかる魔法なんて、アリスさんが全て弾きます。でも、”契約”なんていう魔法があるんですね。縛りという事は、私は必ず決闘しなければいけないと行った所でしょう。


「取り決めは」

「リッカさま……」


 ごめん。アリスさん。でも――止まれない。


(どういう事だ。何故かからない。しかし――)

「受けるという事で良いか」

「力で従わせるのは嫌いですけど、あなたのような狼には解らせる必要がある」


 決闘を申し込んだ以上、勝てば……報酬は確実に手に入る。”契約”という物がそれを更に確実としたのでしょう。でも……相手は勝つ気でいますし、言質は取りましょう。


「取り決めと報酬は」

「何度も言わなくて良い。何でも有りの一対一。負ければ勝った方の奴隷だ」

「……それだと、私しか獲得できませんが」

「構わん。お前の力を使えば力尽くで連れて行ける。黒髪と白髪は貰うぞ」

「――――私が勝っても、あなたはいらない。国に還ってもらう」

「俺もお前はいらん。お前の赤は血の色だからな」


 気に入られてても困ります。こいつの口から白という言葉が出るだけで、私の心がざわつく。怒りで頭真っ白。私個人の怒りで、”巫女”で在る事を放棄する。私は今、アリスさんを守るだけのリッカです。



「――――っ!!!」


 リツカに縋りついたアルレスィアの怒気が膨れ上がる。もはや決闘を止められる者は居ない。


「ア、アルレスィア?」

「イよイよこの争イは止まりませんネ。巫女さんも怒っちゃイましタ。巫女さん。カルラさんが怯えてまス」

「も、申し訳ございません。私が熱くなっては、いけませんね」

 

 大人しい、冷静、静謐を体現したアルレスィアが放った怒気は、リツカの殺気を目の当たりにしても落ち着いていたカルラを震わせた。


「……おい」

「どうしました」


 ウィンツェッツが心配そうに声を出す。


「理由は別物だが、状況が似てねぇか」

「……」

「あァ、サボリさんとの喧嘩ですカ。怒りの質はこっちの方が上ですけどネ」


 アルレスィアを標的にされ怒り狂うリツカ。それはまさに、ウィンツェッツとの喧嘩と酷似している。


「あー……まぁ、俺の事は良いんだよ」

「……」


 アルレスィアの目は良いとは言っていない。


「俺の時みてぇにしねぇよな」

「……」


 魔法、武器抜き。相手の心を折るために圧倒的実力差を見せ付ける。


「今回はしません。あの時はレイメイさんの実力がいかに足りていないかを自覚させる目的でした。しかし今回は、その必要はありませんから……」


 書類を書く男を睨み続けるリツカを、アルレスィアが心配そうに見ている。



「書け」


 誓約書。ルールと報酬、それを遵守するという誓いです。


「アリスさん。確認お願いできるかな」

「……やるのですね」

「安心して。コイツは二度と、アリスさんの前に現れないから」

「……っ」


 そういう事では、ないのでしょう。私闘を行う事に後ろ髪をひかれているのです。でも、止まりません。ここで無視して進む事は出来ます。一目で分かります。コイツは弱い。力としては、ヨナタンと同等か少し強いくらいです。そんな人に、”抱擁強化”で対応しようとしている私は、弱いもの虐めでしょう。


 でもここで無視なんてしたら……私じゃなくなる。


「リツカの気持ちは分かったの。わらわを置いて行くといいの」

「……何を言ってるんですか?」


 カルラさんが何を言っているか分かりません。


「愚兄が戻ってくれば逃げるくらいは出来るの。あの男の狙いはわらわ。わらわが居ればアルレスィアを追っかける事はないの」


 カルラさんを置いて行く。ありえない選択です。


「それは逆効果でス」

「なの?」


 そう、逆効果です。優しい皇姫様を犠牲になんて出来ません。この争いは私が生んだもの。巻き込んだ責任は取ります。


「私達の身代わりになろうっていう、優しい友人を……あんな奴の前に置いていくなんてしません」

「……”巫女”って馬鹿なの」

「巫女っていうか、私だけですよ」

「もう止めないの。わらわも助けてもらうの」


 呆れさせてしまいましたけど……私は和ませてもらいました。


「待っててアリスさん」

「……私も、貴女さまとあの人の……くっ……」

「大丈夫。動く暇なんて与えない」


 一方的に心を叩き折、終わりにします。慈悲などありません。これは私の……私、の……!!!


「町の外に行きましょう。大の男が、こんな小娘に負ける惨めな姿なんて、見られたくないでしょう」


 怒りで血管が切れそうな大男に、不敵に笑ってみせます。バレてないと思っているんですかね。その怒りは偽である事、バレずに戻ってきたと思い込んでいる侍従が何かしていた事、外に行くのは男も求めていた事。


 一対一と言っていましたけれど、誓約書にはただ戦うという事しか書いていません。どうせ、手を出すのでしょう。それが何なのかまでは分かりませんけれど、全て潰してやります。



ブクマありがとうございます!

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