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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』国際交流④



「この場所の冒険者が怠慢なの」

「私達も、その事を確認に来たのです」

「開かないの」


 組合の前でずっと、五分くらい会話をしていたのですけど……開きませんね。


「すみません」

「は、はい!」

「ここって冒険者組合ですよね」

「はい!」

「開かないんですけど、いつ頃開くんでしょう」


 通行人の中に、私達を見ていた人が居たので尋ねてみます。


「そそそ、それは、入っていけば応対してくれますよ……?」

「開いてるんですか?」

「はい……」


 電気は消え、人の気配が二つ、準備中かと思えば……。


「開いてるそうです」

「憤慨なの」

「まずは私達が聞きますのデ、どうかオ鎮め下さイ」

「まずは話を聞いてあげるの」


 開いてるそうなので、入りましょう。カルラさんが怒らないような言い訳してくださいよ……。皇国とはまだ国交を結び始めたばかり、将来の皇になるかもしれないカルラさんの機嫌を損ねては、将来に響きます。



 灯りすらつけてないのは、どういった理由があってのことでしょう。二人しか居ない理由、マリスタザリアの放置、どれも問題しかありません。


「ごめんください」

「あー? 何だよ……」


 寝起き、ですね。寝癖もそうですけど、目やにまで……人前に出て良い格好とは言えません。


「うお……四姉妹……?」


 どんな思考をすれば、私達が姉妹に見えるんでしょう。


「悪い気はしませン」

「わらわが三女なの」


 思った以上にノリの良い皇姫様です。シーアさんに似たタイプと思ってましたけど、確信ですね。


「私の方が三女でハ……」

「こう見えて十四なの」

「……」

「シーアさんが末っ子だね」


 カルラさんはシーアさんより年下に見えました。


「私達は選任冒険者です」

「選任……?」


 証明を提示しましょう。証拠を見せた方が楽です。


「わらわは皇国の皇姫なの」

「は、あ……?」


 職員の方は皇姫という事に驚いてます。でも私達は、カルラさんが王国の言葉を話せることに驚きました。


「王国語出来たのですネ」

「皇姫の嗜みなの。共和国語と連合語も出来るの。レティシアも出来るはずなの」

「私は立場上多くの言葉を知る必要があったのでス」

「情報部所属なのも知ってるの」

「皇国の諜報機関も侮れませんネ……」

「そんな事言いつつ共和国もすごいの」

 

 こんな風に、クラウちゃんとも仲良くなったんでしょうね。話しているうちにどんどんお互いを知っていくんです。お互いの立場とか、近い部分があると、もっともっと早く深く知れていく。微笑ましい光景であり、懐かしい光景です。アリスさんと私も、そうやって深めていったんでしたね。


「アルレスィアとリツカの視線が気になるの」

「姉ですかラ」

「怒る時間が勿体無いの。姉の事をもっと知る必要があるの」

「こちらの用事も殆ど終わったようなものでス」


 シーアさんも、こういった出会いに楽しみを得て、心の安らぎが出来れば良いのですけれど。と……それよりも、シーアさんとカルラさんに組まれると、いくら私達といえども苦戦を強いられます。というより、私はシーアさんに勝てた事が殆どありません。


「ご……ごッご用件は……何、でしょう」


 せっかく和んでいた私達に水を差すように、組合職員が声をかけてきました。シーアさんではありませんけど、空気を読んで欲しいものです。


「マリスタザリア、化け物が町の近くに出ていました。何故対応しなかったのですか」

「……は? 何でそんな事をしなくちゃいけないんですか」


 本当に、ただただ疑問といった声を上げます。何が疑問なのでしょう。簡単な事でしょう……。


「冒険者でしょう」

「王都ではそうなんですか……でもここはエアラゲですから」


 エアラゲは、マリスタザリアを放って置くんですか……? 開き直ったような声音が私をイラつかせます。


 チリチリと、魔力が溢れそうになります。怒ってはいけないと思っているのに……っ。


「理由を尋ねてもよろしいですか。何故ここは閉め切られ、マリスタザリアの対応を怠っても良いのですか」

「今日貴族様が来てないからですが」


 シーアさんの考えは大当たりです。今の一言が全てを物語っています。


「冒険者は基本税金で成り立っているはずでス」

「ここは貴族が出資してますが……」

「それは冒険者って言いませんネ。施設護衛団でス」

「それで構わないのでは? 貴族以外守ってませんから」


 ただの護衛に求めてはいけません。ここは冒険者組合ですけど、冒険者はいませんでした。ならば、もう用はありません。当初の予定通り、浄化後離脱します。


 冒険者もどきに聞く話はありませんし、感知に移りましょう。中心からは外れてますけど、ここで一旦広域をしますか。広いですし、二回か三回必要です。


「リッカさま。一度外に出ませんか?」

「そうだね。外の空気が吸いたいかも」


 シーアさん達に声をかけようとチラとみると、仲良く会話しています。内容は任務というか、カルラさんの目的についてみたいですけど。


「ずっと旅をしてたの?」

「はイ。王都からずっと北上してきましタ。北部の町を一つずつでス」

「じゃあ、妹を見てないか思い出して欲しいの」

「カルラさんと似てますカ?」

「似てるの」

「見てたら忘れないのデ、見てないはずでス」

「そうなの……じゃあもっと北なの」

「王国北部に居るんですカ? 共和国の方でも追ってますけド、手掛かりすら掴めてませン」

「こっちも似たようなものなの。ただ、妹は寒いところじゃないと駄目なの」


 シーアさんとカルラさんは妹さんの捜索について話しています。どうやら、国際問題一歩手前の状態みたいです。この国で、皇国の皇姫を行方不明のままには出来ません。


 元老院の所為で、私達はシーアさん誘拐という事になっています。言ってしまえば、王国領内に住んでいる私達が、共和国の王族を攫っているという状況。共和国との間に亀裂が走りかけています。皇国ともめるわけにはいきません。その隙間を連合が狙っています。



「ここで護衛が買えるんだな?」

「はっ。しかしヒスキ様の護衛は我々だけで」

「この国の人間が俺を守りきれなければ、それは問題になるだろう?」

「確かに……流石はヒスキ様。ヒスキ様の深謀には感服するばかりでございます」

「ガハハハッ! 褒めるな褒めるな」


 また、問題発言を吐きながら現れた人たちが居ます。次から次へと……。大男、これまた異国の者。まるで、バイキングですね。


「下品な男たちなの」

「あの言葉、連合でス」

「え?」

「あの服装には見覚えがあります。連合北部の豪族です」


 皇姫様もそうでしたけど、連合でも服装で分かる事があるようです。そして、豪族……こちらもまた、権力を持った人ですか。連合の権力者となると、良いイメージがありません。イメージで対応を変えてはいけません。まずは、平常心。


「む?」


 こちらに気付きました。視線はシーアさん、私、アリスさん、カルラさんの順に巡っていきました。粘っこい、気持ちの悪い視線。


「貴様」


 明らかにカルラさんを指しています。


「反応したくないの」

「反応しなくて良イのですヨ」

「貴様だ。黒髪の」


 指すだけではなく、ずかずかと近寄ってきました。カルラさんはその男の、腰程しか身長がありません。私達でも鳩尾くらいです。


「俺と共に来い。贅沢をさせてやろう」


 連合の言葉でまくしたてます。私達全員、連合語が出来るので良いのですけど、どうやってここまで来たのでしょう。王国語が出来なければ旅行なんて出来ません。


「お前も悪くない」

「……」


 あぁ、アリスさんにまで声をかけてきました。私は今、非常に……不安定です。それ以上言うと私は、キレます。


「給仕くらいには」


 私は刀をいつの間にか抜いていました。そして魔力を迸らせ、アリスさんと男の間に――立ったのです。


「リッカさま」

「……」


 動く気はありません。でも、殺気を抑える事は出来ません。絶対に触れさせない。アリスさんを、こんな野蛮人の視線に曝させたりしない。


「何だ貴様。俺が誰か分かってやっているのか」


 会話する気もありません。カルラさんとシーアさんも、私の後ろに行ってもらいます。シーアさんに視線を向ければ、シーアさんはカルラさんの手を握り行動に移してくれました。


 この狼は、近づけさせません。国際問題……? あちらから仕掛けてきた事です。話すことすら出来ない程に、恐怖を植えつけて差し上げます。


「ごめん。アリスさん、シーアさん」

「リッカさま……」


 いつかは、こんな男が出るだろうと思っていました。


「天使の顔して、何て強い殺気なの」

「これでも抑えてますヨ」


 だから、躊躇なく対応する。


「止まらないから」


 この男が許しを乞おうとも。



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