『エアラゲ』国際交流④
「この場所の冒険者が怠慢なの」
「私達も、その事を確認に来たのです」
「開かないの」
組合の前でずっと、五分くらい会話をしていたのですけど……開きませんね。
「すみません」
「は、はい!」
「ここって冒険者組合ですよね」
「はい!」
「開かないんですけど、いつ頃開くんでしょう」
通行人の中に、私達を見ていた人が居たので尋ねてみます。
「そそそ、それは、入っていけば応対してくれますよ……?」
「開いてるんですか?」
「はい……」
電気は消え、人の気配が二つ、準備中かと思えば……。
「開いてるそうです」
「憤慨なの」
「まずは私達が聞きますのデ、どうかオ鎮め下さイ」
「まずは話を聞いてあげるの」
開いてるそうなので、入りましょう。カルラさんが怒らないような言い訳してくださいよ……。皇国とはまだ国交を結び始めたばかり、将来の皇になるかもしれないカルラさんの機嫌を損ねては、将来に響きます。
灯りすらつけてないのは、どういった理由があってのことでしょう。二人しか居ない理由、マリスタザリアの放置、どれも問題しかありません。
「ごめんください」
「あー? 何だよ……」
寝起き、ですね。寝癖もそうですけど、目やにまで……人前に出て良い格好とは言えません。
「うお……四姉妹……?」
どんな思考をすれば、私達が姉妹に見えるんでしょう。
「悪い気はしませン」
「わらわが三女なの」
思った以上にノリの良い皇姫様です。シーアさんに似たタイプと思ってましたけど、確信ですね。
「私の方が三女でハ……」
「こう見えて十四なの」
「……」
「シーアさんが末っ子だね」
カルラさんはシーアさんより年下に見えました。
「私達は選任冒険者です」
「選任……?」
証明を提示しましょう。証拠を見せた方が楽です。
「わらわは皇国の皇姫なの」
「は、あ……?」
職員の方は皇姫という事に驚いてます。でも私達は、カルラさんが王国の言葉を話せることに驚きました。
「王国語出来たのですネ」
「皇姫の嗜みなの。共和国語と連合語も出来るの。レティシアも出来るはずなの」
「私は立場上多くの言葉を知る必要があったのでス」
「情報部所属なのも知ってるの」
「皇国の諜報機関も侮れませんネ……」
「そんな事言いつつ共和国もすごいの」
こんな風に、クラウちゃんとも仲良くなったんでしょうね。話しているうちにどんどんお互いを知っていくんです。お互いの立場とか、近い部分があると、もっともっと早く深く知れていく。微笑ましい光景であり、懐かしい光景です。アリスさんと私も、そうやって深めていったんでしたね。
「アルレスィアとリツカの視線が気になるの」
「姉ですかラ」
「怒る時間が勿体無いの。姉の事をもっと知る必要があるの」
「こちらの用事も殆ど終わったようなものでス」
シーアさんも、こういった出会いに楽しみを得て、心の安らぎが出来れば良いのですけれど。と……それよりも、シーアさんとカルラさんに組まれると、いくら私達といえども苦戦を強いられます。というより、私はシーアさんに勝てた事が殆どありません。
「ご……ごッご用件は……何、でしょう」
せっかく和んでいた私達に水を差すように、組合職員が声をかけてきました。シーアさんではありませんけど、空気を読んで欲しいものです。
「マリスタザリア、化け物が町の近くに出ていました。何故対応しなかったのですか」
「……は? 何でそんな事をしなくちゃいけないんですか」
本当に、ただただ疑問といった声を上げます。何が疑問なのでしょう。簡単な事でしょう……。
「冒険者でしょう」
「王都ではそうなんですか……でもここはエアラゲですから」
エアラゲは、マリスタザリアを放って置くんですか……? 開き直ったような声音が私をイラつかせます。
チリチリと、魔力が溢れそうになります。怒ってはいけないと思っているのに……っ。
「理由を尋ねてもよろしいですか。何故ここは閉め切られ、マリスタザリアの対応を怠っても良いのですか」
「今日貴族様が来てないからですが」
シーアさんの考えは大当たりです。今の一言が全てを物語っています。
「冒険者は基本税金で成り立っているはずでス」
「ここは貴族が出資してますが……」
「それは冒険者って言いませんネ。施設護衛団でス」
「それで構わないのでは? 貴族以外守ってませんから」
ただの護衛に求めてはいけません。ここは冒険者組合ですけど、冒険者はいませんでした。ならば、もう用はありません。当初の予定通り、浄化後離脱します。
冒険者もどきに聞く話はありませんし、感知に移りましょう。中心からは外れてますけど、ここで一旦広域をしますか。広いですし、二回か三回必要です。
「リッカさま。一度外に出ませんか?」
「そうだね。外の空気が吸いたいかも」
シーアさん達に声をかけようとチラとみると、仲良く会話しています。内容は任務というか、カルラさんの目的についてみたいですけど。
「ずっと旅をしてたの?」
「はイ。王都からずっと北上してきましタ。北部の町を一つずつでス」
「じゃあ、妹を見てないか思い出して欲しいの」
「カルラさんと似てますカ?」
「似てるの」
「見てたら忘れないのデ、見てないはずでス」
「そうなの……じゃあもっと北なの」
「王国北部に居るんですカ? 共和国の方でも追ってますけド、手掛かりすら掴めてませン」
「こっちも似たようなものなの。ただ、妹は寒いところじゃないと駄目なの」
シーアさんとカルラさんは妹さんの捜索について話しています。どうやら、国際問題一歩手前の状態みたいです。この国で、皇国の皇姫を行方不明のままには出来ません。
元老院の所為で、私達はシーアさん誘拐という事になっています。言ってしまえば、王国領内に住んでいる私達が、共和国の王族を攫っているという状況。共和国との間に亀裂が走りかけています。皇国ともめるわけにはいきません。その隙間を連合が狙っています。
「ここで護衛が買えるんだな?」
「はっ。しかしヒスキ様の護衛は我々だけで」
「この国の人間が俺を守りきれなければ、それは問題になるだろう?」
「確かに……流石はヒスキ様。ヒスキ様の深謀には感服するばかりでございます」
「ガハハハッ! 褒めるな褒めるな」
また、問題発言を吐きながら現れた人たちが居ます。次から次へと……。大男、これまた異国の者。まるで、バイキングですね。
「下品な男たちなの」
「あの言葉、連合でス」
「え?」
「あの服装には見覚えがあります。連合北部の豪族です」
皇姫様もそうでしたけど、連合でも服装で分かる事があるようです。そして、豪族……こちらもまた、権力を持った人ですか。連合の権力者となると、良いイメージがありません。イメージで対応を変えてはいけません。まずは、平常心。
「む?」
こちらに気付きました。視線はシーアさん、私、アリスさん、カルラさんの順に巡っていきました。粘っこい、気持ちの悪い視線。
「貴様」
明らかにカルラさんを指しています。
「反応したくないの」
「反応しなくて良イのですヨ」
「貴様だ。黒髪の」
指すだけではなく、ずかずかと近寄ってきました。カルラさんはその男の、腰程しか身長がありません。私達でも鳩尾くらいです。
「俺と共に来い。贅沢をさせてやろう」
連合の言葉でまくしたてます。私達全員、連合語が出来るので良いのですけど、どうやってここまで来たのでしょう。王国語が出来なければ旅行なんて出来ません。
「お前も悪くない」
「……」
あぁ、アリスさんにまで声をかけてきました。私は今、非常に……不安定です。それ以上言うと私は、キレます。
「給仕くらいには」
私は刀をいつの間にか抜いていました。そして魔力を迸らせ、アリスさんと男の間に――立ったのです。
「リッカさま」
「……」
動く気はありません。でも、殺気を抑える事は出来ません。絶対に触れさせない。アリスさんを、こんな野蛮人の視線に曝させたりしない。
「何だ貴様。俺が誰か分かってやっているのか」
会話する気もありません。カルラさんとシーアさんも、私の後ろに行ってもらいます。シーアさんに視線を向ければ、シーアさんはカルラさんの手を握り行動に移してくれました。
この狼は、近づけさせません。国際問題……? あちらから仕掛けてきた事です。話すことすら出来ない程に、恐怖を植えつけて差し上げます。
「ごめん。アリスさん、シーアさん」
「リッカさま……」
いつかは、こんな男が出るだろうと思っていました。
「天使の顔して、何て強い殺気なの」
「これでも抑えてますヨ」
だから、躊躇なく対応する。
「止まらないから」
この男が許しを乞おうとも。