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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『エアラゲ』国際交流③



「先行っちまいやがった……」


 まさか行かないだろうな。そう思っていたウィンツェッツが見たのは、走り去る船だった。


(町は目と鼻の先、俺が迷う事ぁねぇが)


 気だるそうに刀を鞘に戻し、肩を叩く。盛大にため息をつき、マリスタザリアの死体を一瞥する。


「面倒な事に、代わりは無ぇな」

(それにしても、冒険者が来ねぇな。居るんじゃなかったんか)


 歩を進めながら、ウィンツェッツは余りにも静かな町を見る。本当に人が住んでいるかすら怪しい程に静寂に包まれている。船が到着し、しばらくすると町に気配と賑わいが出てきた。丁度町の動き出す時間だったのだろう。


(まさか、今の今まで寝てたなんて事ぁねぇよな)


 呆れた顔をしたウィンツェッツの気も知らず、町の賑わいは加熱していった。



 十数分歩いて、漸く町についたウィンツェッツ。賑わいを観察しながら、アルレスィア達を探す。一番の賑わいを起こしているから、誰でも分かる。


(あそこか。冒険者組合って事ぁ……また面倒事を起こしてんじゃねぇだろうな)


 出来るだけ解決したいのは分かるが、目的を忘れているのではないかと思える程にリツカが精力的すぎるのだ。


「あ……?」


 一際人垣が厚い冒険者組合。外側はざわめいているけれど、内側に行く程に静まり返り、緊張感が増していく。


(またかよ)


 レティシアを見つけ、近づいていく。ウィンツェッツに気付いたレティシアが肩を竦め、首を横に振る。仕方ないといった表情だ。


「またか」

「いエ、仕方ないんですヨ。今回は人助けとかじゃないんでス」

「あん?」


 レティシアは呆れているというよりも、同情の方が強く出ている。誰への同情か。ウィンツェッツは改めて”巫女”二人を見る。リツカはアルレスィアを庇うように後ろに置き、誰もが分かるほどの殺気を滲ませ、すでに――魔力を迸らせていた。


「おいおい……」


 リツカが人相手に、ここまで殺気を出す。しかも、誰でも気づくような殺気を。相手は誰だ、とウィンツェッツが見ると、見るからに軽薄そうな大男が立っていた――。



 

 ウィンツェッツが冒険者組合に到着する十数分前、リツカ達は町に降り立った。


 この町は、この静けさが普通なのかと思ってました。でも、どうやら違うみたいです。今からこの町が始まるようですね。ざわめきが大きくなってきました。


「観光地って、こんな感じなのかな」

「保養地の面が今は大きいようですね」

「今日は元貴族が来ないんでしょうネ」


 貴族が居ないって事で、シーアさんは嬉しそうです。皆が皆悪い人ではないと思うのですけど、私達が出会った貴族といえば……エッボだけ。正直、シーアさんが嫌う理由も分かるかなって。


「貴族の保養地って事だけど、そんなに優先するのかな」

「この町は昔から貴族のお陰でなりたってますかラ」

「今でもですか?」

「はイ。王都から遠いのでまだ力があるんですヨ」


 力とはお金です。一般観光客相手ではやる気になれない? そんな事はないと思いますけど……。観光地って面より、保養地の面が強い。観光客が減っているのはお客を選別し始めたから?


「リッカさま。気にしすぎるのは止めましょう」

「そう、だね。私達が首を突っ込むところじゃないね」

「組合はあっちみたいでス」


 シーアさんが指差した方には確かに組合があります。閉まってますけどね。


「おや……エンリケ(あに)様。本当にここが組合なの?」

「はい。間違いないはずですが」

「閉まってるの」

「はい」

「はいじゃないの」


 異国の方でしょうか。着物……よりは、カジュアルですけど……似てる? 下駄のようなものを履いています。カランコロンと小気味良い音がしています。


「あの言葉は……」

「間違いありませン」


 私は、神さま翻訳なので……それが何の言語なのかは分かりません。でも、アリスさんとシーアさんが驚く程の言葉を話しているようです。


「皇国の言葉です」

「それだけでなク、あの服を着れるのは皇姫だけでス」


 シーアさんが嘘で使った皇姫……。まさか本当に、この国に入ってるなんて。


「見つけてしまってハ、無視出来ませんネ」

「声かける?」

「お姉ちゃんの妹として皇姫への挨拶は欠かせませン」

(行方不明の皇姫の事も、聞けるなら聞きたいですし)


 私達も、挨拶した方が良いのでしょうか。


「この国は怠惰なの」

「カルラ……」

「本当の事を言って悪い事はないの」


 耳が痛いです。


「申し訳ござイませン」


 更に訛りがついたシーアさん。それでも、皇国語も出来るんですね。


「おや、何用なの?」

「皇国の皇姫様とオ見受けしまス」

「分かるの?」

「はイ。私はフランジール共和国、エルヴィエール・フラン・ペルティエが妹。レティシア・エム・クラフトでス。お初にお目にかかりまス」


 シーアさんが最敬礼を行います。私達も、続いて下げました。自己紹介は、求められてからにします。


「その名前、知ってるの」

「魔女と呼ばれる……」


 女性と男性です。どちらも黒髪。女性の方は、和風美人です。黒い髪を三つ編にし、肩口から前へと流しています。大きな目と瞳。金春色の爽やかな青です。動いてなかったら、お人形だと思った事でしょう。


 扇子のような物で口を隠しながら、しなを作ってます。きらびやか、ですね。撫で肩で、ゆったりとした動きです。普通であれば気だるそうに見えるその所作が、この方にかかれば能のような雅趣さを彷彿とさせます。


「わらわはカルラ。第六十五位の皇姫なの」

「エンリケです。……第」

「兄様」

「ッ」


 兄様という事は、兄妹なのでしょう。であれば、エンリケ、様? は、皇子のはず。なぜ、止められたのでしょう。


「レティシア姫。そちらの方達の紹介をしてほしいの」

「姫ではなク、呼び捨てで構イませン。私に継承権はありませんのデ」

「なの? エルヴィエール陛下はレティシア姫の事を気に入ってると聞いてるの。姫って呼ぶのが礼儀なの」

(調べきってるという事ですネ)


 姫と呼ばれるのが恥ずかしいようです。それにしても、向こうの諜報部もしっかり機能しているようです。シーアさんの警戒レベルが上がりました。


「こちらハ」


 シーアさんが迷ってます。先程の警戒のまま、偽名を告げようとしているのかもしれません。


「お目にかかれて光栄です。カルラ姫。私達は”巫女”。アルレスィア・ソレ・クレイドルと」

「六花立花です」


 シーアさんが偽名を告げる前に、”巫女”と名乗ります。


「……本物なの。綺麗。カルメが見たら狂いそうなの」

「……」

「兄様見すぎなの。失礼にも程があるの。しばらく離れてて欲しいの」

「し、しかし」

「くどいの。見たいだけの人間はさっさと行くの。欲情なんてされたら国際問題なの」


 エンリケ様が、遠くに押しやられました。扱いが、雑なのですけど……良いのでしょうか。


「よろしいのですか?」

「構わないの。王位継承権を剥奪された唯一の負け犬なの」

「何ですト」


 シーアさんが目を丸くしています。


「そんなに……?」

「皇家の継承制度に剥奪なんてありませン」

「そうなの。面汚しすぎて妹が出て行ったの」

「んンっ!?」


 先程から、シーアさんの様子がおかしいです。


(妹とは……行方不明の、皇姫ですよね……? その身内まで密入国をしたのでしょうか……)

「し……失礼ですけド、入国許可証はありますカ」

「あるの。あ、でも」


 許可証を出しながら、カルラ姫が告げました。


「妹はもってないの」

「やっぱりそうなんですネ……」


 肩を落としたシーアさんが許可証の確認をしています。シーアさんが疲れてます。破天荒な皇姫様みたいですね……。


「そうそう」


 破天荒ついでに、カルラ姫は更に発言します。シーアさんはもう、疲れきってるので……一度止まって欲しいと思ってしまいます。


「カルラで良いの」

「そ、それは……」

「”巫女”に国境はないの。レティシア姫は同格なの」


 シーアさんやエルさん、コルメンスさんと普通に話しているのです。カルラ姫とも普通で良いのかも知れません。でも……敬称略は難しいです。


「せめテ、さん付けを許して欲しいでス」

「それくらいなら許すの。わらわは省略するの」

「ありがとうござイまス」


 シーアさんがたじたじ。パワーがあります。私達も、押されそうなほどに。


「アルレスィアとロクハナも良いの?」

「はい。カルラさん」

「私の名前はリツカなので、そちらで」

「分かったの」


 私達とシーアさんで、精神的疲労に差が出ているのも無理はありません。シーアさんはエルさんの品位も背負っています。妹であるシーアさんが失礼を働けば、エルさんにまで波及します。


「三人に聞きたいの」

「はイ。何なりト」

「この国に冒険者って居ると思うの」


 言いたい事は、先程エンリケ様との会話で掴んでいます。


「皆ここみたいに怠惰なの?」

「いえ、私達も選任冒険者ですけれど……」

「ここでは、何かが違うようです」

「冒険者なの? ”巫女”と王族がやる職業じゃないと思うの」


 ここまで直接的に疑問を持たれたのは初でしょう。確かに、王族と”巫女”が冒険者をするのは、イメージに合いませんね。


「でも、仕方ないの。わらわは戦う魔法がないの」

「もしかして、町の外に居たマリスタザリアですか?」

「そういえば、この国ではマリスタザリアって呼ぶの。知ってるって事は見たの?」

「仲間の一人が倒しました。今こちらに向かっています」

「そうなの? じゃあ安心なの」


 口頭だけの討伐報告。信じてもらえて嬉しいと思いますけれど、そんな簡単に信じて良いのでしょうか。



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