表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
592/934

『エアラゲ』国際交流



「やけに気に入ってたな」


 レイメイさんが、シーアさんに尋ねています。クラウちゃんと仲良くなったシーアさんが気になるようです。


「同い年の子デ、私としっかり話せる人なんてそう居ませんかラ」

「あん?」

「魔法の事をちょっと話したラ、話にしっかりと付いてきましタ。学者がクラウちゃんを優秀と言ってましたけド、なるほどって思いましたネ」

 

 シーアさんなら相手に合わせて会話する事が可能です。勉強を途中で諦めた私より、ずっと勉強も出来ます。才能や賢さだけでなく、努力も欠かさない。そんなシーアさんだからこそ、心置きなく会話出来る相手というのは限られてきます。アリスさん、エルさんやエリスさんといった人たちです。同年代には、そうは居ません。


 だから仲良くなれた、という訳ではありません。どこか通じる所があったのは確かでしょう。でも、シーアさんの表情を見れば一目瞭然です。どう見ても照れ隠し。単純に意気投合したで良いのですけど、シーアさんも年頃なのでしょう。理由がないのに友達になれたという、子供らしい理由を話すのが恥ずかしいのです。何より、レイメイさんはそれをネタに弄るかもしれないという思いもあるのでしょう。


(普段自分が大いに弄るから)

(人の弄りに敏感になってしまってますね)


 アリスさんと私がシーアさんの心情を話し合っていると、シーアさんがむすっとした顔で私達を見てました。


「巫女さんとリツカお姉さんの表情ガ、お姉ちゃんにそっくりでス」

「うん?」

「生暖かい感じでス」


 視線に気付かれてしまいました。実際生暖かく見ています。


(お二人には本当の理由は分かってるでしょうけド、サボリさんにバレなければ良いんでス)

「何だ。てっきり理由なんざねぇと思ったが」

(バレかけですネ。リツカお姉さんの訓練の賜物なんでしょうけド、今は余計でス)

「そういや、他のガキとは仲良くならんかったんか」

(自分から話を逸らすとハ。そこからボロが出ると思ってるのでしょうカ)


 そんなに警戒しなくても、と思ってしまいます。最初こそ弄ろうとしていたようですけど、最後の疑問に気が向いて、普通の質問になってます。このままだと、シーアさんが勝手に疲れてしまいますね。微笑ましい、本気の照れ隠しです。


「無理ですヨ。お馬鹿を爆破した私と仲良くなんてなれません」

「あぁ、そういやそうか」

「一番嫌われてるの私ですヨ。お馬鹿に思い入れがないクラウちゃんだけとは仲良くなれましたけどネ」

 

 シーアさんとレイメイさんが、よく分からない攻防を繰り広げています。シーアさんが一方的に警戒してるみたいですけど。


 このまま、オルデクの余韻に浸るのも悪くはありません。でも、次に意識を向けてもらわないと。


「次はエアラゲで良いんだよね。キールはその次?」

「あ? キールはエアラゲの上だ」

「エアラゲは四、五キロ先でス。特に何があるという訳でもありませんシ、浄化後すぐに出ても良いかもしれませんネ」


 観光地という事ですけど、私達は観光しているわけではありません。ならば、浄化という第一目的を達成したら、次に向かうべきでしょう。


 魔王には確実に近づいているという確信は持っています。魔王軍からの攻撃が激しくなったのが、証拠になるんじゃないかと思っています。


「町を見てからで良いかと」


 どこにでも、何かが起きています。そしてその解決が滞っている状況。エアラゲには冒険者が居るとはいえ、王都とは違います。近場で頼れるはずのオルデクの住民が渋るくらいなのです。値段設定もそうですけど、何かがあるのでしょう。例えば、値段の割りに働かない、とか。


「余り首を突っ込みすぎるのはって思ってたんですけどネ。オルデクの様に巫女さん達必須の事件とかあるかもしれませんシ」

「お前等が要らねぇ事件なら、もう首を突っ込むのはやめろよ」

「それを判断するには、首を突っ込まないといけないんですけど」


 私達が要るかどうか。それは、悪意が関わっているかどうかです。でもそれを知るには、首を突っ込むしかありません。


 レイメイさんが愚痴のように言うのも無理はありません。私達の最終目標は魔王。なのに、時間がかかりすぎています。レイメイさんも、町が平和になる方が良いに決まっています。でも、目的を忘れるなという話なのです。


「とりあえズ、ご飯にしませんカ」

「そうですね。すぐに作ってきます。サンドイッチで良いですか?」

「お願いしまス」


 軽い物が良いですね。運転しながら食べられますし。


「私も作ろうかな」

「それでしたら、リッカさまはあれを作ってみませんか?」

「じゃあ、あのお米が良いかな。一番似てるから。後は、ブフぉルムで買った乾物と、魚、そぼろ?」


 具材は豊富の方が良いでしょう。味変は大事です。


「アレ、ですカ?」

「口に合うか分からないけど」


 話した事があるだけで、アリスさんにも食べさせた事はありません。お米は食べるようですから、大丈夫とは思います。



 調理場に移動して、お米を炊きます。ふっくら仕上げるには、はじめちょろちょろ? 炊飯器はありませんし、釜もありません。ディッシュ用の物があるだけ。釜炊きの知識が役立つか分かりません。この世界では、炊くというより煮るのです。パエリアが近いのでしょうか。


 それでは、おにぎりは作れません。


(ブフぉルムの時は、アリスさんが炊いててくれたもんね)

「ちょっと失敗するかも……」

「ふふ。ご安心を。炊き上げは同じですよ。お鍋はこちらを使ってください」

「ありがとう。じゃあ、頑張るね」

「はいっ」


 しっかりと作れそうですね。後は私がちゃんと作れるかです。はじめちょろちょろ、ちょろ……中パッパ、赤子鳴いても蓋取るな。ですね。よし……頑張るっ。


「それでは、調理開始、です」

「はーい」


 アリスさんにおいしいって言って貰いたいです。食は喜び。美味しい物を食べて、笑顔になるのが一番の健康ですから。


 鰹? いえ、これは……あご。とびうおです。あご節でおにぎりっておいしいのでしょうか。挑戦……? まずは味を見ましょう。この削り節を、これまたブフぉルムで買った醤油もどきで味付けします。


 味は……醤油は少しでいいですね。あごの風味すごいです。これはおいしいおにぎりが出来そうです。


 魚もそぼろも、これは普通に作れますね。味付けは濃く――って、あごもそうしたほうが良いですね。ご飯に包んでも負けない味付けをしなければいけないのです。


 どれも同じ醤油では味気ないです。魚は、タルタルにしてみましょう。そぼろは、サルサを試してみても良いかもしれません。確か、タコライスというのがあるらしいです。タコスとご飯の融合。食べた事はありませんけど、味見をしっかりして、調味します。


「ん」


 思わず唸ってしまいます。中々良い味付けを見つけました。


「良い物が出来ましたか?」

「結構自信あるかも?」

「ふふ。楽しみです」


 丁度お米も炊けたようです。蒸らして、握ってみましょう。しっかりと手を洗って、と。素手で良いのでしょうか。ビニール手袋なんてものはありませんし、仕方ありません。


「どうやって握るのですか?」

「えっと、手をちょっと湿らせて、塩を少量。お米を乗っけて、真ん中凹ませて、具材を入れてっと」


 後は三角形になるようにぎゅっぱ、ぎゅっぱと。回しながら握っていけば、完成です。


「海苔があれば、それを巻くんだけど」


 残念ながら、海苔はありません。


「食べてみても良いですか?」

「うんっ」

「では、あーん」


 箸を持とうとした私を、アリスさんが止めました。


「お願いを、使います。手でお願いしますっ」

「一日一回のお願いを使わなくても、普通のお願いで――」

「い、いえ。お願いを使いますっ」

「そう?」


 もったいない気がしますけど、アリスさんがそういうのなら。


「一番最初に、欲しいのです」

「私も、アリスさんに食べて欲しかった」

「はい……。こほんっ。あーん」


 頬を染めたアリスさんが、おにぎりが入る様に大きめに口を空けて待っています。早く口元に運んで食べさせてあげないといけないのに、私は……不覚にも、見惚れてしまいました。


「あーん」


 頭を数度振り、邪念を振り払います。私の病気は治る気配がありません。それで良いと思っている()が居る限り、無理なのでしょうけど。

 そんな事より、アリスさんの口に、おにぎりを運びます。

 

「はむっ」


 珍しく、大きな一口でおにぎりを食べました。具材に到達するには、それくらい必要とはいえ、いつものアリスさんならこんなに一口で食べません。具材をもっと、満遍なく入れたほうが良いですね。


「もぐ、むぐ」

「……」


 口に手を当て、味わって食べてくれています。私はじっと、それを眺めています。


 アリスさんが食べたのは、スタンダードのおかか、あごバージョン。私の国では芳醇、濃厚な香りと味わいですけれど、外国の人は嫌う人も居ると聞いています。松茸……あれが外国では、軍人の靴下の臭いと言われていて吃驚しました。あごも、独特といえば独特です。似た様な反応を見せるかもしれません。


 こちらの世界で、受け入れられるでしょうか。皇国の料理であるあご。癖がありますから……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ