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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『オルデク』天使様



 岩を十字架と丸型に分けてカット。丸型の方にアリスさんが紋章を描いて、私が彫る。彫る順序を頭に思い浮かべ、その通りに体を動かします。流れで、一度の始動で全てを彫りきる。アリスさんが描いた物を正確になぞるだけ。アリスさんに導かれるように私の体は動きます。


「もう出来たの?」

「私が今出来る最高の彫刻です」


 墓石なのですから、大理石とかの方が良いのでしょう。それでも、十年くらいは持つんじゃないかと。


「それでは運びまス。十字架の後ろに丸型を置けば良いんですよネ」

「はい。場所はどうしますか?」

「えっと、やっぱり先生の家の裏が……」


 子供達はあそこで眠っていますし、下手に動かさない方が良いと思っていました。子供達も、動かしたくないみたいです。


「簡易的なものだから、皆が自分で作れるようになったら皆の手で作ってあげてね」

「巫女様達が作ってくれたものですから、このままで良いです。その方が、アルツィア様の所に行けそうだから……」

「そっか。じゃあ、屋根とか作ってくれると嬉しいな。雨とか降ると、岩が削れちゃうから、ね」

「はい……!」


 お墓を作り、子供達と一緒に一時的な屋根を作ります。後は、アリスさんの祈りで、鎮魂を。


「神の愛を受けし者達よ」


 アリスさんの祈りを静かに聞きます。高く昇る魂。どうか――安らかに。




「僕達は、もうちょっとここに居ます」

「私はこの子達に付き添っています。巫女様方、ありがとうございました!」


 子供達とエーフぃさんが下衆宅に残って、お墓参りするようです。念のため、広域感知しておきましょう。こちらに意識を向けている目がないか、悪意はないか。


「それじゃ、私達は巫女様達のお見送りをするわ。後でね」

「はい」

「エーフぃさん。子供達をお願いします」

「お任せ下さい!」


 そろそろ出発です。私達は船に戻ります。



 船に乗る前に、改めてドリスさん達にお見送りの言葉を貰いました。


「また来て頂戴。次は成人してからね。お酒を用意しておくわ」

「分かりま」

「いえ、リッカさまは飲んではいけません」

「辞めた方が良いでス」

「あぁ、そういや弱かったな。絶望的に」


 大人になれば分かりません。もしかしたら強くなるかもしれないのです。お母さんは酔うと面倒ですけど、おいしいって言ってました。味が分かるようになったら飲んでみたいものです。


「少しもダメなの?」

「ダメです」

「そう、残念……」

 

 隠れて飲むなんてしたくありませんし、諦めるしかなさそうです。そんなに酷かったのでしょうか、舞踏会で飲んだ時は。アリスさんは絶対に許してくれそうもありません。


「ドリスさん。次巫女様達は、私の店に来て貰いたいんですけど」

「ごめんなさいね。私が先に約束しちゃった」

「えー……」


 カミラさんとドリスさんが取り合ってます。どちらにしろ、奥の部屋以外はアリスさんが許してくれないです。


「また来てくれるんですか?」


 クラウちゃんが目をきらきらとさせています。こうなると、頑張ってまた来たいと思ってしまいますね。


「用事を済ませて、帰り道に通る機会があったらかな?」

「北西からですと、ここも通る可能性はあると思います」


 魔王討伐後は、約束した凱旋を残すだけになります。真っ直ぐ帰るのもアリですけど、お世話になった人たちに会うのは良案ですね。


「ア、でも一度共和国に行ってもらいますヨ。お姉ちゃんもそれを望んでるでしょうしネ」


 どうやら、魔王討伐後真っ先に行くのは共和国みたいです。雪が見れそうですね。シーアさんの案内も受けたいですし。共和国の街並みにも興味があります。雪国となると、かまくら?


「エルさんと一緒だと、来辛いかも?」


 流石に、女王様と歓楽街というのは……良いのでしょうか。未成年で入った私達が言うのもなんですけど。この場面でシーアさんが言うのですから、問題ない?


「お姉ちゃんは気にしませんヨ」

「シーアちゃん、お姉ちゃんが居るの?」

「はイ。巫女様達くらい綺麗なお姉ちゃんですヨ」

「わぁ。お姫様みたいな?」

「まァ。そうですネ。お姫様でス」


 クラウちゃんになら言っても良いと思うんですけどね。本物のお姫様って。


「ねぇ。レティシアちゃんってやっぱり?」

「はい。思っている通りです」

「クラウちゃんが萎縮しないようにという配慮でしょう」


 本物のお姫様。その妹となるとちょっと固くなってしまいそうです。自然な関係で居たいんでしょう。


「また来てくれるんだよね?」

「もちろんでス。魔法を教えるっていう約束も忘れてませんヨ」

「うん!」


 カミラさんと一緒に、シーアさんとクラウちゃんの姿を暖かく見守ります。子供達が仲良くなるのは早いです。アリスさんと私が、物の数分……いえ、数秒で心を開いたように。


「約束は守りまス。私モ、巫女さん達モ」

「うん! 待ってるね! 私も頑張って魔法練習しておくから。天使様達の森にも行ってみたい!」

「それは私も行ってみたいですネ。リツカお姉さんがすっごく褒めるから気になりまス」

「天使様が? どんな風に褒めるの?」

 

 クラウちゃんがわくわくと、シーアさんに尋ねています。おや。私に飛び火が――。


「踊って歌ってくるくる回っテ」

「シ、シーアさん」

「見てみたいです! 天使様の踊り!」


 どうしよう。と、アリスさんを見ると、アリスさんも久しぶりに見たいといった表情をしています。でも止めた方が良いのでは? と迷っているような。止めてくれると嬉しいなぁって思うのです。


「クラウ。ダメよ」

「お母さん、でも」

「天使様の踊りは、そんな簡単に見れないの」

 

 助かりました。カミラさんが止めてくれました。いくら私が無我夢中になるとそういった事になるとはいえ、やって? といわれて出来る程器用ではないのです。


「お勉強を頑張って、良い子にしてたら見せてもらえるかも」

「私、頑張りますね!」

「う、うん」


 きっと、クラウちゃんは本当に頑張るのでしょう。だったら私は、その頑張りに報いなければいけません。


(オペラ、で良いんだよね)

(どちらかといえば、ミュージカルかと)

(フロンさん、ミュージカル出来るかな……)


 出来ても、教えてくれるかは微妙ですね。嫌われてますし。エレンさんなら、教えてくれるかな。


(自然体で、クラウちゃんに森の良さを教えて上げるだけで良いのですよ?)


 アリスさんがクスクスと楽しんでいます。そんなアリスさんを見ていると、私も思わずクスリと笑ってしまうのです。


(自然体、かぁ)


 難しいですね。でも、今は自然体。


(じゃあ、アリスさんも手伝ってね?)

(私も、ですか?)

(うん。二人で踊ろう? 天使様は、二人で一人なんだからねぇ)

(ぅ……。わ、分かりました。私も、覚悟しておきますっ)


 アリスさんも、人に見せるために踊るのは、まだまだ恥ずかしい様子。舞踏会の時は逃げられない状況を作られただけですからね。今回は、自分の意思で踊る事になります。


(アリスさんと一緒なら、私はアリスさんに集中出来るから恥ずかしくないよ)

(私もリッカさまと一緒なら、恥ずかしくありませんっ)


 せっかくですから、楽しみましょう。天使の踊りとして楽しんでもらえるかは分かりませんけど、見る人皆が、心躍るような踊りを披露するべきでしょう。


「天使様達楽しそう」

「お二人は目と目で会話出来ますからネ」

「すごい! どうすれば出来るのかな。私もシーアちゃんと出来る?」

「ンー。今考えてる事分かりまス?」

「んんんー……。分かんない」


 シーアちゃんとクラウちゃんは、本当に仲良くなりましたね。同じ年頃の女の子、話が会うのかもしれません。エルケちゃんとも仲良くなれそうですから、集落に来ても大丈夫そうです。


 でもその頃には、エルケちゃんは集落から出ているかも?


「おい。そろそろ行くんじゃねぇのか」


 レイメイさんが船の上から声をかけてきます。下に居ると、女性達に連れて行かれそうになって嫌だと先に登っていました。


「空気を読んでくださイ」

「もうちょっと遊びたい……」

「グ……」


 クラウちゃんが落ち込んで、俯いてしまいました。その表情を見てしまったのか、レイメイさんが罪悪感を感じています。


「私の時と反応違いませんカ」

「お前ぇは生意気すぎんだよ」


 もはやシーアさんが似たような表情をしても、レイメイさんは同じ反応を見せないでしょう。良くも悪くも、お互いを知りすぎています。でも、シーアさんもかなり――残念がってるんですよ。


「それでハ、また何れ会いましょウ」

「うん! 共和国の言葉、覚えるね!」

「私ももっと上手く話せるように頑張りまス」


 子供らしいシーアさんを見れるのは、結構貴重です。私達と居るとどうしても、”魔女”で在ろうとしますから。そして私達は、”魔女”であるシーアさんに頼ってしまう。クラウちゃんには感謝ですね。


「ありがとう。クラウちゃん」

「次会えるのを楽しみにしています。そして、森に来る際は是非、シーアさんと共に」

「はい! 天使様!」


 クラウちゃんの頭を撫で、舷梯を登ります。


「仕方ないから一緒に行ってあげまス」

「えー! 私は楽しみだよ?」

「私も楽しみですヨ」

「えへへ」


 シーアさんとクラウちゃんが握手を交わし、私達の後に続きました。


「ありがとう、皆」

「このご恩は忘れません。クラウと共に、生きます」

「ありがとうございました!」


 手を振る三人に手を振り返し、私達は船を出しました。また、会えます。皆が望んでくれたら、きっと。




ブクマありがとうございます!

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