二人で歩く世界③
A,C, 27/02/28
夢を、見ていました。
そこは、私の世界で。自然がいつもより多くて。隣には、アリスさんがいて。一緒に、アイスを食べている。
そんな、夢とすぐ分かってしまう。幸せな、夢を。
これを見続けると、私は……戻れなくなるんじゃないかと……不安になります。でも、抜け出しがたい魔力が、そこにはありました。
「リッカさまのはどんな味なのですか?」
夢の中まで、敬語なんだ。なんて考えましたけど、アリスさんの敬語以外を聞いたことがないので、しかたないかと思いました。
「んー? ソーダだね」
ほのかなさわやかさをもつ、スタンダードアイスです。
「一口、いただけませんか?」
顔を朱にそめ、アリスさんがおずおずといったようにお願いしてきます。
「はい、どうぞ」
手が震えないように、笑顔で応えます。夢の中くらい、もっとしっかり渡して欲しいと、自分ながら思ってしまうのです。
「はむ」
アリスさんが、私のアイスをそのまま口で受け止めます。
(これは、あーん。というやつでは?)
夢の中とはいえ、心臓がはねるのがわかります。
「おいしいです! ――私のもいかがですか? フルーツがたくさん入っていておいしいですよっ」
そういって、笑顔のアリスさんがアイスを差し出してくれました。これは、私もするんですよね。
「うん、ありがと」
そう言って口を近づけ――。
「はむ。んむ」
私のより少し大きいアイスの端を咥えシャクと、かじります。妙なリアリティと共に、口の中に甘さが広がりました。
「ありがとう、アリスさん」
二人で笑いあう。そんな、夢……。
「ん……むぅ……」
目が覚めると、顔を赤くして、手を胸の前で慈しむように持ち、私をあわあわと見るアリスさんと目があいました。
やっぱりアリスさんのほうが、私より早起きなのかな?
「おはよう、アリスさん」
私は挨拶をして、体を起こします。
「は、はい。リッカさまっおはようございます」
アリスさんの様子が、少しおかしいです。
「大丈夫? アリスさん。もしかして風邪とか」
初めての、集落以外での就寝。体調を崩してもおかしくありません。
「い、いえ……風邪というわけではありません。リッカさま、その、何か夢、見てましたか?」
アリスさんは大丈夫と言いますけど……今はアリスさんの言葉を信じましょう。心配はしてしまいますが……。
「何か、楽しい夢は見たような?」
あまり思い出せません。幸せだったのは覚えてますけど。
「もしかして、寝言出てた?」
もしそうなら、恥ずかしいかもしれません。
「いえ、寝言はありませんでしたよ」
アリスさんが顔を更に熱くさせ、応えます。
「そっか、それなら……よかったかな?」
寝言がなかったことに安堵しつつ、大きく伸びをします。今日は王国への道行二日目。気合を入れねば。
移動を開始し、私は昨夜を思い出します。昨夜アリスさんに、魔法の練習につきあってもらったのです。
そこで練習したのは、私の得意魔法である”強化”と、刀剣”精錬”。そして数m~十数メートル先に高速で移動するための道を作る、”疾風”です。三つだけ? と思うかもしれませんけれど、これしか出来なかったのです。
”疾風”は、アリスさんが何度か見せた、高速での移動術です。それは、この魔法を使ったからだといいます。
高速と言っていますけど、移動による時間のズレは殆どありません。所謂瞬間移動ですね。
自身が指定した場所までの”風”の道を作り、そこに入ることで移動が出来るようになるそうです。
実際にやってみましたが、着地時にかなり負担がかかります。自分を強化していたわけでは、ないので……着地できるかどうかは本人の技量任せ。それでも、戦闘では多いに役に立ちそうです。
問題は、私の使える魔法が少ないということ。
アリスさんは魔法適性が高く、多くの魔法を高い等級で使えます。でも私は微妙なようです。今ある魔法だけで、やりきるしかありません。
でも、逆に考えれば一つ一つを練習しやすいということでしょうか。錬度を上げれば、戦闘で優位に立てます。
魔法には等級があり、特級、上級、中級、下級と大きく分けてあります。さらにそこに一段階から五段階までのレベルが設定されていて、特級の五段階目が最高値だそうです。
私の”精錬”と”疾風”は、中級の二,三段階目とのことです。まー、平凡? ですね。上級までは、努力と自分との適性次第であがるようです。最初に使ったときに、どれくらいの等級か。これが適性になるとのこと。
私は”精錬”と”疾風”以外が下級の一段階でした。短い時間しかないのです。使えるレベルのを、強くするしかありません。
特級は、得意魔法です。努力でいけるものではありません。得意魔法だけは、最初から特級ということですね。
つまり私の特級は”強化”、”抱擁”、”光”です。でも現状では、”強化”と”光”以外使えないのです。
「それにしても。”抱擁”がよくわからないよ」
私の三つある得意分野、その一つである”抱擁”。
「わからないから、イメージできない……」
アリスさんも一緒になって考えてくれています。
「”強化”、”光”は問題なく使えましたね。”光”は私と同様に媒介が必要でしたけれど……」
「木刀を持ってないと”光”を使えないから、対マリスタザリアでは、ね」
やはり、”強化”、”精錬”、”疾風”を駆使するしかありませんね。
「わからないものを、考えても仕方ないかな?」
頭を抱えそうになります。でもあまり、時間をかけすぎてもいけません。
分からないことより分かっていることに時間を割く。強くなるには、今はやることが多すぎますから、ね。
「ですか、ね。王国についてすぐ魔王討伐に行くというわけではないのです。ゆっくり、一緒に考えていきましょう」
アリスさんが笑顔で支持してくれます。
「よろしくね。アリスさん」
アリスさんが笑顔で言ってくれるだけで、私の心の靄は霧散するのでした。
移動編。ゆっくり間延びしてますが
尺稼ぎ・・・・ハッ
ナンデモナイデス
長い目で、楽しんでいただけたらな。と思っております。