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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
44日目、荒れるのです
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『オルデク』手広く⑤



 アリスさんがレイメイさんに、勘違いしないで欲しいといった視線を向けています。本当は今すぐにでもアリスさんの方に振り向いて、抱きつきたいのです。私の心はガリガリと削られています。


「れ、レティシアさんを選んだのは……! マリスタザリア化した際に最も変化が強く現れると確信したからです……!」


 漸く話す気になってくれたようです。


「子供を選んでいる理由もそれですか」

「そうですよ……っ。子供は可能性の塊です! 大きな変質を見せた子達は全員優秀でした……! 変質するにもまだ何か理由があるのだと考えたのです……! そんな中で、脳が関係していると思い、一人の子の脳を開けたんですよ! そうしたら前頭葉に大きな変化が見られました……!」


 また、成果の様に語ってきます。でもこのまま怒りに身を任せれば昨日の二の舞。我慢です。


 脳の培養槽はありませんでした。隠しているとも思えません。


「脳は無かったようですけど」

「もちろん生きたままですよ! 何のために麻痺剤を作ったと思っているんですか。検体を減らす訳にはいかないでしょうが!?」


 麻酔で眠らせ、麻痺させ、生きたまま頭を……? 


「前頭葉は簡単に言えば行動を決める機能を有しています。これは人が人で在る為に必要な機能とも言えるでしょう。物事の良し悪しの理解、人との付き合い方、全ては前頭葉が正しく機能しているかにかかっているでしょう。そこが縮み、歪んでいました。その子は、個が大きくなっていましてね。言ってしまえば尊大ですよ。しかし、何でも出来たのです。教えれば一度で物にし、適応する。まさに進化の一端です!」


 専門的な話になり、少し頭がこんがらがります。

 ただ分かる事は、この下衆の前頭葉は無いのではないでしょうか。まともな行動してませんからね。


「その子が見せた変化から、優秀であればあるほどマリスタザリア化が容易になると考えたのですか」

「言ってしまえば、そういう事です」


 アリスさんが、下衆が言いたかったことを纏めてくれました。頭が良いほどマリスタザリアになりやすい、ですか。司祭やエッボ、マクゼルトを思い出します。頭が良いとは思いませんね。私と然程変わりません。やはり単純に、悪意の質と量でしょう。


「レティシアさんを狙ったのはその一点が、私が見た誰よりも優れていたからです。そこで突っ立っている男性よりずっと賢いでしょう」

「分かりますカ」

「殺して良いか?」

「ダメに決まってるでしょう」


 煽る余裕があるようですね。話は終わりましたし、今後の動きをシーアさん達と話し合いましょう。その前に下衆を眠らせましょう。魔王に繋がる一因たる”影潜”は子供達が握っています。連合との関係はコルメンスさん達に伝えるのが一番なので、後は身柄を渡すだけで良いのです。


 アリスさんが私の腰から腕を離してしまいました。アリスさんとしても、もう聞く事はないようです。すぐにでも、下衆の意識を奪いましょう。


「シーアさんは何か聞く事ある?」

「私を襲った理由も知れましたシ、この手の人に王族とか関係ないって分かって勉強になりましタ。お姉ちゃんの護衛に役立てまス」

「欲だけで動いてる人は何をするか分からないもんね」


 用事はないようです。やりましょう。


「リツカお姉さんはお風呂に入ってきて良いですヨ」

「良いの?」

「はイ。ついでに拘束魔法もかけなおしたいのデ、私がやっておきまス」


 そういう事なら、私は身を引きます。率先して殴りたいわけではありません。出来るなら触りたくないですし、触らせたくないです。その点シーアさんならば、魔法で簡単に落とせるので安心です。


「じゃあ、私は先に準備するね」


 アリスさんの手を握り、船に戻ります。やっと、新しいローブを見せてもらえます。わくわくが動きに出てしまいそうです。


「ふふ」

「どうしたの?」


 アリスさんが私の顔を見て微笑んでいます。もしかしなくても、動きに出ていたようです。


「楽しみにしてくれて、嬉しいです」

「うんっ! 早く見たいなぁ」


 お父さんから新しい服を貰った時は、着る服が増えたなぁくらいの物でした。服でこんなに喜ぶなんて、向こうの私が見たら同じ人間に見えないのでしょうね。


「しっかり体洗って、それから着ないとっ」


 アリスさん曰く、まさに仕事着であった今までと違って、少しだけお洒落に出来たとの事です。今までの物も好きです。清楚感が際立っていて、アリスさんに良く合っていました。

 今度は赤い服。アリスさんの白銀の髪が映えそうです。早く見たい!


「ではしっかり洗ってあげますね?」

「うんっ! ぅん?」

「さぁ行きましょう」

「うん!」

 

 着て、見て、楽しむ。ファッションっていうのも、良いですね。アリスさんに体を現れながら、新たな楽しみに心を躍らせるのでした。




「俺も軽く流すか」

「私が洗濯してあげましょうか」

「絶対ぇ断る」


 リツカお姉さんと違って、いつも泥々ですからね。私が洗濯してあげた方が手っ取り早く綺麗になりますよ。


「あァ、町の方で入ってくれば良いじゃないですカ。お願いすれば用意してくれますヨ」

「そうすっかな。どうせ時間かかるだろうしよ」

「何なら連れ込んでモ」

「ねぇよ」


 意志が固いですね。面白みに欠けます。


「上がったら先に子供達の方行っててくださイ」

「あぁ」


 様子を見てもらうっていうのと、護衛ですね。連合絡みってなると、何してくるか分かりません。マリスタザリア化に成功した子供達を連れて行くとかもありそうってもんですよ。


「あのガスも、狙ってそうですね。マリスタザリアにも効くのは、兵器として強力ですし」


 巫女さんに連絡入れて、家の様子を見に行きますか。


「巫女さーン。ちょっと出てきますヨ」

「分かりました。こちらの準備が整ったら向かいに行きます」

「お願いしまス」

「いってらっしゃい」


 お二人相手なら用件を伝えずともこの通りです。さくっと行って確かめましょう。



 町の様子は落ち着いてます。昨夜の盛り上がりが嘘みたいですね。あれが毎日となると、ノイローゼになってしまいそうです。


(これからお店が閉まっていくんですね)


 完全に昼夜逆転という感じです。


「あぁ、ここまでで良いよ」

「えぇ? もうちょっと一緒が良いなぁ?」

「そうかい? じゃああっちで朝食でも食べようか」

「本当? ありがとう! おじ様!」


 ふむ。ああやって食費を浮かせる訳ですね。演技に見えないくらい自然な媚びです。こうやって常連が生まれるんですか。すごい世界です。


「おはよう。レティシアちゃん」

「おはようございまス。徹夜なんでス?」

「レティシアちゃん達が帰った後に寝たから大丈夫よ」


 ドリスさんが店先で紫煙を燻らせていました。お姉ちゃん達とは違った方向で、大人な雰囲気です。


「私は監督役みたいなものだからねぇ。昼から夜にかけて準備と始業を見守るだけなのよ」

「そうなんでス? ドリスさんが接客したほうがお客増えそうですけド」

「あら。褒め上手ね。でも私も結構年だから」

「リツカお姉さんはドリスさんの事、二十代って思ってますヨ」


 リツカお姉さんの世界から見ると、こちらの女性は若くみえるみたいです。


「残念。もう四十近いの」

「私も吃驚でス」

「肌の張りだけは自慢なのよねぇ」


 ドリスさんと他愛のない話をします。朝のご挨拶ってやつですね。


「需要は高いと思うんですけどネ」

「早めに来店してくれたらお相手する事もあるのよ?」


 運が良い人しか相手してもらえないって事ですか。希少価値がありそうです。


「レティシアちゃんは散歩?」

「ちょっとお馬鹿の家に用事がありましてネ」

「あら。お仕事?」

「ちょっとした確認ですかラ、散歩みたいなものですネ」

「巫女様達もそうだけど、働き者ねぇ……。王国兵も馬鹿に出来ないみたいだし」


 すでに、王国兵が検分と移送を買って出る事は伝えています。


「こんなところまで来るなんて思わなかったわ」

「まぁそちらハ、息抜きの面の方ガ」


 貶しているわけではないです。いつもお世話になってますし、こんな時くらいしかこれないオルデクで楽しんでもらうのもいいと思います。


「出来るだけ楽しませてあげて欲しいでス。仕事はしっかりするように連絡しておきますかラ」

「えぇ。任せて頂戴」


 ドリスさんと別れて、再びお馬鹿の家に向かいます。外から見た感じでは、変化はありませんね。


「確かここでしたね」


 巫女さんが調べた場所には、しっかりと液体が並んでいます。


「巫女さん達が来るまで、警備しますか」


 まずは影の確認をして、待機です。収監所の人に、警備してもらったほうがいいでしょうね。



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