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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
43日目、手遅れなのです
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『オルデク』実験⑤



 名前すら知らない生物学者が見えなくなった辺りで、私達も行動を開始します。

 新しく出来た服は、明日お披露目みたいです。早く着てみたかったのですけど、学者が来たのでそちらを優先しました。タイミング悪すぎです。


 さて……愚痴はここまでにしましょう。


「オルデクには、神隠しの被害者が居たね」

「まだ見つかっていないようですから、写真で確認を取りましょう」


 岩山で見つけた子達で、親が不明の子が数名居ます。その中に含まれていれば良いのですけど。


「俺は先に行くぞ」

「いえ、真ん中までは一緒に行きましょう」

「……」

「理由があるんです」


 私達と歩くのは嫌でしょうけど、今回は行ってもらいます。


「中央でリッカさまの広域感知後、『感染者』を連れてきてもらう必要があるのです」

「なので、レイメイさんにはその人の場所を伝えないといけないんですよね」

「二度手間になるので、聞いてから行動を開始してください」

「…………分ぁった」

「すごい嫌そうですネ」


 レイメイさんが本当に不本意といった表情で頷きました。そんなに嫌なんですか。


「ヘンタイさんがもっと大人の雰囲気を出していれバ、親子なり()()()()()()なりに見えたでしょうニ」

「そういったってのはむしろ逆効果だろが……」


 レイメイさんがため息をついて諦めたような顔をしています。確かに、ライゼさんの様にお世話しているといった雰囲気を出していれば、周りからの評価は保護者って思われると思うんですよね。


 ライゼさんくらいしっかり者になるなんて、行き成りは無理でも……落ち着きがあれば、なんとか?

 それよりも、そういった人ってどういう人なんだろう。


「そういったって何だろ?」

「お気になさらず、参りましょう」

「うん」


 どうやら、私は知らなくても問題ないようです。


 今日は意識的に、魔力に頼らない生活を心がけましょう。でも……威嚇くらいなら許して貰えますよね。こういった町なのですから、アリスさんによってくる悪い虫を見過ごす事なんて出来ません。




 昼間という事もあり、準備中のお店が多いです。ここに住んでいる人たちが歩き回ってはいますけど、八割女性ですね。あの学者は、何故オルデクに居を構えているのでしょう。


「お兄さーん。子連れ? こんなとこに来ちゃ駄目よ」

「冷やかしは感心しないわよー」

「仕事の一環だ。こいつらとはそういう関係じゃねぇ!」

「そうなの? じゃあ夜おいでよー。お兄さん格好良いから張り切っちゃうからー」


 町に入るなり、レイメイさんが集中砲火を浴びます。商売前なのに客寄せとは、仕事熱心ですね。この町では、私達よりレイメイさんの方が動き辛いのかもしれません。


「人気者ですネ。鼻の下伸びてますヨ」

「そんなわけねぇだろ…………」


 自身の顔をさり気無く触り、伸びていないか確認しています。流石に、国内唯一の歓楽街で働く女性達です。アーデさん一筋。アリスさん相手でも剣を向けられる無法者のレイメイさんを誘惑しきるとは。


「何でこいつも俺に殺気飛ばしてんだ……」

「レイメイさんが私に剣を向けた時の事を思い出しているんです。絶対に、天地がひっくり返ろうとも嫉妬ではございません。勘違いしないで下さい」

「何でそうなった? つーか手前ぇも殺気を飛ばすんじゃねぇよ……そんなの思ってねぇから止めろ」

「リツカお姉さんの思考の九十九パーセントは巫女さんですシ」


 私の感情の揺れによって、レイメイさんが針のむしろです。申し訳ないと思います。でも、私が私たらしめるのは、アリスさんが居るからです。空虚だった私の全てはアリスさんで出来ています。九十九パーセントなんて生ぬるいです。全てですよ全て。


「中心はこの辺りですね」

「じゃあちょっとだけ」

「ちょっとだけですよ?」

「十秒くらいかな」

「分かりました……」

 

 自分の調子を加味して、広域感知でしっかりと確かめるには十秒かかります。普段ならぱぱっと調べられますし、その上でどういった悪意かまで調べるのですけど……今回はとりあえず、悪意の所在だけ見ます。


(……?)


 見逃した……? いえ、そんなはずは……。


「…………ない?」


 遂に、無い町が来たようです。


「無いなら無いで良いじゃねぇか」

「魔王の力になってると言ってモ、イェラ程ではないでしょうしネ」


 悪意被害がないのは喜ばしい事です。でも、問題なのは……偶に一人か二人、悪意持ちが残っている事なのです。この際、悪意の回収には目を瞑ります。回収した分、使っていると思うのです。


 メルクで出てきた魔王の一欠けら。あれは多くの悪意を使っていたはずです。それは確実に霧散する事が出来ているのです。ならば、一つの町で回収出来る悪意の分なんて、それを補充するための一端でしかないのです。


 だけど、一人二人残す意味はなんですか。私達に何をさせたいのか。それが、謎なのです……。


「そんじゃ、ただの見回りでいいか」

「神隠し被害者だけは見つけておいて下さい」

「あぁ」


 レイメイさんが奥へ向かっていきました。あちらは大人の世界らしく、私は入らない方が良いとの事です。


「うん? お兄さんはお楽しみ?」


 一人の女性が、レイメイさんと二手に別れた私達に話しかけてくれました。


「仕事ですヨ。神隠しっていう事件の調査でス」

「あぁ……カミラの事?」


 神隠し被害者の名前はカミラさんというみたいです。狭い町で起きた不可思議事件。やはり、有名なようです。


「預かり所から忽然と消えた子とお聞きしてまス」

「えぇ。その子よ。えっと、兵士さんには見えないけど」

「こういう者でス」

「あら、冒険者? 可愛い子達なのに……強いのね」


 シーアさんが、選任冒険者の証書を見せます。この町でも一応、身分証として有効みたいです。


「つかぬ事をお聞きしますけド、”巫女”ってどう思いまス?」

「うん? すごく美人って話ね。商売敵にはならないでしょうし、頑張ってって感じかしら」

「ふム」


 直接的すぎですけど、まさか目の前に居る人の話をするとは思わなかったのか、首を傾げるだけです。


「王都から来る客は、絶対に巫女の話をするわね。一生触れる事はないだろうけど、是非お相手をーとか」

「……」

「あ。ごめんなさいね? 子供に話す事じゃなかったわね」

「いエ」


 シーアさんが頬を膨らませて非難の目を浴びせました。女性はクスクスと笑って頭を撫で、謝罪しています。子ども扱いされるようにと、子供っぽい仕草を見せたシーアさんでしたけど、頭まで撫でられるのは不本意だったようです。少しむすっとしてます。


「すごく美人ってどんな子なのかしらね。後ろの子達みたいな?」

「まァ、そんな感じじゃないですかネ。噂では天使らしいですヨ」

「じゃあ貴女達皆巫女ね」


 流石の接客トークと言いますか。取り留めの無い話でも楽しげに相手をしてくれます。


「カミラの話だっけ?」

「はイ。どちらにいらっしゃいまス?」

「塞ぎ込んじゃって、家に篭りっきり。案内してあげるわ」

「ありがとうございまス」


 カミラさんという方の家に案内してくれるようです。そういえば、ここの子だけ……神隠しの方法が違うんでしたね。その辺りも含めて、しっかり聞きたいです。


「そうそう。暇があればあのお兄さん、お店に呼んで欲しいわ。あの手の子、中々お目にかかれないから」

「夜まで滞在するかは分かりませんけド、その時はお店に突っ込み入れまス」

「あはは。ありがとね」


 レイメイさんの何処が琴線に触れたのか、お店の女性皆に人気のようです。先程も、全員に声をかけられていました。


「お姉さんは、カミラさんに起きた神隠しについて何か知りませんか?」

「あら……声も綺麗ね。どう? うちで働かない?」

「私達は未成年なので、遠慮しておきます」

「未成年だったの? 見えないわね……」

「良く言われてまス」


 アリスさんが少しだけ不機嫌そうに拒否してくれました。どういう仕事風景なのかは気になりますけど、働きたいとは思えません。男性と、理由も無く長々と話すのは苦手です。というより、敵視してしまって仕事にならないでしょう。


 それにしても、商魂逞しいというのでしょうか。まさか店員として勧誘されるとは思いませんでした。相手は”巫女”に不快感を抱いていないのですから、この際バラした方が良いのではないでしょうか。尋ねる度に勧誘されたら溜まりません。


「もしお二人が”巫女”だったらどうしまス?」

「んー? どうもしないわ、よっ……て、まさか?」

「余り、言いふらさない方向でお願いします」

「それは、構わないけど……へぇ、確かに……男が放っておかないわね」


 最初に話しかけたのが、この方で良かったです。もしかしたらこの町ではこの方のように、おっとりとした優しい方が殆どなのかもしれませんけれど……。最近のごたごたの所為で、少し過敏になってしまいます。


 こうやって、受け入れてくれる人も居るのです。こちらから嫌っては……いけませんね。初心に帰りましょう。冒険者ではなく、”巫女”じゃないと出来ない事はたくさんあるのですから。



ブクマありがとうございます!

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